峠の噂
フェルンは市で、ハルヴェのやり方を真似た村の話を聞いたという。共同鍋と当番表を同じように作ったが、食料を持ち寄れない家を責める者が出て、すぐやめたらしい。ベルクは気落ちし、ミラは詳しい事情を聞かずに判断できないと答えた。
フェルンはその村の名を知っていたが、直接見たわけではなかった。市の商人が何人も同じ噂を話し、聞くたびに内容が変わっている。ミラは帳面へ「未確認」と記した。誰かの失敗を遠くから数えることで、ハルヴェの暮らしがよくなるわけではない。
サラは共同鍋が始まった日のことを話した。持ち寄れる物が少ない家がいるから、誰が何を出したかの表は本人の了解を得て作った。食事の量も初めから同じではなかった。仕組みの形だけ似せても、人が何を怖がっているかを知らなければ続かない。
隣村グレサから来たユナは、自分たちの村で薪の配分が揉めたことを教えた。そこで持ち寄る料理を週に一度だけにし、薪を提供できる家から始めているという。ハルヴェと違う形でも、温かな食事が増えればよい。ミラはその話を聞き、安心した。
フェルンが去った後、サラは鍋を洗いながら昔の口論を思い出した。最初の持ち寄りで芋を多く出した家が損をしたと怒り、火を消しかけた夜があった。ベルクが一軒ずつ話を聞き、配分を決め直すまで続かなかったのだ。ミラは村の今だけを見て簡単だったと思われるのが、少し怖かった。
夕方、広場の鍋から湯気が上がった。今は鍋が小さく分かれ、それぞれ別の家で火に掛けられている。それでも食べ物は必要な場所へ届いていた。ミラは別の村へ正解を配るつもりはなかった。人の暮らしに合う形を見つけるのは、そこに住む人たちだった。




