火事にならなかった夜
乾いた風の吹く夜、レアの仕事場から焦げた匂いがした。灯の近くに置いた糸くずへ火が移りかけていたのだ。リネが気づき、濡れ布で押さえて消した。火は広がらなかったが、布の端が黒く焼けた。レアは震える少女の手を包み、怪我がないか確かめた。
知らせを聞いたギルは、灯の位置を変えるよう頼んだ。針仕事には明るさが必要で、遠ざけると目を痛める。ニーナは反射板に使える磨いた金属を探し、セランが小さな台を作った。明るさを保ちながら、火と布を離せるか何度も試した。
ベルクは村の火事を思い出した。十年以上前、乾燥小屋が燃え、隣の家まで被害が及んだ。以来、広場の水甕は欠かさず置いてきたが、最近は洗い物にも使われて減っていた。ミラは緊急用の甕に印を付け、別に日常用の水桶を用意できるか相談した。
リネは「私がもっと早く気づけば」と繰り返した。レアは火を消したことより、危ない位置へ灯を置いた自分の責任を話した。少女一人へ事故の責任を負わせないためだった。ミラも頷き、夜の仕事をする時は必ず誰かが灯を確かめるよう頼んだ。
ベルクは古い火事で失った家の跡へミラを連れて行った。今は草が伸び、土台の石がわずかに残るだけだ。住んでいた一家は別の村へ移ったという。村を守ることは、燃えてから建て直す力を誇ることではない。火の前にできる小さな用心を、明日も欠かさないことだとベルクは話した。
翌晩、仕事場の窓からは同じように明かりが漏れた。机の上の布は灯から離され、濡れた布と水桶が手の届くところにある。村では火事が起きなかった。けれど何も起きなかった日に決めたことが、次の危険を小さくするかもしれなかった。




