聖人クリム
オルトリンデはクリムが仕える神殿にやってきた。
クリムが神殿の外で信者達と笑顔で話している。
オルトリンデが近づくと、クリムが気付く。
「やあ!オルトリンデ!久し振りだね!」
クリムが手を振りながら、大声で声をかける。
「クリム、久し振り!」
オルトリンデが手を振り返す。
「今日はどうしたんだい?」
「相変わらず大人気だね、クリム」
「悩める人々を導くのが私の仕事だからね」
「少し話せる?」
「ああ、かまわないよ、お茶でも淹れるよ」
「どうぞ」
クリムはオルトリンデを神殿の談話室に案内した。
「ありがとう」
「最近、他の連中に会ったかい?」
クリムがテーブルの椅子に腰かける。
「この間、レオに会ったわ」
オルトリンデも腰をかける。
「元気にしてたかい?」
「ええ、何不自由なく暮らしてるように見えたわ、フフフ」
「アイツはそうだよな」
「峡谷攻防戦で勝利を収めたけど、まだ魔物が全滅したわけじゃないのに、英雄なんて呼ばれても強くなる訳じゃないしね、まあ、平和を堪能するのもいいんじゃない」
「フッ、お前らしいな」
「実は、今のうちに11英雄の回顧録を書こうと思ってるのよ」
オルトリンデが魔導具を出して、クリムに本題を切り出した。
「回顧録?なんでまた?」
「みんなのこと、記録に残したいの」
「そんなことなら、学者が歴史書に残すだろ?」
「そういうのとは違う、皆の素の部分を残したいの」
「・・・俺たちの内面に、土足で踏み込むつもりか?オルトリンデ」
「そんなつもりで言ってるんじゃなくて・・・」
オルトリンデの話を遮って、クリムが割って入る。
「そういえばお前、戦争中、戦いもせずウロチョロして何か見てたよな?」
急にクリムの表情が険しくなる。
「いやぁ~、戦争苦手だからパニクっちゃって」
「見てたのか?」
「な、なにを?」
「お前、俺をゆする気か?ひょっとしてレオんとこにもゆすりに行ったのかよ!」
「どの事を言ってるのか知らないけど、いくつか見たよ、アンタのとんでもない行為」
オルトリンデはクリムの目を真っすぐ見据えた。
「なに!?」
「相手を選んで治療してたよね〜」
「そ、そりゃあ、ケガの具合とか、色々見極めてだな」
「そうだっけ?他にもあったわ、死んだ兵士から物盗んだり、女の神官に無理矢理・・・」
「やめろ!てめぇ!そうやって、レオからいくらせしめやがったぁ!」
クリムが立ち上がって、オルトリンデの胸ぐらを掴む。
「告発する気も、ゆする気もないわ、ただ、私に出来るのは、聞くことだけだから」
「回顧録も300年後に公開予定だし」
「お前、神官に説教かよ・・・」
クリムはオルトリンデの服から手を離した。
「違うわ、話して楽にならないなら、今日は帰るわ」
「・・・戦争中でも、貴族を優先しないと、どこかで見られてたら、後が怖い・・・」
「盗んだのも、女に手を出したのも、正気じゃいられなかったからだ!」
「うんうん、そうだよね、周りは死体だらけで、いつ死ぬかって恐怖も襲ってくるしね」
「レオは、見て見ぬふりだった・・・お前が来た時、正直怖かった」
「ごめんね、怖がらせて」
「レオがいつも言ってた、オルトリンデは人間じゃないと」
「ハハハ!人間よ、普通の」
「お前、凄いんだろ、次何かあったら助けてくれよ〜」
クリムが目を潤ませて、すがるような表情を浮かべた。
「そうね、次に戦争が起こったら、頑張ってみるわ」
オルトリンデは出されたお茶を一気に飲み干した。
「突然お邪魔して、悪かったわね。」
「また来るから、ちゃんと人々を導くのよ」




