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もう一球

 正月。


「は!? なんそれ!?」


 思わずスマホへ叫んでいた。

 彼から、とんでもないメッセージが届いたからだ。


〈新春トーナメント、エントリーしたよ〉

〈誰が出るん?〉

〈僕と中牟田さん〉


「なんで!?」


 思わずスマホを睨みつけた。


〈ちょっと待って。私、出るって一言も言っとらんよね?〉

〈うん〉

〈うん、やないと!〉


 すぐに既読がつく。


〈本当は、おじいちゃんと出る予定だったんだけど、ぎっくり腰になっちゃって〉


「長政さん……」


 ぎっくり腰の話は、昔から何度か聞いていた。

 そのたびに、お店で出されるものは軽食になる。

(大丈夫かな……)

 私の心配をよそに、彼からは詳しい事情が送られてきた。

 話を聞けば、いわゆる草トーナメントらしい。

 長政さんの代わりを探したものの、他の候補はことごとく都合がつかなかったという。


〈小永吉先輩は?〉

〈部活の人達と出かけるらしい〉

〈弥生は?〉

〈家族旅行。あと、まだルールが分からないって〉

〈それで、なんで私なん?〉


 少し間があった。


〈一緒に出たかったから〉


「……」


 ずるい。

 でも嬉しい。


〈私、まともに試合とか無理やけんね〉

〈無理しなくていいよ。僕が走るから〉

〈ダメ。無理したらいかんっちゃろ?〉

〈無理のない程度にするから。お願いします!〉


 八月に少し打った。

 弥生の練習にも付き合うようになった。

 それだけだ。

 試合に出るなんて、考えてもいなかった。

 それからも、散々文句を言った。

 断る理由だって、いくらでもあった。

 なのに。

〈わかった……何時集合?〉

 送ってから、私はベッドへ倒れ込んだ。

〈9時!〉

〈モーニングコールおねがい〉

 了解のスタンプ。

 私は枕に顔を押し付けた。

 *

 ラウンドロビン。

 最初の私は、

 ダブルフォルトをしない。

 リターンを返す。

 彼の邪魔をしない。

 それだけだった。

 それでも、勝つ。

 勝ってしまう。

 彼が、全部やってくれる。

 正直、面白くない。


(こげなふうにコートに立つんは……なんか違う)


 そんなとき、優勝賞品を知った。


「絶対、優勝するばい!!」


「え!?」


 そこから私は変わった。

 ――夢つくし十キログラム

 米のため。

 最初は、本当にそうだった。

 でも。


「よしっ!」


 ポイントを取る。


「次!」


 ミスをして腿を叩く。


「ナイス!」


 彼とハイタッチする。

 悔しい。

 嬉しい。

 次のポイントを取りたい。

 もっと打ちたい。

 もっと勝ちたい。


(……)


 忘れていた。

 こんな感覚。


 決勝。

 5-5。

 40-40。

 この大会の特別ルール。

 次の一本が最終ポイント。

 つまり、互いにマッチポイントだ。


 浮いた球。

(え!? どげんしよう!)

 迷った瞬間に身体が硬直した。

 私は取られにくい角度を狙って中途半端なスイングでスマッシュした。

 そして。

 ネットした。


「ま、まぁ準優勝も悪くないよ」


「……テニスは、好かん」


 クラブ玄関で、父の迎えを待つ。


「……やけど」


 手には、まだインパクトの余韻がある気がした。

 悔しかった。

 もう一球、打ちたかった。

 しっかりスイングしたかった。


「また、出てもよかよ」


「うん!」


 彼の顔が、ぱっと明るくなる。

(……なん言いようと、私)

 それでも。

 口にしたことを、撤回したいとは思わなかった。


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