猫と恋愛とパフェ
十二月。
冬休み。
弥生と彼と三人で、キャナルシティへ遊びに来た。
館内は人が多く、どこを見ても家族連れやカップルばかりだった。
弥生が映画の上映時間を確認している横で、私は彼と並んでポスターを眺める。
「これ、面白そうやない?」
「猫?」
「猫」
でかでかと描かれた猫を指差した、その時だった。
「甘露寺?」
聞き覚えのある声に振り返る。
「……先輩」
「なんでおると?」
「それ、こっちの台詞です」
偶然、小永吉先輩と出会った。
そして数分後。
「甘露寺、これ観るぞ」
「え?」
「猫ぞ。絶対面白いやろ」
「嫌いじゃないですけど、いま他の――」
「よし、行くぞ」
「え!? ちょ、ちょっと待ってください!?」
半ば引きずられるように、彼が先輩に連れていかれる。
「……行ってらっしゃい」
私は少し眉間に皺を寄せ、弥生は笑いながら手を振った。
結局、私と弥生は恋愛映画を観ることにした。
映画が終わり、再び四人で合流する。
「猫、どうやった?」
「可愛かった」
「やろ!?」
なぜか先輩が得意げに胸を張る。
「で、そっちは?」
「面白かったよ」
弥生が答える横で、私は曖昧に頷いた。
恋愛映画の内容より、途中から隣に座っている弥生の方が気になっていた。
十月のことを、ふと思い出したせいだ。
「腹減ったな」
先輩が館内の案内板を見上げる。
「ラーメン食いたい」
「あ、私も」
弥生がすぐに乗った。
さっきまでの乙女の顔は、どこへやら。
「栞は?」
「今はラーメンの気分やないかなぁ」
そう答えると、隣で彼も頷いた。
「じゃあ二手に分かれるか」
先輩があっさり言う。
「あとで合流すればよかろ」
と、弥生が付け足す。
そうして。
私と彼は、イタリアンへ向かうことになった。
店に入り、向かい合って席に着く。
「何にする?」
「僕、これかな」
彼がメニューのパスタを指差す。
「じゃあ私は、こっちのピザにしよ」
「シェアする?」
「よかよ」
しばらくして、店員さんが注文を取りに来た。
「このパスタと、マルゲリータをお願いします」
「かしこまりました」
店員さんが注文を書き留める。
そして、ふと思い出したように顔を上げた。
「お客様、本日はカップルのお客様限定のパフェがおすすめとなっております」
「あ、でも僕達――」
「それ頼もう。お願いします」
「かしこまりました」
店員さんは、微笑んで去っていく。
残された私達の間に、妙な沈黙が落ちた。
「あの、僕達……」
「君が最初に『彼氏です』って言ったっちゃないね」
「あれは……」
「嘘つくんは、いかんっちゃろ?」
「……」
ふと、あの時の弥生の声が頭をよぎった。
『焦れったかねぇ』
胸の奥が、少しだけ痛む。
それでも。
「……本当にしてもよかやん」
言ってから、心臓が跳ねた。
彼は耳まで赤くなる。
「僕で、いいの?」
「まだ決めとらん」
「ええ!?」
「だから、これから決めると」
「うん……」
私は手元のコップへ目を落とした。
「君がどげな人か、もっと知ってから」
彼は少し笑った。
「分かった」
その笑顔が、妙に嬉しかった。




