三人模様
十月。
弥生が本格的にテニスを始めた。
広い春日公園には、穏やかな時間が流れていた。
「栞、追いかけんね!」
「どこ飛ばすか分からん球ば、全部追えるか!」
少しずつ踏ん張れるようになってきた右脚が、もう悲鳴を上げている。
「古賀原さん、距離短くしようか」
「うん!」
(その手があった)
二人がサービスラインの辺りまで近づいて、ショートラリーを始める。
私はベンチへ腰を下ろした。
喉も渇いている。
「飲み物買ってくるけど、二人ともなんかいる?」
二人の注文を聞いて、自販機へ向かった。
戻ってくると、二人はコートから出て、藤棚の下のベンチにこちらへ背を向けて並んで座っていた。
驚かせようと、忍び足で近づく。
「甘露寺くん」
弥生の声が聞こえた。
「栞のこと、気になっとっちゃろ?」
「いや、その……」
「好いとうと?」
「……」
沈黙。そして、
「最初に会った時から、気にはなってた」
「ふぅん」
「でも……好きっていつからなのかは、自分でも分からない」
私は飲み物を抱えたまま聞き入る。
「じゃあ、はよちゃんと考えんと、誰かに取られるかもしれんばい」
「え!?」
弥生が笑う。
「焦れったかねぇ」
「う、うん……」
冗談めかした声だった。
でも。
私の胸は、なぜか痛んだ。
焦れったい。
その言葉が弥生の口から出てきたことが、居心地悪かった。
(弥生……)




