磁石のように
数週間後。
祖母から電話があった。
「なんか困ったことはなかねって、お祖父ちゃんが聞けって言うとよ」
「なんでお祖母ちゃんに言うと?」
「恥ずかしいっちゃろ」
祖母の笑い声が耳元を心地よくくすぐる。
そうして学校の話をしているうちに、ふと彼の名前を出した。すると、横で聞いていたらしいお祖父ちゃんが電話を代わった。
「長政んとこの孫たい」
「長政?」
「甘露寺長政。昔からの悪友たい」
話を聞いて驚いた。
彼の祖父は、私達のマンション一階にあるレストラン〔Le.repos〕のシェフ兼オーナーだった。
私は小さい頃から、そこで何度も夕飯を食べている。
お父さんが店で忙しい夜も。
迎えが遅くなる夜も。
長政さんと奥さんの綾乃さんは、私を自分の孫みたいに可愛がってくれていた。
――栞ちゃん、デザートばい
そう言うのは、いつも綾乃さんだった。
長政さんはというと、厨房の奥からこちらを一度見るだけで、何も言わずにまた手を動かしていた。でも、私の皿だけ少し多かったり、父の迎えが遅い夜には温かいものが一品増えていたりした。
口数は少ないのに、不思議と放っておかれている感じはしなかった。
(あの人達の……孫?)
さらに、祖父と長政さんは幼馴染で腐れ縁みたいな関係らしかった。
彼の一家が東京から福岡へ移ってきたことも、長政さんから「孫を頼む」と相談されたことも聞いた。学校のコートについても、彼が時々使えるように祖父が手配していたらしい。
ようやく、彼が筑清学園にいて、あのコートを使っていた理由が分かった。




