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第6話 元婚約者は、私の返事を聞かない

 屋敷で最後に出席する集まりは、王都の庭園会だった。

 公爵夫人として招かれている。行かない選択もあったが、私は、自分で行くと決めた。

 離婚の予定は、必要な相手へ伝え始めていた。

 外で何を言われても、その場で自分の返事をしたかった。


 アルマンに会ったのは、花の回廊だった。


「聞いたよ。今度は、公爵とうまくいかなかったのか」


 彼は、懐かしい顔で笑った。

 私は、その顔を昔、よく知っていた。


「婚姻を終える予定です」

「君は、変わらないな。いつも、話が事務的だ」


 私は、彼の手にある本を見た。

 背表紙を、指で反らせている。

 まだ、その癖があるのか。


「その本は、あまり大きく開かない方が」

「そういうところだよ」


 彼が笑った。


「次の相手が見つからないなら、相談には乗る。君の気難しさは、俺が一番分かっているから」


 以前なら、私は礼を言ったかもしれない。

 知ってくれている人がいると、安心したかもしれない。


「相談は、お願いしません」


 彼が、眉を上げた。


「次の相手より先に、仕事と部屋を見つけましたので」

「貴族の娘が、店へ?」


 声が大きくなった。

 近くの人が振り向く。


「暮らしが苦しいなら、公爵へ言った方がいい。冷たい男だとは聞くが」


「私の仕事を、私がやりたいこととして受け取ってください」


 彼は、私の言葉を聞いていなかった。

 その視線が、後ろへ向いた。


 アルヴィンが、回廊へ入ってきた。

 私の隣へ立つ前に、一度、こちらを見た。

 私は頷いた。


「公爵。離婚とは、ずいぶん早いですね。彼女は昔から、少し」


「リーナの話は、彼女がします」


 アルヴィンの声は、静かだった。


「私の話をするなら、私へ尋ねてください」


 アルマンが、笑みを作り直した。


「では、なぜ離婚を? 愛するつもりはないとおっしゃったそうですが」


 近くで、扇が一つ止まった。

 私は、夫を見た。

 心の声は聞こえない。

 離婚届は、屋敷に置いてきた。


「私が、考えの足りないことを言った」


 アルヴィンは答えた。


「そして、彼女の話を聞くより、自分で決めた方が楽だと思っていた。そのために、一人にした」


 彼は、私へ視線を向けた。


「今から、その言葉をなかったことにはできない。婚姻を続けるよう、彼女へ強いることもしない」


 私は、息を吐いた。

 公爵の妻として守られたのではない。

 自分の話を、自分でしてよい場所ができた。


「それから、彼女の話は面白い」


 アルヴィンが付け加えた。


「その本の背を壊す前に、一度聞けばよかったと思う」


 私は、慌てて口元を押さえた。

 笑いをこらえるのに、失敗した。


 アルマンは、何か言いかけた。

 でも、私たちは別の人へ挨拶をするため、その場を離れた。

 彼の返事を、最後まで待つ必要はなかった。


 帰りの馬車で、私は尋ねた。


「面白いと思ってくださったのは、帳面ですか」

「それも」


 今度は、続きがあった。


「君が、好きなものを話すときの顔が好きだ」


 私は窓へ向いた。

 夕暮れの色が、顔を隠してくれたらよかった。


 家を出る日まで、あと十日だった。

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