第10話 返事は、こちらへお願いします
二度目の結婚式は、一度目より小さかった。
親戚の顔色を見て招待状を書くことは、しなかった。
両親。メアリ様。エダさん。屋敷の人たち。
祝ってほしい人へ、自分たちで声をかけた。
式の前、神殿の窓口へ書類を出した。
あのとき説明してくれた女性が、私を見て、少し驚いた。
「お二人で、もう一度」
「はい」
私は頷いた。
女性は、祝いの言葉をくれた。
「前の婚姻の申し立て用紙は、新しい婚姻には使えません。記録が別になりますので」
「分かりました」
彼女が、見本を渡してくれた。
説明は、まだ裏にあった。
私は、文具店で作った小さな札を出した。
「こんな添え紙はいかがでしょう。記入前に、祝福について分かるように」
女性は、それを読んだ。
係の責任者へ相談してみると言った。
採用されるかどうかは、まだ分からない。
私は、それで十分だった。
式では、アルヴィンが自分の声で誓った。
「君を愛している」
私は笑い、少し泣いた。
最初の言葉を、ただ裏返したのではない。
その言葉へ至るまでを、私は知っている。
「私も、あなたを愛しています」
メアリ様が、隣にいた私の母の手を握った。
エダさんは、店へ帰ったら話すことが増えたと言っていた。
私は、屋敷へ戻った。
前と同じ部屋ではなく、二人で家具を選んだ部屋へ。
自分の机は持ってきた。
仕事へ通う日は、町へ出る。
アルヴィンが領地へ行くとき、同行するかは、予定を見て決めた。
よく話すようになったからといって、彼の言葉が全部滑らかになるわけではなかった。
ある夕方、私が店で作った帳面を見せると、彼は長く黙った。
「何か、不都合が?」
「いいや」
「では、どうでしょう」
彼は、机の白紙へ手を伸ばした。
私は笑い、ペンを渡した。
君が、これを作っているところを見たい。
そう書いて、彼は顔を上げた。
「今のは、褒めたつもりだった」
「では、そう言ってください」
「よくできている。君が考えた角も、好きだ」
私は、彼の肩へ額を寄せた。
その声が、好きだった。
古い離婚届の控えは、箱にしまってある。
捨てなかった。
あの紙がなければ、この人の泣き声を知らなかった。
ただ、それだけでは、二人の暮らしは変わらなかった。
家を出ると決めたこと。
出ても、また会いたいと思ったこと。
会うために、尋ねて、返事を待ったこと。
箱の中には、もう一枚、薄い紙がある。
アルヴィンが、離婚届の裏へ書いた最初の返事を、控えに写したものだ。
出発日について、再考の余地はあるか。
その下には、あとから彼が書き足した言葉。
理由は、雨ではない。
私は、その一行を、何度見ても笑ってしまう。
夫が、私の手から箱を受け取った。
棚へ戻し、こちらへ向き直る。
「リーナ。明日は、早く帰れそうだ」
「私もです」
「庭を、一緒に歩きたい」
私は、両手を広げた。
「返事は、こちらへお願いします」
彼が、私を抱きしめた。
今度は、紙の裏へ何も書かなかった。
完




