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二貂理の日記帳  作者: 二 貂理
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3ページ目 呼び方

 ピピピピッ、ピピピピッ。そんな音が鳴り、目が覚める。無理に起こされた不快感はあるものの、体感として十分に寝たのは間違いない。と言うか、普段以上に寝ている気がする。地面……床に出て、前足後ろ足をついて伸びを一つ。スッキリさせてから、寝床を見た。段ボールとか言うものにタオルとか言うのを詰めたそれ。快適にもほどがあったのだろう。

 改めて入って丸まろうかとも思ったが、1度消えた音が再び鳴っている。寝るに寝られない。仕方なく、音の方へ歩く。グースカ寝ている人間の横に、それはあった。

 ……どうすれば止まるんだろう、これ。分からない。よし、面倒だし起こすか。

 寝ている人間の上に乗り、顔を前足で叩く。テシテシ。


「なに……」

「キュイ」


 あ、イタチの姿なの忘れてた。人間の言葉を発するため、変化する。


「あ……」

「おい、人間。うるさい」


 改めて、顔を手でテシテシしつつ。苦情を入れる。


「夢じゃなかったか……化けイタチさん?」

「なんだ、人の顔も見ずに」

「昨日言った通り、お願いなんで人の姿の時は服を……」

「あ」


 頼まれてたのに、すっかり忘れてた。


 =○=


「さて、化けイタチさん。確認なんですが」

「分かってる、昨日決めたことだろう?」

「それでも、確認はさせてください」


 心配性か何かか、コイツ。


「日中は静かにする」

「はい。下に家族がいるので、バレないようにしてください」

「了解した。いざとなれば、何か物に化けてやり過ごす」


 めったに上がってくることはないそうだが、人の気配を感じたらそうしてやり過ごそう。そう言うことになった。


「次。部屋にあるモノは基本好きにしていい」

「はい。ただし、電気を付けたり音の鳴る……これとか、あれとかは触れないでください」


 言いつつ指さされた、パソコンと言うものとテレビと言うもの。リモコンとやらを押せばつくらしいそれを覚える。片方は違ったか?まぁ触れなければいいか。


「マンガとかラノベは興味があって暇だったら読んでくれていいですし、他は特に何もないですけど、ご自由に」

「勉強用に読ませてもらう」


 正直この手では読み辛いのだが、まぁそれにイラついたらやめればいい話だ。何も問題はない。


「で、最後。ごはんはとか飲み物は冷蔵庫……あの箱の中にある、薄めの箱のヤツです。スプーンもついてるので、それで食べてください」

「感謝する」


 人間は凄い。エサをあっさり譲り渡すし、保存まで可能とは。こうしてみるとペットたちは、ある種の勝ち組だな。


「いやまぁ、そんなに気にしないでいいですけど……そもそも、本当に人間のモノで大丈夫なんですか?」

「問題ない。この姿の時は人間の食べ物が合うらしい」

「らしい、って」

「私もこうなった時に知ったんだ。仕方ないだろう」


 化けイタチになった時、何故か分かっていたことの一つ。つまり、なんでかは分からないけどそういうこと。この姿の時は人間の食べ物が、イタチの時はイタチの食べ物がそれぞれ合うのだ。

 ……あ。


「もしかして、イタチの食べ物、とかあるのか?」

「イタチ用……フェレット用ならありそうですけど」


 フェレット。イタチの仲間だというそれ。つまり、イタチ用だろう。


「えっと、食べたいんですか?」

「是非」

「じゃあ、買って帰りますね」


 ペットショップにあるよな、などと口にする人間。分かったこととして、ひとまず食いでには困らなさそうだ。


「そして最後に、変化以外の妖術禁止」

「はい。単純に危ないので、やめてください」

「分かった」


 別に、使ったところで何か助かるようなものでもない。使わなかったものを使わないだけの話だ。


「以上を守ればペットとして迎えてくれる、でいいんだな?」

「ペットではなく同居人がいいんですけど……」

「人じゃないのに同居人はおかしいだろう」


 私はイタチである。人ではない。つまり、同居人ではなくペットということになるわけだ。家畜になる趣味は無いし。


「その辺りの認識はまた話し合いましょう」

「話し合うも何も」

「話し合いましょう。少なくとも、見た目年下をペットにする趣味は無いので」


 そこまで言うなら、どうせ時間はあるから話し合おう。しかし、


「イタチだぞ、ほれ」


 ボフ、と人間の顔に変化しきれていない手を当てる。毛むくじゃらの、危ないから爪だけ引っ込めた手。ほれほれ、と何度かやっていると、流石に払いのけられた。


「だとしても、です。こうして会話が出来てるのにペットとか、歪んでます」

「そういうものか」

「そういうものです。……そう言えば、いくつなんですか?」

「いくつ?」

「歳です。あんまり女性に聞くことではないですけど」


 あー……


「知らん」

「知らんて」

「そうは言うが、な」


 これにはちゃんとした理由がある。


「イタチが自分の年だの生まれた日だの、覚えてると思うか?」

「……それはまぁ、確かに」

「だから、気にしなくていい。どうしても気になるなら、上でも下でもないと思えば楽だろう」

「それはそれで問題が……」


 あるのか。難しいな。


「はぁ……ひとまず、置いときましょう。もう時間もないですし」

「そうか。行ってらっしゃい」

「はい。行ってきます」


 荷物を持ち、部屋を出ていく人間。手を振って見送ってから、さてと悩む。隠れて過ごしている以上、音を立てるわけにもいかない。ムダに広いから多少は大丈夫と言っていたが、それはそれ、これはこれだろう。


「……本、読むか」


 極限まで爪を引っ込めて、何冊か抜き取る。面白いかは分からないと言っていたが、読むのが辛いようだったら寝てしまえばいいだろう。正直、延々と文字を目で追ったところで何が楽しいのやら、ではあるし。


 =○=


「めちゃくちゃ面白いな、小説」

「そこまではまりましたか」


 なめてかかったことを謝りたいくらいには、面白かった。


「でもよかった。サブカル系が行けるなら、しばらく時間は潰せそうですね」

「そこそこの数あるしな」


 多い方なのか少ない方なのかはわからないが、それなりの数があるように見える。このイタチの手で読むペースを考えると、まぁしばらくは時間を潰せるだろう。


「好みに合う合わないもあると思うので、何だかなー、ってなったら次に行っちゃえば」

「分かった、そうさせてもらう」


 何にせよ、これだけの冊数があるのだ。全力で楽しませてもらうしかないだろう。日中音を出せないとなると、そうして過ごす他ない。


「読みやすさで言えば漫画の方がいいと思いますけど」

「あれもあれでよかった。ただ、好みは小説だな」

「なるほど……じゃあ、ここにあるのを読み終わっちゃったら、電子で持ってるやつか、いっそネット小説を漁るのも手ですね」


 電子。ネット小説。


「なんだそれは」

「あーっと……今そこにあるの、全部紙じゃないですか」

「紙だな」

「かさばるじゃないですか」

「本棚、デカいからな」

「本音としてはもう一セット増やしたいです」


 まだ増やすのか、コイツ。


「と、それは置いといて。電子書籍って言うのは、それをデータ……こう言うので見られるようにしたものです」


 そう言って一枚の黒い板を取り出す。


「薄い本か?」

「いえ、大体本棚の……ここからここくらいの量があります」


 今日読んだ量の何倍だそれは。


「そんなにその中に?」

「はい。正直風情と言うか、読んでる感は無いんですけど……便利なので、つい」


 言いながら板を開き何やら触れる人間。何をしているのか気になって隣から覗き込むと、そこには確かに小説が。


「こうして指でスライドするとページをめくれて、中身を読んでいけるんです」

「ふむ」

「読み終わったらここを触ると本棚に戻るので、スライドしたりして読みたいものを探して、こんな感じでタップすると開けます」


 それがあるのになんでわざわざ紙で揃えているんだろうとは思うが、まぁ気にしない方がいいのだろう。


「その本、紙でも持ってないか、お前」

「まぁそう言うこともあります」


 そう言うこともあるのか。何故二つ持ってるんだと思わないではないが、そう言うことなら仕方ない。


「どれ」


 と、気になって仕方ないので横から手を伸ばす。傷つけないよう爪を引っ込めて板の表面を触り、横へスライド……


「……反応しないな」

「反応、しませんね」

「ふむ……ちょっと貸してくれ」

「どうぞ」


 受け取ったそれを膝の上に乗せ、服をまくって肘を出す。この辺りは人間のそれになっているのでどうにか肘で画面を触ってみると、


「反応したな」

「反応しましたね」

「つまり、人間にしか反応しない、と」

「いうことなんでしょうか……」


 その辺り詳しくないのか歯切れが悪いが、少なくともイタチの手では反応しないらしい。つまり私には使えないということなので。


「まぁ、いずれ変化が上手くなれば使えるだろう」

「あ、それ上手い下手の問題なんですね」

「それだけだ。……なって少ししかたってない、新米だぞ?」


 何なら人間の姿になるたびに手足の獣になっている範囲も身長やら体重やらも、毎回変化している。安定しないのだ、どうにも。この量が読み終わるころには、きっと安定する。


「それで、ネット小説というのは?」

「あー、ぶっちゃけ種類としては電子に近いです」


 言いながらパソコンの前に移動する。とりあえずついていくとちょっと右側を開けてくれたので、そこに座った。


「ということは、今の私には読めない?」

「んー、その手だとキーボードとマウス動かすの、難しそうですしね……」


 結局のところ、私が楽しむためにはまず変化の腕を上げなければならないらしい。まぁ人間の使う道具だ、人間が使いやすいようになっていること自体は納得である。仕方ない、頑張ろう。


「電子との最大の違いは、書いてる人がむっちゃ幅広い、ってことでしょうか」

「幅広い?」

「はい。プロとして文字を書いてる―――それこそ今日化けイタチさんが読んでたようなモノを書いてお金をもらってる人から、別に何かやってるわけでもないド素人まで。まぁ色んな人が書いてます」


 よく分からないが、なにやらメチャクチャな世界であることだけは分かった。


「大丈夫なのか、それ」

「大丈夫じゃないです。臆面もなく言っちゃえば、当たりはずれの差が大きすぎますし」


 大丈夫じゃなかった。


「ただ、まぁそんな状態なのでどう足掻いたところで読みきることはありません」

「誰でも書けるわけだからな」

「さらに言えば、どんなジャンルだろうと絶対見つかります」

「誰でも書けるわけだからな」


 十人十色、とはよく言ったものなのだろう。そう言う意味では確かに、私が時間を潰すのにはもってこいだ。

 ……と言うか、だ。

「誰でも書ける、と言ったな」

「はい、言いましたね」

「それは、私でも書けるということか?」

「それは無理ですね」


 きっぱり言ってくれたなこの人間。


「だって化けイタチさんの手だと、キーボード使えませんし」

「ここでも変化の壁が立ちはだかるか」


 どうにもこの生活を十全に楽しむには、変化の腕を上げるほかないらしい。最低でも、両腕が人間のモノになるところまで。


「でもそれさえ何とかなれば、はい。一応書くことはできますよ。やり方は教えられますし」

「教えられる?」

「一応、素人枠で書いて投稿してるので」


 なるほど、あの発言は実際に書いてる立場としての意見だったわけか。


「なら、書き方は教えてくれ」

「いいですよ。……って、そんなに居つく気なんですか?」


 ?何をいまさら。


「飼ってくれ、と言っただろう」

「そんな話し方なので、気まぐれで言ってるだけなのかと」


 …………

 今、なんと?


「話し方?」

「はい。距離を置いてるのかなー、と」

「待て。……いや、待ってくれ」


 体を動かし、正座して人間を見る。何か感じるものがあったのか、人間も正座をしてこちらを見た。


「そんなに話し方おかしいのか、これ?」

「おかしくはないですし、通じてはいます」

「だろう。なら、」

「ただ、距離は感じます」


 がふっ。


「ついでに言うなら、お互いのことを種族名で呼ぶのも。個人として認識してないですよー、みたいな感じがして」

「分かった、分かったから。もういい……悪かった」


 あの時何やら複雑そうだったのはそう言うことか。


「そう言うことなら、話し方も変えていかないとだな……」

「そう言う人だ、って分かっちゃえば何ともないんですけどね。初対面の人は距離を感じるんじゃないかな、と」

「ついでに呼び方も変えないと、だな」

「呼び方以上に呼ばれ方じゃないかなぁ、と。名前は無い、っていうのはバッサリ切り捨ててる感じが」


 名前一つが与える影響、大きすぎないか。


「どうせ小説を書いて投稿していくなら必要になりますし、考えてみては?」

「ふむ……」


 言われて考えてみる。が、


「名前、というモノがよく分かってないからな」

「思いつかないですよね、中々」


 言って再びパソコンの方を向く人間。どうするかなーと言いながら手を動かし、いくつかの文字列が現れる。


「なんの原型もなく考えるならこんな感じなんですけど」

「パッと出てくるのか」

「まぁ、キャラクターの名前とか考えないとですし……とはいえ、化けイタチさん要素が一切ないのでなんだかなぁ、ではあります」

「私の名前、と言う感じではないわけか」

「はい。これと言った意味も込められてません」


 意味。意味か。なんでかは分からないが、名前に込められた意味、と言うのが大切だというのは分かる。私の中の何かが、それに対するこだわりを見せている。


「お前の」

「はい?」


 だからなのか、ただ知りたかっただけなのか。気が付けば私の口が勝手に動いていた。


「お前の名前と、その意味は?」

「あー……んーっと、ですね」


 急に聞いたからか、ちょっと困った様子を見せた。


「小説投稿に使う名前、ってことですし。そっちでもいいですか?」

「構わない」

「じゃあ、えっと……biwanosin、って名前です」

「びわのしん……意味は?」

「端的に言ってしまえば、生ゴミです」


 ………………………


「え、何か変な趣味でもある?」

「ありませんよ!」


 反射的に声を出してしまったのだろう。手で口を押え、すぐさま自室の入口へ向かう。扉を開いて階段を見下ろし……問題なかったのか、割とすぐ戻ってきた。


「はぁ……端的に言うと、っていうだけでちゃんとした理由もありますよ。長くなるので言いませんが」

「そこも端的に言えないのか」

「えー……今の自分と、目標。この2つを意味した名前です」


 端的に表現すると生ゴミになる今の姿と目標って、それ大丈夫なのかと思わないではないが。まぁ本人が決めた名前で、本人が決めた目標だ。きっとそれでいいのだろう。


「けど、そうか。自分を表すだけでもいいのか」

「はい。むしろ分かりやすいですし、後から付けるんだったら一切関係ない名前を付ける方が……とは、思います」


 なるほど、なら……と。実は響きを気に入っていた一つを、指さす。


「これ」

「ん……(したなが) 天理(てんり)、ですか?」

「ああ。この「天」の字を妖怪の「貂」に変えれば」


 字面はごちゃっとしてしまうが、私を表す名前になる。化けイタチであることを隠すつもりもないのだから、これでいいんじゃないかな、と。


「じゃあ、それでいきましょうか」

「いいのか、そんな雑で」

「化けイタチさんが気に入ったのなら、それでいいんですよ」


 そう言うことなら、うん。


「この名前でいい……いや、この名前がいい」

「じゃあ、これで。改めてよろしくお願いします、貂理さん」

「ああ、よろしく」


 と、そこでふと思いついてしまった事がある。思いついてしまったので、そのまま実行に移すことにした。


「ところで、だ」

「はい?」

「話し方はすぐには変えられないが、呼び方は簡単に変えられると思うわけだ」

「あー……確かに、話し方よりは難易度低いですよね」


 全部入れ替えるのに比べれば、よっぽど楽なはずだ。


「そこで、だ。いっそあだ名で呼び合わないか?」

「あだ名……」

「そう難しく考えなくていい。名前を省略するくらいでも。ようするに、距離感を縮めたいだけだ」

「ああ、そう言う」


 今ので納得してくれたらしい。どう説得するか悩んでいたから、楽で助かる。


「じゃあ、テン、とか?」

「安直な上に結局種族名で呼んでないか、それ?」

「貂理って名前が先にあるから、個人的にはそうでもないです」


 やっぱりコイツの感性おかしいんじゃないか?……まぁ、今のところ私と会話するのはコイツくらいだ。その本人が問題ないらしいし、それでいいんだろう。


「じゃあお前は、私のことをテンと呼ぶ」

「はい」

「そして私は、お前のことをゴ主人と呼ぶ」

「はい。……はい?」


 パソコンの方を見ていた人間……ゴ主人の顔がこちらを向いた。


「いや、なんで?」

「うん?だってほら、名前の意味」

「いやそれがあるんで百歩譲って「ゴ」の方はいいんですけど」


 いいのか。もう確信した、コイツの感性はどこか狂ってる。


「なんで、「主人」?」

「いやほら、私の飼い主に当たるわけだし」

「それについて同意した記憶はありませんが!?」

「だとしても、人間とイタチの関係性と言う時点で他の選択肢はないだろう。家畜になる趣味は無いし」

「こうして会話できるんですから、同居人でいいじゃないですか」

「まぁまぁ、そう気にするな。どうせあだ名だ」

「気付いたら外堀埋められてそうで嫌なんですが……」


 そんなことにはならないだろう。たぶん。きっと。


「まあよろしく、ゴ主人」

「はぁ……よろしくお願いします、テン」


 ごまかすためにも飛び切りの笑顔で手を差し出したら、ため息をつきながら握手に応じてくれた。うん。きっとこれから、楽しくなる。


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