133 書庫はどうなったんだ、書庫は
「殆ど見つかっていない初期古代語の本が2冊、しかも1冊は失伝されているポーションの製法に関する本を持っていたとなると、元の持ち主が気になるな。」
「そうなの?」
俺には良く判らない。
「魔導具の数も多い。 チラッと調べただけだが、儂の鑑定を弾く魔導具もあった。 悪用すれば大きな被害を及ぼす魔導具があるかも知れぬ。 どのようにして手に入れたかが気に掛かる。 火事になった家を調べる事は出来ぬか?」
「う~ん、・・・熊に聞いてみる。」
困った時の熊頼み、あまりあてにはならないけど。
さっそく熊の所に行った。
「成程。 火事場片付けをしたゴミの中に大量の古代遺物か。 露店街で売っていたのなら、恐らくスラムの顔役の誰かだろう。 判った、手の者達に調べさせよう。」
「うん。」
「ところで、公爵閣下からショータに問い合わせが来ている。」
「問い合わせ?」
「ベルンでは12歳になると、ベルン学院の受験資格を得られる。 元々は貴族子弟のための学校だが、平民でも優秀であればベルン学院で学ぶことが出来る。」
「ベルン学院?」
「東部地域では最高峰の教育機関だ。 ショータは賢いが、この国の基礎的な知識や習慣に疎い所がある。 学校で学ぶのも良いのではないか、という事らしい。」
確かに基礎的な知識や習慣に疎いのはその通りだけど、・・・。
「はあ。」
「ベルン学院は5年制の学校で、上級貴族の子弟は入学を義務付けられている最も格式の高い学校だ。 教授陣も最高峰の人材が揃っているし、所蔵している書籍も多い。 東部地域の上級役人は殆どがベルン学院の出身者だ。」
「そうなんだ。」
役人になる気はないし、貴族とお友達になる気も無いけど、本が沢山あると言う所にはちょっと興味を魅かれた。
「1応入学試験があるが、公爵の特別推薦があれば免除される。 ショータは学ぶことに熱心なので、もしもショータが入学を希望するなら公爵が特別推薦を出してくれるそうだ。」
「学校か、・・・。」
確かに12才なら前世でも学校に行っている年齢ではある。
前世の事は殆ど覚えていないけど、何となく学校には良い思い出が無いような気がする。
でも俺は、見た目は10歳、中身はおっさん、その名は竜滅のショータなのだ。
せめて見た目も12才になりたい。
ぐぬぬ。
って、問題はそこではない。
大切なのは、俺の中身がおっさんということ。
前世では多分16年間学校に通った筈。
自分の事は殆ど覚えてないけど、学校で学んだらしい知識はしっかり覚えている。
この世界の常識は冒険者のおっちゃん達が教えてくれる。
ちょっと、いやかなり怪しい常識も多いけど。
レイは恐らく学院にいる優秀な教授達よりも物知り。
何と言っても1600年以上生き・・死んでいるのだから。
今更学校に行くメリットがあるとは思えない。
気になるのは学院にある本。
本の事を考えたら、公爵からベルン宮殿にある書庫の閲覧証を貰っていた事を思い出した。
貴族がウロウロしている宮殿に行く気なんて全く無かったから、すっかり忘れてた。
「ベルン学院とベルン宮殿では、本の数はどっちが多いの?」
「数で言えばベルン学院だろうな。 ただ、初代ベルン王は勇者だから、光属性についての書籍はベルン宮殿の方が多いと思うぞ。」
“ベルン宮殿の書庫に行くぞ”
レイがいきなり念話を送って来た。
“どうしたの?”
”ポーションの本を読んだところ、ポーション作成には光属性の魔力が必要だと判った“
レイはベルン宮殿にある光属性の本を読みたいらしい。
「ベルン宮殿の書庫を見せて貰ってから決めてもいい?」
学院に行く気はあまり無いけど、レイが宮殿の書庫を見たいらしいので、宮殿に行く理由に学院を使った。
「おう。 ショータが行けば公爵も喜ぶだろう。 次の休日に行くと連絡を入れて置こう。」
「うん。」
「馬車が来たぞ。」
「うん、すぐに行く。」
ギルド職員の声で部屋を出た。
ギルドの前に行くと、めっちゃ豪華な馬車が停まっていた。
しかも前後に4騎ずつ、8騎の護衛騎士が付き添っている。
通行人も何事が起ったのかと、大勢が立ち止まって馬車を眺めている。
宮殿に行くと連絡したら、迎えの馬車が来るという事になったのだけど・・・。
ベルン宮殿は遠いから助かるけど、こんなに豪華な馬車だとちょっと恥ずかしい。
宮殿に行くので、俺は1張羅の七五三服。
この服で大勢の前に出るのも、めっちゃ恥ずかしかった。
「お世話になります。」
挨拶は大事。
何度か顔を合わせた事が有る公爵の側近さんが、扉を開けて待っていてくれた。
何故か御者の横には、いつも俺を見張ってる公爵家の監視員さんが乗っている。
行き先がベルン宮殿なので、馬車を追いかけるのが面倒だと思ったな。
周りを見渡すと、いつもの半分くらいしか監視員さんが見えない。
最近はゴミ処理、もとい、宝の山の回復作業が忙しくてギルドから出る事が少ないので、監視員さん達もだらけてる?
今回は本を読みに行くだけなので、熊はギルドでお仕事。
ベロと俺が馬車に乗ると、側近さんと護衛の騎士1人が乗り込んで、馬車は宮殿に向かった。
「本日の御予定を説明させて頂きます。」
馬車の中で側近さんが今日の予定を説明してくれる。
って、予定も何も俺は書庫に行って本を読むだけだぞ。
「宮殿到着後、公爵閣下への謁見準備が行われます。」
「謁見準備?」
謁見があるとは聞いて無かったけど、準備って何だ?
ちゃんと1張羅の七五三服を着て来たから、ドレスコードも大丈夫な筈。
「御友人ですので、公爵閣下につきましては問題有りませんが、本日は高位貴族御館様達とのお茶会も御座います。 ショータ閣下に相応しい服を用意して御座いますので、そちらにお着替え頂きます。」
高位貴族の御館様とお茶会?
聞いてねえし。
「この服じゃダメなの?」
「恐れながらサイズが幾分か小そう御座いまので、高位貴族の御館様とお会いするには少々問題が御座います。 着替えの服は既に用意して御座いますので、問題はありません。」
「はあ。」
服が小さくなったという事は、俺が大きくなったという事。
それは嬉しいが、俺は本を読みに行くだけ。
何で着替えの服まで用意されているんだ?
1張羅の七五三服でもダメらしい。
「準備が整いましたら、公爵閣下への謁見となります。」
側近さんが書類を確認しながら説明を続ける。
「はあ。」
俺が何を言っても聞いてくれそうな雰囲気ではない。
「公爵閣下は、カジシ殿の打った名剣を貴族達に披露したいと申しており、”ドラキラ”による騎士鎧の試し切りをお望みです。 宜しいでしょうか。」
謁見というより、俺の腕前披露とカジシ工房の名誉回復が目的らしい。
監視員さんからカジシ工房での試し切りの事を聞いたのだろう。
貴族達にカジシ工房の宣伝が出来るなら有難い。
貴族の工房襲撃が無くなるかも知れないし、工房のお客さんが増えるかも知れない。
「うん。」
「また、公爵閣下は皆の前でベロ殿を撫ぜさせて頂きたいとおっしゃっております。 如何でしょうか。」
何でみんなの前でベロを撫ぜたいんだ?
判らん。
”撫ぜさせてあげてもいい?
ベロに聞いてみた。
”構わぬ“
「いいよ。」
「剣のお披露目が終わりますと、謁見は終了となります。」
謁見と言っても、俺は試し切りをするだけでいいらしい。
それならササヤキお熊がいなくても大丈夫。
「うん。」
「その後、公爵家御一族との昼食会となります。」
ちょっと待った。
俺は公爵への謁見や昼食会の為に宮殿に行くんじゃない。
俺は書庫で本を読む為に行くんだぞ。
書庫はどうなったんだ、書庫は。
「書庫へは行かないの?」
「書庫へは昼食会が終わりましてからご案内致します。」
「・・・・。」
言葉が出ない。
本を読むため朝早くにギルドを出たのに、書庫に行けるのが昼過ぎって何なんだ?




