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132 臭い付きパンツでは無くなっていた

治療室も部屋もいつもピカピカなので、浄化を掛けても成果を見る事が出来ない。

回復も治療する患者が必要なので、回数を増やして練度を上げる事は出来ない。

カジシさんの工房を浄化と回復で新築同様に出来たことで、汚れ物や壊れかけた物で浄化や回復の訓練が出来るかも知れないと気が付いた。

そんな時に露店街で大量のゴミが売られていたから、大喜びで買い占めたのだ。

さっそく買って来たゴミで浄化と回復の訓練の訓練を始める。

買って来た物はどれもゴミ同然、というよりも完全にゴミだし、安かったから浄化や回復に失敗したとしても惜しくは無い。

先ずはおっちゃんが分類不能のゴミと言っていた箱を取り出した。



ゴミの箱から真っ先に取り出したのは、べっとりと染みが付いたパンツ。

勿論煤の染みだよ。

おっちゃんが代金の計算していた間に箱を調べた時、たまたま1番上にあったパンツ。

そのまま箱の一番上に戻しただけ。

わざわざパンツを探した訳じゃないヨ。

煤が溶けた水に浸かったせいで、斑に黒くなっている。

テーブルの上にパンツを置き、パンツを睨みつけて精神を集中する。

染み付きパンツを凝視する少年。

ちょっと変態っぽい?

いや、今は精神集中。

心の惑いを振り払った。

”浄化“

テーブルの上にキラキラした光が降り注いで、パンツが真っ白になった。

パンツを手に取って鼻に当て、念入りにスンスンして見る。

臭い付きパンツでは無くなっていた。

煤の臭いがしないかを確かめただけだヨ。



次々とゴミを取り出して浄化を掛ける。

エプロンや白いフリルの付いたカチューシャなどが幾つもあったので、火事になった家はメイドさんが何人もいる裕福な屋敷だった事が判った。

メイド服もあったので、前世のメイドさん動画で定番の裸エプロンでは無かった?

判らないけど。

ひょっとしたら、お客さんが来た時だけメイド服を着たかのもしれないし。

カーテンやシーツ、テーブルクロスらしい大量の布も新品同様になった。

生地が良いので、将来俺が治療院を作った時には使えそう。

タダ同然で買ったゴミが、浄化で新品同様になったから俺は大儲け。

今の所は使い道が無いから収納の肥やしだけど。



大量に入っていた真っ黒に汚れていたビンも新品同様になる。

蓋らしいガラス製品もあったので液体を保存する時に使えそう。

1箱の半分位に浄化を掛けただけで、結構な時間が掛かった。

壊れかけている物が無かったので回復は使わなかった。

急ぐ必要は無いので、今日はこれで終わり。

浄化と回復にはイメージと集中力が大切。

丁寧に魔法を掛けなければ練度の上昇には繋がらないから、集中力が落ちた時に練習しても意味が無い。

魔法の練習は、数を熟せばいいというものでは無い。



今日は箱に入っている本の塊に挑戦する事にした。

本の入っている箱は4つ。

水を吸って膨らんでいるとはいえ、大きな箱4つ分も本があった事には驚くしかない。

この世界での本は凄く高価な贅沢品。

少し貴重な本ならば白金貨、前世の百万円がバンバン飛んで行く程の値段がする。

火事になったのは、かなり裕福なお屋敷だったのだろう。

貴重な本だけど、煤だらけの水に濡れたせいで燃やす事も出来ないから、今は紙屑以下のゴミになってしまっている。

箱の中には紙粘土の塊のようになった本がぎっしり入っていた。

火事場の後片付けなので、大きな箱に乱雑に放り込まれた本が、重さで圧縮され固まってしまったらしい。



1番上の本を、紙を破らない様に注意しながら、慎重に紙の塊から引き離す。

1冊分の本を塊から引き離すだけで、めっちゃ時間が掛かった。

引き離した本をテーブルの上に置く。

心を落ち着けて、集中力を高めた。

”浄化“

光の粒が降り注いで、汚れが落ちる。

回復だけでもいいのだが、浄化を使わないと汚れや匂いが多少残ってしまう事が、今までの経験で判っている。

回復を掛けた後に浄化を使っても殆ど効果が無い事も実験済み。

物事には順番が大事。

浄化によって本の汚れは落ちたが、まだ水を吸った紙の塊のまま。

無理に本を開けば破れてしまう。

本の元の姿をイメージしながら集中力を高めて魔法を発動する。

”回復“

机の上が光に包まれる。

結構な量の魔力が持って行かれる。

魔力の動きを見ていると、どうやらページごとに魔力が必要らしい。

暫くして光が収まると、紙の塊だった物が綺麗な本に戻った。

1冊の本を元に戻しただけなのに、10人位治療したような疲労感がある。

本を綺麗にするには魔力も時間も掛かる事が判った。

練度が上がれば、魔力も時間ももっと少なくなるかもしれない。



3冊目の本を回復によって紙の塊から本に戻す時、めっちゃ魔力を吸われた。

「ふぅっ。」

回復が旨く出来て、思わず安堵の声が出る。

「この本を儂にくれ。」

ちょっと気を抜いていた俺に、横で見ていたレイが声を掛けて来た。

テーブルの上には俺が回復した本、表紙には『初級ポーション入門』と書かれている。

「初級だし、入門だよ。」

レイなら中級ポーション位簡単に作れそうなので、初級ポーションの本、しかも入門書を欲しがる理由が判らない。

「ポーションは古代遺跡からしか発見されておらぬ。 つまり、この世界にあるポーションは全てが古代遺物という事だ。 色々と研究はされておるが、今の人間にはポーションを作る事は出来ておらぬ。 この本は忘れ去られた技術について書かれている本に違いあるまい。」

ファンタジー定番のポーションが作れないと聞いてびっくりした。



「えっとぉ、初級ポーションも作れないの?」

「無理じゃな。 儂もポーションに関する本は見た事が無い。 恐らくこの本自体も古代遺物であろう。」

「そうなんだ。」

回復を使った時に魔力をめっちゃ吸われたのは、この本が古代遺物だったからなのだろう。

「魔導具を大量に持っていた事から、火事になった屋敷に住んでいた者は、古代遺跡の発掘調査に関係していた可能性が高い。 ただのゴミと思っていたが、思わぬ掘り出し物を見つけた様じゃ。」

浄化と回復の練習用に買ったゴミの山が、実は宝の山だったらしい。

「女神様のお導きかも知れないね。」

ちょっと冗談を言ってみる。

「そうに決まっておる、いやそれ以外には有り得ぬ。 神への感謝を忘れるでないぞ。」

そうなんだ。

この世界に詳しいレイが言うのならそうなんだろう。

あのいい加減なササヤカお神に、予定調和の様なお導きが出来るとは思っていなかったのでちょっとビックリ。

“ササヤカお神、いや、ハテナ様、すごい、すごぉ~い、ありがとう~”

心の中で女神様に感謝を奉げた。

ちょっと軽いけど、ご利益を頂いた時には感謝をするのが礼儀。



レイは浄化と回復で新品同様になった本を熱心に読んでいる。

本の内容を調べるのはレイに任せて、俺は本の浄化と回復に戻った。

部屋を片付ける時、偶然目に付いた見付けた昔のアルバムとかに夢中になって、片付けが全く進まないのはよくある話。

レイと一緒に本を読み始めたら、何も練習出来ずに終わってしまう未来が見えた。

難しい本の内容はレイが俺にも判るようにかみ砕いて教えてくれるから、俺が自分で読むよりも楽だし内容も理解し易い。

元々が浄化と回復を練習する為に買ったゴミだから、本を読むのはレイに任せて、俺は浄化と回復の練習だ。

次の本を丁寧に箱から取り出して、浄化と回復を掛ける。



「ショータ、この部分はどういう意味じゃ?」

「えっ、どこどこ?」

「ここじゃ、ここ。」

「これは“魔力を1定レベルに維持したまま“という意味だよ。 って、レイは古代語も読めるんじゃなかったの?」

「古代語は初期・中期・後期で微妙に変化しておる。 儂が今までに読んだ古文書は殆どが後期古代語で書かれた本じゃ。 この本は初期古代語で書かれておるので、判らん所があちこちにある。」

「そうなんだ。」

「ショータの様に女神様の御加護で何でもスラスラ読めるのとは違うのじゃ!」

怒られた。

俺の目には初期・中期・後期古代語も全部日本語にしか見えない。

何となく実際に書かれているのは古代語なんだろうなと感じられる程度。

図書館で読んだ大陸諸国の本も全部日本語に変換されていた。

うん、神様に貰った言語理解のスキルは便利。

時々レイの質問に答えながら、本の浄化・回復を続けた。

治療室の仕事を終え、部屋に戻ってからの作業なので、7冊回復させた所で時間切れ。

1冊は少し破れた所があるが、他の6冊は新品同様になった。

古文書だけど。



今週はずっと本の修復。

1番気を遣うのは、紙の塊から本を引き離す時。

他の本に張り付いているし、濡れて破れやすくなっているので丁寧な作業が必要になる。

浄化や回復を掛けている時間よりも遥かに長い時間が掛かるし、神経も使う。

めんどくさくなって、纏めて回復を掛けようとしてみたが、色々とイメージを変えても、回復が成功しそうな感触が得られなかった。

成功するイメージの無いまま、無理に魔法を発動させると患者なら死ぬし、本ならぐちゃぐちゃになって修復不能になる。

貴重な本なので、地道に1冊ずつ修復するしかなかった。

レイによると、現代語の本が多く、3割程度が古代語の本。

今迄修復した30冊程の中で、初期古代語で書かれた本は2冊だけらしい。

まだ1箱目の半分も修復出来ていない。

本の箱は4つ。

先は長そうだ。



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