130 ドッカのダレーカ
今日も朝から訓練。
いつものように俺は振り下ろしの練習。
ベルンの灯もいつものようにベロと模擬戦をしていた。
「ベルンの冒険者はレベルが高いって聞いていたが、子犬1匹に遊ばれてるようじゃ知れたもんだな。」
訓練場の入り口あたりから大きな声が聞こえて来た。
「そっちのガキなんか、真っ直ぐに剣を振り下ろすだけだ。 1振りにそんなに時間が掛かったら、鼠の魔獣1匹倒せねえぞ。」
俺が鼠の魔獣を倒せないのは事実だけど、言い方が上から目線でめっちゃ尊大。
ちょっとムカッと来た。
声の方を振り向くと、見た事の無い20代半ばの4人パーティーがいた。
「何か用?」
「見習いのガキがいっちょ前の口を利くんじゃねえ。 俺達はDランクパーティー”ドッカのダレーカ“だ。 敬語を使え、敬語を。」
どこかの誰か?
何じゃそれ。
パーティー名を聞いてちょっと笑ってしまう。
「貴様、今笑ったな。 ダレーカ孤児院の出身だからといってバカにするな。 こう見えてもドッカの街では名の売れたパーティーなんだぞ。」
リーダーらしい兄ちゃんが怒っている。
孤児院出身だから笑ったと思ったらしい。
ドッカは街の名前で、ダレーカはドッカにある孤児院の名前らしい。
そもそもベルン以外は街の名前なんて1つも知らないんだから、ダレーカが孤児院の名前だなんて知らねえし。
「孤児院出身なら、ベルンの灯と一緒だね。」
「だから敬語を、ぅん、ベルンの灯と一緒だと?」
「ベルンの灯のリーダーを務めるバンだ。 ベルンの孤児院、灯の家出身だ。」
ベロとの模擬戦を中断したバンさんが近寄って来て声を掛けた。
本当のリーダーはブンさんだけど、リーダーは面倒な交渉が多いので、登録上のリーダーはバンさんになっている。
顔つきが嶮しいのは、“子犬1匹に遊ばれてる”という発言を聞いたからなのだろう。
リーダーらしい兄ちゃんがベルンの灯に向かって大声で嘲ったのだから、聞こえるのは当然だけど。
バンさんも気配探知の練度が高いから、相手の実力をある程度は感じる事が出来る。
ベルンの灯もDランクなのに、敢えて自己紹介にランクを入れなかったのには何か思う所があるのだろう。
「そうか、貴様らも孤児院出身か。 犬っころと遊んでいる暇があったら、真面目に訓練した方が良いぞ。 頑張ればいつかは俺達の様にDランクパーティーになれるかも知れないからな。」
上から目線は変わらない。
ドッカのダレーカは気配探知の練度が低いらしい。
ベルンの灯と一緒に近づいて来たベロが俺の腰に両前足を置いて俺を見上げる。
「ワゥゥ~(こいつら、やっちまってもいい)?」
ベロが怒っている。
“犬っころ”と言われてカチンと来たらしい。
ベロはバカにされるのが大嫌い。
「ベロがお兄さん達と模擬戦をしたいって言ってるけど、どうする?」
「犬が死んでも良いのか?」
「ベロは召喚獣だから、死んでも再召喚すれば生き返るよ。」
「この犬は召喚獣なのか?」
「そうだよ。」
「だったら、相手をしてやる。 よく見ておけ、1瞬で殺してやるからな。」
「4人でやった方が良いよ、ベロはめっちゃ強いから。」
「ふざけるな、こんな子犬1匹、俺だけで充分だ。 俺はリーダーのガン、槍遣いだ。」
「相手の力を見抜けないと、ベルンではすぐに死ぬよ。 ベロ、怪我はさせても良いけど殺さないでね。」
「こんな子犬ごときを相手に怪我などする筈は無い、行くぞ。」
ガンさんが槍を構えた。
うん、やっぱり弱い。
「じゃあ、俺が審判をするね。」
「おう。」
「ワン(いいぞ)!」
ベロもちゃんと返事をした。
「それじゃぁいくよ、・・始め!」
合図と共にガンさんが槍を突きだす。
ドン!
ガンさんが1直線に宙を飛ぶ。
ゴン!
ガンさんが訓練場の壁に激突。
ズルッ。
ガンさんがそのまま地上に落ちた。
手足があらぬ方向に向いてあちこちの骨が折れているようだが、生きてはいる。
「勝負あり! ベロの勝ち!」
「「「えっ!」」」
ドッカのダレーカの3人が目を丸くしている。
ベロがガンさんの槍を躱して体当たり。
ガンさんの体が1直線に訓練場の端に飛んで、壁に叩き付けられるまでが1瞬の出来事。
「3人もやってみる?」
俺が声を掛けると、3人が首をブンブンと横に振った。
「おい、見えたか?」
「見えなかった。」
「何がどうなったんだ?」
3人が首を傾げている。
「えっとぉ、ガンさんの槍の右側に隙があったからぁ、ベロはそこをすり抜けて、腰に体当たりした。 ベルンの灯だと隙が無いから、フェイントを入れながら隙を作るんだけど、その必要も無かったみたいだね。」
「いやいや、子犬にそんな事を出来る筈が無いぞ。」
「ベロは子犬だけど、Sランクだよ。」
「はぁあ? こんな子犬がSランクな訳ないだろ!」
「ベロはケルベロス、地獄の門番って呼ばれる神獣だよ。」
「「「な、なんだって~!」」」
3人が慌ててベロから距離を取る。
「大丈夫、敵意を見せなければ襲う事は無いから。 とりあえずガンさんの治療をするね、急がないと死んじゃいそうだから。」
探知に見えているガンさんの白い点が少し小さくなって来たので慌てた。
壁の横に倒れているガンさんの所に急いだ。
ドッカのダレーカの3人も慌てて付いて来る。
ガンさんの手足が有り得ない方向に向いている。
恐らく何本かの骨が折れているだけでなく、靱帯も切れている。
”診断“
手足だけでなく、背骨と肋骨も折れている。
両膝の靱帯も切れている。
慎重に治す手順をイメージしていく。
”回復“
ガンさんの手足が少しずつ形を変えて行く。
体の歪みもゆっくりと戻る。
診断に1分、回復に3分。
バンさんが大怪我をした時には1時間以上掛かった治療が5分も掛からずに終わった。
疲れも殆ど無い。
最近は怪我人が増えていたせいで、回復の練度が俺の予想よりも上がっていたようだ。




