128 そろそろ印籠を出す時間らしい。
「本当に銅貨171だった。 坊主はまだ子供なのに凄いな。」
レイと念話していたら、おっちゃんから声が掛かった。
漸く計算が終わったらしい。
「えへへ。」
褒められてちょっと嬉しくなる。
「俺が全部買ってもいい?」
「冗談はよせ。 坊主1人では1箱でも持てないぞ。」
「大きな容量の魔法袋を持ってるから大丈夫だよ。」
収納の事は秘密なのでダミーとして持ち歩いている魔法袋を見せた。
「お貴族様のお忍びだったのか。 どおりで計算が早い筈だ。 全部買ってくれるなら、半端を切って、銅貨170枚、銀貨だと17枚だ。」
高価な魔法袋を持っているのでお貴族様のお忍びと思われたらしい。
銅貨1枚という僅かな値引きだけど、値引きしてくれたのは嬉しい。
社長ありがとう、やすい、やすぅ~い!
夢グループは、もうええっちゅうねん。
「ありがとう。」
金袋から銀貨17枚を出しておっちゃんに渡した。
「確かに受け取った。 箱を魔法袋に入れてくれ。」
「うん。」
箱を次々に魔法袋に納める。
「凄い容量だな。」
「うん、結構入るから便利なんだ。」
「それだけ入れば便利だよな。」
おっちゃんが羨ましそうに見ている。
あげないよ。
これで最後。
残った最後の箱を魔法袋に入れた時、後ろから声を掛けられた。
「その魔法袋、儂が買い取ってつかわす。 代金として特別に金貨10枚を与えてやろう。 おい、金を渡してやれ。」
変なおっさんがいきなり声を掛けて来た。
おっさんの後ろには護衛らしい鎧を着けた騎士が4人。
「嫌。」
「無礼者! 儂を誰だと思っておる。 恐れ多くも公爵家草創期より譜代の家臣として名を馳せたトルゾー子爵であるぞ。 平民ごときが儂に逆らうというのか?」
どうやらダミーとして使った魔法袋の容量を見て奪い取ろうと思ったようだ。
名前がトルゾーだけに、庶民から奪い取るのが得意なんだろう。
ズンさんによると、俺の魔法袋は最低でも白金貨300枚、普通なら白金貨500枚、前世でいうならおよそ5億円の値打ち。
金貨10枚、前世の10万では桁が違い過ぎる。
10万円では、1番小さなポケットサイズ容量の魔法袋さえ買えない。
「子爵だから何なの? 武器で脅して脅し取るって、盗賊と同じだよ。」
あまりにも理不尽な要求にちょっとムカッとした。
「何だと、儂を誰だと思って・・。」
「無知で無学なおっさん?」
おっさんの言葉を途中でぶった切った。
「無礼者! ベルン家草創期を盛り立てし英雄の子孫であり、公爵家の御意見番、ベルンにその人有りと言われるトルゾー子爵であるぞ。 平民の分際で、ベルン1の名門貴族であるこのトルゾー子爵を愚弄するつもりか!」
おっさんが顔を真っ赤にして怒ってる。
先祖は偉いらしい、先祖は。
こいつはダメだ。
こんなのをご意見番として威張らせている公爵もダメだ。
「愚弄も何も、この魔法袋は白金貨500枚の価値があるんだよ。 そんな常識すら知らないバカが、本物の子爵様である筈が無いじゃん。 ねえみんな、小さな魔法袋でも金貨10枚なんかで買えないよね。」
露店街にいる大勢の人を見回しながら大きな声で話し掛ける。
周りにいた人達がうん、うんと頷いてくれている。
「ほら、みんな魔法袋が高い事を知っているよ。 そんな事も知らない無知で無学な上に非常識なおっさん、しかも脳みそが足りないとしか思えない間抜け面したオークみたいに下品な奴が子爵である筈無いじゃん。」
大きな声で子爵を炊きつける。
自分でも何を言っているのか良く判らない、超スーパーハイデラックス罵倒を繰り出した。
おっさんの顔が茹でたタコの様に真っ赤なっている。
TACOと言ってもいつもビビッて尻込みする某大統領の事じゃないよ。
大阪名物のタコ焼きに入っているタコ。
真っ赤なおっさんの額に青い血管が浮かんでいる。
頭から湯気も上がってる?
そんなに怒ると、頭の血管がプチンって切れちゃうよ。
わざと怒らせている俺が言うなって?
すんません。
「斬れ、こ奴を切り殺せ。 子爵家に対する不敬罪だ。」
子爵が騎士達に命じると、騎士達がすぐさま剣を抜いた。
”結界“ ”結界“
騎士は4人だから、強い騎士がいても結界を2枚張ればたぶん大丈夫。
もしも1枚破れたら、重ね張りすればいい。
俺の周りにいた人達が危険を察知してさっと離れた。
うん、周りの人には迷惑を掛けたくないから、逃げ足が速いのは助かる。
ガン、ガン、ガン、ガン。
名門子爵家の精鋭だけあって護衛達は結構強い、護衛達は。
刃筋も奇麗に立っている。
代々子爵家に仕えて来た騎士爵家の者なのだろう、子爵はバカだけど。
ガン、ガン、ガン、ガン。
ガン、ガン、ガン、ガン。
4人しかいないのに結構喧しい。
「ええい、静まれ、静まれ~っ!」
警備隊が走って来た。
そろそろ印籠を出す時間らしい。
うん、遠くに警備隊が見えていたから、安心して子爵を煽ってたよ。
隊長さんも顔見知りだったし。
「これは何の騒ぎだ!」
「この小僧が、我がトルゾー子爵家を愚弄しおったので無礼討ちにしておる所だ。 警備隊も助力せよ。」
「恐れながら、この少年はAランク冒険者のショータ閣下。 ご存じとは思いますが侯爵待遇のお方で御座います。 更に、ショータ閣下に異変が起こった時は、小さな事でも直ちに公爵閣下に報告するよう命じられている、公爵閣下の大切な御友人でもあります。 侯爵家当主待遇であるショータ閣下に剣を向けたという事は、子爵殿であろうとも不敬罪の対象となります。 直ちに剣を引き、警備隊本部まで御同道願います。 副長、子爵殿を警備本部に御連れせよ。」
お約束の侯爵待遇、来た~ぁ!
「承知!」
「な、なんだって~!」
子爵が泡を吹いて引っ繰り返った。
うん、いつものパターンだ。
結論が判っていると安心して見ていられるんだよね。
ストレスフリー、バンザ~イ!
警備隊の隊長さんは俺が闇のナーベの本部を壊滅させた時に一緒にいた警備隊員。
出世して、今は警備小隊の隊長をしている。
図書館に行く時に時々すれ違うけど、その度に敬礼してくれる礼儀正しい隊長さん。
遠くに顔が見えていたので、ちょっと手柄を立てさせてあげようと思って子爵を煽ってしまった。




