126 世界馬鹿歩き ベルン編
今日は治療室がお休みなので、鑑定の練習を兼ねて露店通りに行く事にした。
ベルンには商業ギルドの支部ごとに、露店通りがある。
1番面白そうなのは魔導具街と錬金街のある西支部の近くにある露店通りだが、俺は好きな物は最後に食べる人。
先ずは近場で露店体験をする事にした。
今回行くのは大門ギルドから一番近い、商業ギルド南支部の近くにある露店通り。
南支部は南市場の東側。
ギルドの地図で露店通りをしっかりと確認したので迷う事は無い。
ギルド前の道を東に歩く。
以前服を買った商店街を突き抜ける。
“次の角を左だ。”
ケルベロス・ナビゲータション、通称ベロナビがあるから迷う事は無い。
南市場に行った時よりもかなり先にある角を左に入った。
少し歩くと見えて来たのは、50m四方程の広場っぽい所。
そこに、沢山の露店が並んでいた。
名前は露店通りだが、通りではなく前世のフリーマーケットみたいな感じ。
3m位ごとにてっぺんが赤く塗られた低い杭が打ってあり、区画が決まっているらしい。
商品を入れていたらしい木箱を並べてその上に商品を並べている店もあれば、地面に布を敷いてその上に商品を並べている店もある。
商品も雑多。
1つの店の中に、木工製品と古着と良く判らない鉱石っぽい物が一緒に並んでいたりする。
鑑定の練習には丁度良い。
片端から鑑定を掛け乍ら、面白い商品がないかを見て回る事にした。
麦わらで作った細工物を売っている店があった。
商品の中に、前世の麦わら帽子に良く似た帽子があった。
「おっちゃん、これっておっちゃんが作ったの?」
何となく麦わら帽子が懐かしく感じて聞いてみた。
「作るのはおんなしだ。」
「おんなし?」
「女衆の事だ。 この麦わら細工は近所のおんなしが集まって作ってる。 男は荷物運びと売り子だ。 荷物運びは力のある男に向いているし、売り子が女だと客が怖がって来ないからな。」
「売り子が女だとお客さんが来ないの?」
「当り前だ。 下手な事を言ったら魔法をぶっ放されるからな。」
確かに至近距離で魔法を撃たれたら怖い。
周りを見ると売り子は殆どが男だったが、女性が居ない訳ではない。
「でも女の人もいるよ。」
「あれは高い物を売っているからだ。 商品を盗まれたり壊されたら困るから、魔法が撃てるおんなしが出張ってる。」
「そうなんだ。」
女性の売り子は、悪さをしたら魔法をぶっ放すという脅しらしい。
異世界怖っ。
「おっちゃん、これ幾ら?」
子供用の小さい麦わら帽子の値段を聞いてみた。
「銀貨1枚と銅貨2枚だ。」
金袋から銀貨1枚と銅貨2枚を出す。
「はい。」
「おいおい、本当にいいのか?」
「どうして?」
「露店街では値切るのが普通だぞ。」
「アハハハハ。」
お金の交渉をするのは苦手。
言われた値段で欲しければ買うし、高いと思ったら買わない。
銀貨1枚と銅貨2枚、麦わら帽子が前世の1200円なら問題無い。
隣の店に移った。
”左にあるセンダ石を買ってくれ“
レイから念話が来た。
精密鑑定で観ると、センダ石は目薬の素材になる成分が入っているらしい。
仙台市といえば独眼竜正宗が居城を置いた所。
独眼竜だから目が良かったとは思えないけど、って関係ないか。
”レイ、目が悪いの?“
“いや、薬を1通り揃えておくのは儂の趣味じゃ。 そもそも儂には目が無い”
“そうだったね。 だったらどうやって見ているの”
”穴から覗いておる。 穴があったら覗きたい、これは人間もアンデッドも同じじゃ“
確かに覗きたくはなるけど、レイの説明ではいまいち意味が判らなかった。
まあいいか。
深く考える事はやめた。
「おっちゃん、そこにあるセンダ石って幾ら?」
「おっ、これか。 坊主はいい物に目を付けたな。 これは目薬を作るのに使う珍しい石だ。坊主はまだ小さいから金貨2枚に負けてやろう。 坊主だから特別だぞ。」
“高い。 センダ石はベルン特産の石だからあちこちの店で売っておる。 ついさっき、3つ向こうの店では銀貨7枚で売っておったぞ”
センダ石は切り出しのサイズが決まっているのか、板状になった同じサイズの石が積み上げられている。
どの店でもサイズは同じ。
レイは遠視や遠聴を使ってあちこちの情報を集めていたらしい。
「商売だから儲けたいのは判るけど、子供だからって相場の倍以上はダメだよ。」
ちょっとムカついたので、おっちゃんを睨みつけながら言った。
「ぷっ!」
おっちゃんが噴き出した。
俺が睨むと吹き出すのはデフォか?
「すまんすまん、坊主の顔が可愛くて笑ってしまった。 隣の店で帽子を言い値で買ったからつい吹っ掛けてしまったんだ。 銀貨8枚でどうだ?」
「値段交渉は苦手だから、言い値で買うか買わないかだよ。 この店では買わない。」
「ええっ!」
驚いているおっちゃんを置いて隣の店に移動した。
「おっちゃん、そこにあるセンダ石って幾ら?」
「これか、銀貨8枚だ。」
相場の7枚よりは高いけど、8枚なら許容範囲。
「はい、銀貨8枚。」
「ありがとよ。」
相場より少し高く売れたおっちゃんは笑顔。
値切って嫌な顔をされるよりは、笑顔で買い物できた方が良い。
あぶく銭は沢山あるし、お金は使ってこそ生きる。
“一番右の本を買ってくれ”
レイから念話が来た。
言われた本を見ると、『世界馬鹿歩き ベルン編』と書いてある。
前世の某国営放送で、“世界ネコ歩き”という世界の猫を映して回る番組があった。
ベルンにいる馬鹿の事が書いてある本なのだろうか。
”バカの事を書いた本?“
レイに聞いてみた。
”バカでは無い。 ウマシカだ“
”ウマシカ?“
“馬の様に顔の長い鹿だ。 従魔にしたウマシカに乗って世界を回った時の事を書いた旅行記じゃ“
“バカじゃないんだ”
”馬よりも賢いから、従魔にしている冒険者も多いぞ“
“ウマシカって人が乗れるの?”
”馬よりも少し小さいが、岩場や急斜面でも歩けるから、僻地に行くには便利な魔獣だ“
“そうなんだ”
”ウマシカの上位種でツノウマシカというのもおるぞ。 こちらは体も大きいから、大人2人を乗せられる“
“そうなんだ”
どうやら旅行記のような本らしい。
「おっちゃん、その本は幾ら?」
「金貨3枚だ。」
薄い本が1冊3万円。
地下出版のアイドルエロ本かと思うような金額だが、この世界では紙が高いし、印刷技術も確立していないから本はめっちゃ高い。
レイからも高いと言う意見は無かったから相場並みなのだろう。
「はい、金貨3枚。」
「ありがとよ。」
『世界馬鹿歩き ベルン編』を買った。




