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118 世の中はままならない。

熊に呼ばれた。

「もうすぐ花咲き祭りだ。」

「うん。」

「ショータに公爵家から招待状が届いた。」

「招待状?」

意味が判らない。

「Aランク冒険者であるショータを、ベルン宮殿に招待するそうだ。」

「宮殿にアンデッドがいるの?」

「貴族なんて奴らは魑魅魍魎の様なものだからな、ってそうじゃねえ。 花咲き祭りの庭園解放日に、公爵閣下と一緒にバルコニーに立って、住民達に手を振って欲しいらしい。」

はあ?

散々嫌がらせや襲撃をさせておいて、どの口で宮殿に来いと言うんだ?

しかも侯爵と一緒にバルコニーから手を振れだと。

公爵、頭に虫が湧いてるんじゃね?

「嫌!」

「即答かよ。」

「だって嫌だもん。 それに、祭の日の宮殿なんて貴族で1杯でしょ?」

「まあそうだな。」

俺の事を快く思っていない貴族がウジャウジャいるところに行く気なんて無い。

公爵は俺に頭を下げたが、それすらも貴族の反感を増す結果にしかならなかった。

未だに俺に対する貴族のいやがらせが続いているのは、東部地域を統括する最高責任者である公爵の責任だと思ってる。



前世では、顔も名前も知らない従業員の不祥事でも、責任を取るのが経営者の役目だった。

全く知らない社員がやった事でも、”弊社社員の不祥事、まことに申し訳なく思っております“とか謝らされて、辞職や給与の減額に追い込まれるのはよくある事だった。

バイトテロなんかでも対応次第では企業経営者の責任が問われるのだ。

バイトの事なんて知らんがな、とは言えないのだ。

今迄に起こった襲撃や嫌がらせは、公爵が良く知っている重臣、前世なら会社の重役に相当する貴族達が、俺に対して不当な振る舞いをしたという事。

最高責任者である公爵がちょろっと頭を下げただけで許される筈など無い。

最高責任者は、知らなかったという事自体が責任者としての過失だと俺は思っている。

頭を下げたのだから自分は許された、そう思っている心根が許せなかった。



「それに去年の祭りの日は、怪我人がめっちゃ多かったよ。 祭りの日に俺が治療室にいなかったらギルドが困るんじゃない?」

「それだ!」

熊が突然叫んだ。

「えっ?」

「ショータは行きたいと思っているが、祭りの日は怪我人が多いから治療室を離れられない。 うん、これなら公爵も無理に来いとは言えんだろう。」

熊は公爵からの招待を断る口実に困っていたらしい。

「はあ。」



「花咲き祭りでは、ショータの魔法陣を使った魔道具のお披露目をするそうだ。」

「もう魔道具が出来たの?」

「ベルン中の魔道具工房と錬金工房の職人を総動員して作ったらしい。」

「総動員って、そんなに沢山作ったの?」

魔力効率が良いからたぶん売れるとは思うけど、いきなり大量に作るのはどうなんだ?

売れ残りが山積みになっても知らないよ。

「中央公園の周りにある教会や図書館、中央大通りの商店、臨時に作る櫓などに取り付けてベルンを明るく照らすそうだ。」

デモンストレーション用に大量生産をしたらしい。

前世のルミナリエみたいになるのかもしれない。

「それなら大勢の人に新しい魔道具の明るさを知って貰えそうだね。」

「一般販売用の魔道具も大量に作られているそうだぞ。」

「そうなの?」

販売用は売れ残りがちょっと心配。

「今までの灯りの魔道具に使われていた魔法陣をショータの魔法陣に入れ替えるだけで明るさが100倍になる上に、屑魔石でも魔力が何日も持つらしい。」

「そうなんだ。」

灯りの魔道具を使った事が無いので良く判らないけど、俺の魔法陣は魔力効率が高いので今迄よりも長持ちはする筈。

「目端の利く商人は、在庫になっている灯りの魔道具を安く買い集めて、魔法陣の入れ替えをさせているらしい。 入れ替えるだけで今迄の10倍以上の値で売れると見込んでいるようだ。」

「そんなに沢山の魔法陣を描けるの?」

「今までの魔法陣に比べれば、文字数が大幅に少ないから、大量に作るのも問題は無いらしい。 もっとも魔法陣を描ける職人はあちこちで奪い合いになっているらしいがな。 花咲き祭りで一気に注文が殺到する筈だと、どの工房も徹夜で生産しているそうだ。」

「そうなんだ。」

仕事が増えて、ベルンの人達の暮らしが良くなるのは嬉しい。

お披露目が旨く行くように、ササヤカお神にお祈りした。



「祭りの日はどうするんだ?」

バンさんに聞かれた。

「去年と一緒。 治療室でお仕事。」

「そう言えば、去年は怪我人が多かったな。」

「気軽に怪我をされるのも、どうかと思うけどね。」

ギルドの治療室は治療費が安く済むからと、冒険者達が気軽に喧嘩に参入してやたらと怪我をした去年の事を思い出す。

「まあ年に1度のお祭りだから、羽目を外すのもしょうがないさ。」

「俺としては儲かるからいいけどね。」

「バカ程治療が出来るショータだからそんな事が言えるけど、教会の治療室では神官達が次々と魔力切れになって、他を担当していた神官や偉い神官まで治療を手伝ったらしいぞ。」

神殿は大変だったらしいけど、治療費が高いからめっちゃ儲かった筈。

ひょっとしたら喜んでいたかもしれない。

「アハハハハ。」



明日から花咲き祭り。

ベルンの街には祭りを楽しもうという人々が続々と押し寄せていた。

去年よりも人出が多いような気がする。

まだ祭りは始まっていないのに、喧嘩はあちこちで始まっている。

「骨折3人に軽傷1人、入ります。」

ズンさんが治療室の入り口から顔を覗かせて俺に告げる。

「は~い。」

「骨折2人、入ります。」

「は~い。」

何となくファミレスの厨房で料理の注文を受ける調理担当になったみたいな気がする。

いつもとは違って切り傷が少ない。

街中での喧嘩の場合、剣を抜いたら即刻警備隊に連行される。

警備隊に連行されたら、治療は警備隊の詰め所に駐在している神官の担当。

神官の治療費はめっちゃ高いから、冒険者は喧嘩になっても剣は抜かない。

周りが見えない程感情的になるような者は生き残れないのが冒険者。

ベルンの冒険者達は、狂暴な魔獣相手に何度も修羅場を潜って来たので、最低限の冷静さは失わない。

怒り狂っていても、きちんと自分の財布を考えて行動するのは、さすがと褒めて良いかもしれない。

ベルンを拠点とする冒険者はレベルが高いだけあって、冷静且つしたたかなのだ。

出来れば気楽に喧嘩をしないで欲しいけど、患者が減るのも困る。

世の中はままならない。



今日はまだ前日なので、明日からの祭りに備えて皆が早めに引き上げる。

俺も8時には部屋に戻れた。

「セイヤ、セイヤ、セイヤ、セイヤ!」

「セイヤ、セイヤ、セイヤ、セイヤ!」

窓を開けるとあちこちから子づくりの掛け声が響いて来る。

去年聞いた時はお祭りだから賑やかなんだとしか思わなかったが、お籠りを経験した今は、子づくりの様子が脳裏に浮かんで妙に心がざわついた。



いつもの朝練を終えると、治療室に向かった。

普通なら図書館に向かう時間だが、今日から1週間は花咲き祭。

皆が浮かれているので、早い時間から怪我人が来るかもしれない。

レイと念話で魔法談義をしながら、治療室で待機する事にした。

今日は花咲き祭りの初日なので、昼過ぎから次々に怪我人がやって来た。

祭りの開始を待ちわびる男連中が多いので、テンションが一番高いのは初日。

祭りになると朝から飲んでも奥様に怒られないから、朝からスタートダッシュの勢いで飲むって冒険者のおっちゃん達が言っていた。

祭りは1週間続くんだから、ゆっくり飲めよ。

男達は祭りが始まる朝から飲み始めるので、昼頃にはあちこちで酔っぱらいの喧嘩が始まってしまう。

当然、治療室に運ばれて来る怪我人の出足も早く、いつもは夕方から忙しくなるのに今日は昼頃から次々に怪我人がやって来ていた。



バタバタしているうちに、あっと言う間に夜になった。

「ショータ、表に出てみろ。」

怪我人が途切れたので治療室を出たら、バンさんに声を掛けられた。

バンさんと一緒にギルドを出ると、中央大通りの方角がめっちゃ明るい。

「凄いだろ。 新しい魔道具が開発されたんだってさ。 大通りは真昼みたいだぞ。」

魔法陣の開発者は某匿名希望さんという事にして貰ったので、俺の事は知られていないらしい。

良き哉、良き哉。

バンさんと一緒に中央大通りに行ってみると、中央大通りが建物の屋根に付けられた新型灯りの魔道具によって真昼の様に明るくなっていた。

光の帯は遥か彼方にある中央公園の方まで続いている。

ベルンのルミナリエだからベルナリエ?



人通りも多い。

特に貴族や商人ぽい人が多いような気がする。

「貴族や商人っぽい人が多くね?」

「新しい魔道具の情報はもう大陸中に広がっているから、実際にどれくらい明るいかを確かめようと、帝国だけでなく近隣の国からも貴族や商人達が来ているらしいよ。」

「そうなんだ。」

そう言えば、魔法陣の登録は大陸ギルド本部にも報告されるって言っていた。

大陸商業ギルドと大陸魔道具ギルドから帝国以外にも情報が広がったのだろう。

街が明るくなれば、犯罪も減るのでどんどん広がって欲しい。

俺の儲け?

魔法陣の使用料はギルド規定の最低限にしたよ。

その代わりに、めんどくさい実務関係は全て商業ギルドと魔道具ギルドに丸投げしたけど。

俺の儲けは殆ど無いけど、あぶく銭が増えても困るだけ。

めんどくさい事は嫌いだし、世の中が明るくなればそれでいい。



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