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117 思わず怒鳴りそうになる

トーラさんがベロと戯れているのを眺めていたら、店の奥から女性が現れた。

俺の前まで来た女性がちょっと戸惑ってる?

「フーク、こちらがショータさんよ。 堅苦しい事と、竜滅と呼ばれるのが御嫌いなんですって。」

フークと呼ばれた女性が驚いたように目を見開いた。

うん、大抵の人は俺が竜滅と聞くと驚く。

見た目は子供が子供なだけでなく、めっちゃ可愛い女顔。

芝居に出て来る竜滅とは違いすぎるからなのだろう。

見た目は子供、頭脳は大人。その名は竜滅のショータなんちゃって。

「初めてお目に掛ります、店主のフークと申します。 本日はご来店有難う御座います。」

「お世話になります。」

「トーラさんはショータ様とお知り合いでしたのですか?」

「うちのタイガから話は聞いていたけど、会ったのは今日が初めてね。 強そうな人がうちのシマに入って来たから私が出張ったら、表通りの店で門前払いを食って困っていたショータさんがいたの。」

「ショータ様を門前払いしたのですか?」

「私が会ったのはミクダシ屋の前。」

「成程、良く判りますわ。」

フークさんが何度も頷きながら納得した顔をする。

どうやらミクダシ屋は、お金になりそうもない客を手酷く追い出すのが日常らしい。

「それで私がここへ案内したの。 予算は無制限らしいので品質の良い物を見せてあげて。 大金を孤児院にホイホイ寄付しているショータさんだから、支払いには問題ないからね。」

「ベルン中の孤児院に寄付して頂いたというお話は聞いております。 ショータ様のお役に立てるよう、頑張りますわ。」

そんな話をしている所へ、先ほどの店員さんが服を抱えて戻って来た。

後ろでは5人の店員さんが、沢山の服が吊るされたハンガーラックの様なものを幾つも運んでいる。



「お待たせいたしました。 まずはサイズの確認をさせて頂きます。 おおよそのサイズの品を4点お持ちしました。」

4人の店員さんが前に並んで持って来た上着を広げる。

“どう?”

“左2つは肩幅が足りぬ。1番右は大きすぎじゃ。右から2番目じゃな”

「右から2番目の大きさだと思いますが、俺の空間魔法でサイズを正確に測りたいので、1度収納に入れさせて貰っても良いですか?」

「勿論で御座います。」

服を収納に入れる。

すぐにレイが試着した。

“ふむ、サイズはピッタリじゃ。 だがこれでは地味過ぎる”

服を収納から出す。

「サイズはこれで良いと思います。 相手の方が派手好みなので、この大きさでもっと派手な物を見せて下さい。」

「承知致しました。」

店員さん達が派手な服を選んで次々に見せてくれる。

“地味じゃのう”

「もう少し派手な物をお願いします。」

“まだ地味じゃのう”

「もう少し派手な物をお願いします。」

レイの意見を店員さんに伝えていたら、どんどんと服が派手になってきた。



元の持ち主がどんな人かは判らないが、とてもじゃないが人前で着るのは憚られる程奇天烈なデザインの物ばかりになってくる。

“これは良いな”

ええっ!

レイから届いた念話に思わず声を上げそうになる。

どう見てもチンチン・ドンドンと大きな音を鳴らしながら街を練り歩く街頭宣伝業の衣装。

最近はネットでしか見られなくなったけど。

”着てみる?“

“冗談だ”と言う念話が帰って来ると思って、からかい半分で念話を送ってみた。

“うむ”

着るんかい!

冗談ではなく本気らしい。

「これなら相手方の好みに合う気がします。 サイズ確認の為に、1度収納に入れさせて貰っても良いですか?」

「勿論です。」

まさかと思っていた派手な服を収納に入れる。

暫く念話が来ないのは、実際に手に取ったらあまりにも酷いと呆れたのだろう。

”なかなか似合っておるようじゃ“

暫くして、嬉しそうな念話が返って来た。

ええっ!

”鏡に映る我が姿に見惚れてしまったので遅くなった“

「・・・・。」

1瞬言葉を失った。

鏡であのけばけばしい服を着た自分の姿をみて、見惚れた?

嘘だろ?

この服を着るつもりか?

“以前着ていた服に付いていた飾りボタンがある。 これを服に着けさせてくれ”

“この服に、更に飾りボタンを付けるの?”

“気に入ったボタンなので取って置いた。 これを付ければ更に見栄えが良くなることは間違いない”

この派手な服に飾りボタンを付けて見栄えが良くなる?

意味が判らない。

”ソウデスカ“

収納から派手な服とレイの言っていた飾りボタンが入っているらしい小袋を取り出した。

「服のサイズは大丈夫なので、上着はこれにします。 以前手に入れた飾りボタンがあるので、これを服に付けて貰えますか?」

フルギさんに服と飾りボタンの入った小袋を渡す。

店員さんが驚いた表情でフークさんの顔を見る。

フークさん、今、目を背けたよね。

俺も目を背けたいよ。

「・・・承知致しました。」

フルギさんがテーブルの上に布を広げ、飾りボタンを小袋から取り出して並べる。

「「「「・・・・・。」」」」

トーラさんもフークさんもポカンと口を開けている。

俺の口も開いている。

小袋から出て来たのは、1㎝以上の大粒のダイヤが嵌め込まれた2㎝程ある金の飾りボタン。

念の為に鑑定を掛けると”純金の飾りボタン 5~8カラットの天然ダイヤ付き“。

カットが違うせいか、前世に比べるとキラキラ度が少ないものの、ダイヤだけに他の宝石よりはキラキラ度が凄い。

大粒のダイヤが20個以上並ぶと、壮観としか言いようが無い程キラキラしている。

トーラさんやフークさん、フルギさん達の店員も鑑定したらしく驚いている。

このド派手な上着に、このキラキラした飾りボタンを付けるのか?

皆の思いは同じらしく、全員が俺の顔を覗き込む。

俺の趣味じゃねえぞ!

思わず怒鳴りたくなる。

店内が暫く無音状態になった。

「コホン。」

最初に現世に帰還したのはボタンを並べたフルギさん。

わざとらしい咳払いを聞いて、ポカンと開けていた口を皆が一斉に閉じた。

「・・・ボタンの配列とかは、如何なされますか?」

“どうする?”

レイに聞いてみた。

”職人に任せれば良い“

「お任せします。」

「直ちに作業に入らせて頂きます。 作業の間に、ズボンとシャツをお選び下さい。」



次はズボン選び。

俺はレイの念話をフルギさんに伝えるだけ。

もう考えるのは止めた。

レイが選んだズボンもめっちゃ派手。

大勢の腰元達をバックダンサーにしてサンバを踊る某時代劇スターの衣装よりも派手。

それでなくともド派手な上着にキラキラのダイヤがちりばめられている。

その下にキンキラキンの全然さりげなくないド派手ズボン。

ギンギラギンならさりげないのかも知れないが、キンキラキンはダメだ。

そしてレイが気に入ったシャツに至っては、胸元に大きなフリフリのレースが付いている。

レイスキングだけにキングサイズのレース。

ばんざ~い、ばんざ~い。

余りにも酷いレイのファッションセンスに呆れたせいで、買い物の終わり頃には俺も殆どヤケクソになっていた。

フークさんやトーラさんは、だいぶ前から俺に背を向けたままベロを撫ぜ回している。

俺の対応をする店員さん達も次第に俺から距離を取るようになっている気がする。

俺が選んでるんじゃねえ!

思わず怒鳴りそうになる。

怒鳴れないけど。



この服を着たレイとは、絶対一緒に歩かない。

俺は堅く心に誓った。

代金は白金貨27枚、前世の2700万。

やす~い、社長ありがとう~、って夢グループかい!

人件費は安いが、工業製品が高いのが今世。

貴族の仕立て服は安い物でも白金貨10枚以上らしいし、ドレスに至っては白金貨100枚越えも当たり前らしいので安かったもかも知れない。

レイ以外にこんな派手な服を買う人が居るとは信じられないけど。

まあ俺が稼いだ金では無くてあぶく銭を使うのだから問題は無い。

あぶく銭はベルンの街に還流出来ればそれでいい。

大切なのは自分できちんと稼いだお金だけ。



古着屋街から戻った。

いつもなら部屋に戻ったらすぐレイが収納から出て来るのだが、今日は収納に入ったまま。

そう言えば帰り道でもレイからの念話は無かった。

ひょっとしてあまりにも派手な服を買った事を後悔している?

ちょっと心配になって念話を飛ばした。

”レイ、大丈夫?“

“・・・・”

返事がない。

只の屍のようだ、って1600年もずっと死んでるんだから只の屍の筈が無い。

”レイ?“

もう一度呼び掛けてみる。

“お、おう。 鏡に映る儂の姿に見惚れておった。 もう部屋に戻った様じゃな”

念話と共にレイが収納から出て来た。

「うっ!」

目の前に現れたキラキラで1瞬視界を奪われる。

部屋の灯りの明度を下げる。

いつも通りの明るさだと俺の目が持たない。



改めて見ると、・・・・凄い。

この姿を鏡で見て見惚れていた?

レイの目は節穴か?

いや、目玉が無いから髑髏に開いた只の穴なのは間違い無いけど。

そうじゃなくて、レイの脳みそは大丈夫か?

脳みそは無い?

ソウデスカ。

前世では、ペットの犬に酷い格好をさせた動画をネットに上げて炎上した飼い主が、動物虐待で逮捕されたと言うのを聞いた事がある。

その恰好を犬が気に入っているからだと飼い主が主張しても、誰も聞いてくれない。

従魔であるレイの主人は一応ではあるがたぶん俺。

この格好は従魔であるレイ自身が気に入っているからだと主張しても、非難を浴びるのは主人である俺になりそうな気がする。

絶対に他の人にはレイを見せない、あらためて心に決めた。

「えっとぉ、服の着心地はどう?」

直視すると、俺の精神が持たないので、視線を外して話す。

「うむ。 柔らかく滑らかな生地なので肌触りも良い。 何よりもこの眩さが儂の威厳を高めておる。 良い物を買って貰った、感謝するぞ。」

「ソレハヨカッタ。」

威厳が高まったかについては疑念があるけど、本人が喜んでいる様なのでそれ以上聞くのは止めた。

はぁ。


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