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115 秘剣鑑定返し

今日は治療室がお休みなので、早めに昼食を摂って荒野の訓練場に来た。

ベロは訓練場に着くなり、嬉しそうに森の方へと走って行った。

ベロは走るのが好き。

ベルンでは思い切り走れないので、荒野の訓練場に来た時は直ぐに走りに行ってしまう。

ひとしきり走ったら戻って来るから問題は無い。

俺はいつも通りに魔力操作の練習と、空間魔法の基礎である遠視と遠聴の訓練をしていた。

人目の無い場所なので、レイは俺の魔力操作を確認する為に、収納の外に出て少し離れた所から俺を見つめている。

お天気が良いので、レイが付けている真っ赤なマントが派手過ぎて目に痛い。

ふと見ると、レイの体に枯葉が挟まっていた。

「レイ、葉っぱが腰骨に絡まってるよ。」

「おお、どうもむず痒いと思ったら枯葉が入り込んでいたか。」

レイがマントを広げ、腰骨に手を突っ込んで枯葉を摘まみ出す。

マントを広げたから骨が丸見えになっている。

「レイは服を着ないの?」

靴と手袋は着けているのに、シャツやズボンを着ていない事が不思議に思えた。



「昔は着ておったが、以前着ていた服が破れてからは着ておらんな。」

「破れたんだ。」

戦いか何かで破れたらしい。

「マントと靴、手袋は古代遺物じゃから破れる事は無いが、服やズボンは魔導具では無かったからほんの4~500年で破れおった。」

いやいや、ほんの4~500年って何だよ。

4~500年も破れずに着られた事の方がびっくりだぞ。

「・・・そうなんだ。」

「外に出ると枯葉やゴミが骨の間に入る事も有るが、外に出る事など殆ど無いから、服が無くとも問題は無い。」

とはいえ、俺の訓練中は外に出て俺を見ていてくれる。

「外に出るのは嫌なの?」

無理をして外に出ているのかと、ちょっと申し訳なく思う。

「それは無い。 こうしてショータの魔法を眺めるのは興味深い。」

基本的に俺と同様引きこもり気味なレイだが、興味ある事があれば外に出るのもやぶさかでは無いらしい。

俺が魔法の練習をする時は、俺の全身に流れる魔力の動きを見易いように収納を出て、少し離れた所から俺の魔力を観察してアドバイスしてくれる。



レイはレイスの王に相応しい豪華なマントと王冠を身に着けてはいるが、時々見えるマントの下は全身が骸骨。

靴と手袋だけはめっちゃ高そうなのを着けているけど、体が骨だけだといかにも寒々しい。

「服が無いと、寒くでしょ?」

春になったとはいえ、裸だとまだまだ寒い季節だ。

筋肉や脂肪があっても寒いのだから、骨だけならもっと寒い筈。

「死んでおるので暑さ寒さは感じぬ。 暑かろうと寒かろうと儂には問題が無い。 じゃが、外に出る時は服を着た方がよさそうじゃな。 枯葉が入り込んで痒くなるのは嫌じゃ。」

大きな宝玉の付いた禍々しい杖を持って、宝石が沢山ついた王冠を被っているけど、その他の所は理科の実験室に置いてあるような骸骨さんなので、今日の様に枯葉が入り込むことがあるらしい。

「服を着るのが嫌でなかったら、俺が買ってあげるよ。」

収納には闇のナーベの金庫にあったお金も沢山入っている。

高額になりそうなら、ギルドの口座にもあぶく銭が溜まっている筈。

確認した事は無いけど。

「うむ、それもよいのう。」



レイの服を買う事になった。

レイはSランクだから、服もそれなりの物でないと似合わない。

レイが俺の従魔という事は秘密なので、服屋さんを呼んで仕立てて貰う訳にはいかない。

仕立てやさんが骸骨のレイを見たら、腰を抜かす程度では済まない。

あっと言う間に噂が広がって、ベルンを追い出されるだろう。

そもそもレイはレイスキング。

今着ているマントは王様仕様だし、靴も手袋も古代遺物の魔道具。

新しい服を仕立てる事が出来ないなら、マントや靴に合わせた立派な服を手に入れるには、飛び切り品質の良い古着を探すしかない。

ベルンで品質の良い古着を買うならタイガさんが仕切っている東虎会のシマ。

貴族街に近いので、良い品を扱う古着屋が多いとタイガさんが言っていた。

東虎会のシマはベルンの東北部。

大門ギルドからは遠いけど、レイの服を買う為なら遠くても仕方が無い。

遠くまで行くのは、東虎会のシマにある花街に行けば“乳が触り放題揉み放題“ってタイガさんに言われたからじゃないよ。

今はまだ20人近くの監視員が毎日俺を見張ってるから、花街のお店には行きたくても行けない。

まあ、1度は行ってみたいと思っているけど。

レイの転移で監視員を撒くのは拙い。

レイの存在と転移は絶対に秘密にしておかなければならない奥の手。

奥の手を使わずに監視員を撒くのは無理そうだ。

ぐぬぬ。



「身長は何センチ?」

服屋さんでレイを見られる訳にはいかないので、体のサイズを聞いてみた。

「去年までは191㎝だったが、今年は193㎝だ。」

うん、メジャーリーグではストライク・ボールの自動判定システムが導入されたから、今年から身長を正確に測る様になったんだよね。

って、大谷さんかよ。

「背が伸びたの?」

「今までは身長など計らなかったから、生きていた時の身長のままだと思っていた。」

「今年は計ったの?」

「ショータが計って貰ったのを見て、1600年ぶりに計ってみたら2㎝伸びていた。」

ストライク・ボールの自動判定システムは関係なかった。

193㎝だと、この世界では特に大きいと言う程でもない。

何で俺だけ小さいんだ?

ササヤカお神のショタコン趣味のせいとは判っているけど、愚痴を言いたくなる。

「肩幅は?」

「判らぬ。 だが、儂から見える所で服を広げてくれれば、空間魔法で儂に合ったサイズかは判るぞ。」

「だったら古着屋さんで色々と見ればいいね。」

「そうじゃな。」



治療室が休みの日に、ベルン宮殿の南側にある貴族街へと向かった。

貴族街の少し手前を東に走る道沿いが、貴族達の衣装を仕立てる店が並ぶ衣装街。

服やドレスのデザインをするアトリエと、お針子さん達の作業所があるとズンさんが言っていた。

衣装街では服やドレスは売っていない。

貴族は衣装屋を屋敷に呼びつけて、衣装の相談や採寸をするそうだ。

注文を受けて素材やデザインを決め、1点物として生産するので、1着白金貨10枚、前世の1000万円が最低価格。

高い物だと白金貨100枚、前世価格だと1億円を超える物も珍しい事では無いらしい。

衣装街を東に進んで行くと、古着街になる。

ここでは服や下着、装飾品など色々な貴族の下げ渡し品を売っている。

払い下げ品といっても、貴族が同じ服を何度も着る事は無いので、どれも新品同様。

高位貴族の場合は、下着も一度使ったら使用人達に下げ渡す。

使用人達は古着屋に持って行き、売ったお金で自分用の安い下着を何枚も購入する。

古着屋は買い取った品を丁寧に洗って、小金を持つ商工主たちに売る。

って、ズンさんが言ってた。

たぶん匂い付きは売っていない。

知らんけど。



先ずは色々な店を覗いてみようと思った。

良い品を置いてそうな店を探していたら、立派な外装の店があった。

取りあえず中に入ることにする。

そう思って店に向かったら、入り口で止められた。

「ここは子供の遊び場では無い。」

入り口にいた冒険者っぽいおっちゃんに追い払われた。

俺の見た目は10歳だから仕方が無いか。

この店を諦めて、周りを見渡す。

大きな店が何軒か目に付いた。

その中の1軒に向かう。

「小僧の様な貧乏人が来る所では無い。」

高級な服を扱っていそうな店に行ったら、けんもほろろに追い出された。

そういえば、俺が着ているのはいつもの仕事着。

ベルン宮殿に行った時に着た、一張羅の七五三服にすれば良かったと後悔した。

紅海、先にあるのはスエズ運河。

今はホルムズ海峡の方が重要だ。

って、関係無いか。

違う店に向かう。

「商売の邪魔だ、2度と来るな。」

追い払われた。

まあそうなるな。

ぐぬぬ。



ん?

3軒目の店で追い払われた時、探知が異変を告げた。

画面を観るとひと際大きな白い点が俺の方に近寄って来る。

大きな点の後ろには、少し大きい点が1つと普通の点が2つ。

一番大きな点と少し大きい点は色が薄い。

隠蔽を使っているらしい。

大きな白い点が脇道から俺の居る通りに出て来た。

女性1人と厳つい男2人を連れた大柄な女性。

背丈だけではなく、胸部装甲がめっちゃ凄い。

思わず見とれてしまう。

女性を見ると、胸に目が行ってしまうのは条件反射なので仕方が無い。

いや、今はそれどころでは無い。

この人、めっちゃつおい。

頭の上にはぴょんと立ったネコミミ。

めっちゃつおい筈なのに、ネコミミが可愛いからか怖さは感じない。

ん?

ネコミミお姉さんに鑑定を掛けられた。

鑑定を掛けられたら掛け返すのが当然の礼儀。

目には、目薬をだ。

“鑑定“

ネコミミお姉さんに向かって鑑定を返す。

秘剣鑑定返し。

どうや!

今名前を思い付いただけで、ただの鑑定だから凄い技という訳では無い。

秘密でも無いし剣なんて全然関係無いけど、名前を付けると藤沢周平みたいで何となくカッコイイと思ったから名付けてみた。

“トーラ 虎人族 東虎会総家 婿はタイガ” 

あちゃ~、タイガさんの奥様だった。


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