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114 ベルン宮殿の1室 その6

お星様とブクマありがとうございます。

世の中がきな臭くなっておりますが、読者の皆様が少しでも楽しい気分になれるように頑張ります。

頼運

「言葉が無礼であっても構わぬ。 街で聞いて来た話を、聞いて来たまま話せ。」

公爵の側近が諜報員達に命じる。

諜報員達が勝手な解釈をしないよう、聞いた噂をそのまま報告する事を求めたのだ。

ベルン宮殿の1室で、公爵と側近達が、街の噂を集めて来た諜報員達の報告に耳を傾ける。

諜報員達は街の噂を書き写した紙を見ながら、そのままを読み上げるのであった。



「竜滅が公爵家の年金を断ったって知ってるか?」

「年金って何だ?」

「公爵家の血筋とか才能の有る芸術家が生活に不自由しないよう、公爵家が毎年与える金だ。」

「毎年貰えるのか?」

「そうだ。 公爵家が援助する価値があると判断した者しか貰えんがな。」

「竜滅は公爵家にとって価値があるのか?」

「Aランク冒険者は、1万人の兵に匹敵すると言われているから十分に価値がある。」

「1万人の兵を雇って置くよりも、竜滅に年金を出した方が安くつくってことさ。」

「そうそう。 竜滅はこの街に住んでいるだけで、公爵家にとって価値があると言う事だ。」

「でも竜滅は断ったんだろ?」

「断ったという事は、ベルンから出るつもりなのか?」

「竜滅は公爵家と仲が悪いからな。」

「そう言えば、そうだった。 ワーバーンを倒してベルンを守ってくれたのに、褒賞どころか殺されそうになったんだよな。」



「Aランク冒険者は国にとって重要だから、どの国でも冒険者がAランクに昇格したらすぐに年金が支払われるって聞いているぞ。」

「1年間もほったらかしにして、今頃になって払うってどういう事なんだ?」

「恐らく近々どこかの国に攻め込むつもりで、竜滅を手駒として使いたいんじゃないか?」

「年金を貰っていたら、出陣を断れないという事か。」

「何もしないで金を貰っていたら、よその国に逃げる訳にも行かないからな。」

「公爵にとっては、旨く行けば領地が広がる。 失敗しても嫌いな竜滅が死ぬだけ。 死んだら年金も払わなくてもいいってことか。」

「戦争を起こすまでの短い間なら、年金を払うことぐらい屁でもないんだろ。」

「そうだな。 竜滅を戦力として使えるなら、年金なんて安い物だ。」

「成程。 それで竜滅は年金を断ったのか。」

「公爵の考えを、先の先まで読んで断ったって事か。 流石は竜滅だ。」

「俺なら目先の金に目が眩んで、気が付いたら戦場の最前線だろうな。」

「竜滅はお貴族様達とは違って、金には全然執着し無いからな。」

「そうそう。 竜滅は公爵から貰った褒賞金全額をポンと孤児院に寄付する男だ。 だからこそベルンの住民みんなが竜滅を応援してるんだ。」

「竜滅の活躍が気に入らないのは貴族共だけだ。」

「だけど、それが問題なんだよな。」

「しかし、年金を断ったという事は、竜滅はこの街を出て行くつもりなんだろ?」

「竜滅は孤児院や教会に沢山の金を寄付しているし、ギルドの冒険者達とも仲が良い。 この街が気に入っているのは間違い無いが、住み着いてくれるかは公爵次第だろうな。」

「今迄随分ひどい扱いをされたし、これからも公爵が妙な事をして来るなら、流石の竜滅でもこの街を出ざるを得ないだろう。」

「まあ、仕方が無いといえばそれまでだけど、竜滅がいなくなるのは寂しいな。」



「竜滅がベルン1の名工カジシに新しい剣を注文したそうだ。」

「竜滅は公爵様から剣を拝領したんじゃ無いのか?」

「その剣がなまくらで気に入らなかったんだって。」

「公爵が下賜した剣がなまくらなのか?」

「歪んでいて真っ直ぐに振る事すら出来ない不良品だったらしい。」

「竜滅は回復師だから、剣なんかナマクラで良いと思われたんだろう。」

「それでもワーバーン討伐の褒賞だぞ。 ワイバーン12頭を倒した褒賞がなまくらな剣ってどうなんだよ?」

「公爵が下賜した剣だから仕方なく使っていたらしいが、あまりのナマクラさにあの温厚な竜滅もとうとうぶちぎれたらしい。」



「竜滅が剣を頼んだカジシって、公爵の注文を断ったっていう親方だろ。」

「良く知っているな。 その通りだ。 剣の腕が気に入った相手にしか剣を打たない頑固者だが、腕はベルン1らしい。」

「わざわざ公爵の依頼を断った工房に注文を出したって所に、竜滅の怒りを感じるな。」

「剣の腕でも、竜滅の方が公爵よりも上だと見せつけたいってことか。」

「しかし、竜滅は回復師だろ。 凄い魔法を使えるのは知っているが、剣を使えるのか?」

「その辺は良く判らねえが、カジシの工房には行ったらしいぞ。」

「でもカジシ工房は北門の近くだろ? 竜滅がわざわざそんな遠くまで行くか? 大門ギルドからだと相当遠いぞ。」

「それが行ったんだよな。 しかもベルン宮殿を大回りして。」

「竜滅は宮殿の通行証を貰ったんじゃねえのか?」

「貰ったのは事実だが、貰ってからも宮殿には1度も行って無いらしい。」

「宮殿を通り抜ければ随分と近道なのに、わざわざ遠回りか?」

「ベルン宮殿の中を通るのが余程嫌だったんだな。」

「宮殿の中で襲われるのを避けたんだろ。」

「やっぱり竜滅は公爵と仲が悪いって事か。」

「しかし、そこまでしてカジシに剣を頼むか?」

「たとえ遠くとも、竜滅が出向いて注文する程カジシの腕が良いって事だ。」



「だけどカジシは、公爵が錬金工房に命じて材料の仕入れを止めさせたから、材料が手に入らなくなって、剣を打てなくなったって聞いたぞ。」

「その上、公爵が配下の貴族達に工房の壁を壊させたから、潰れかけの工房のような有り様だと聞いているぞ。」

「その噂は事実だ。 今では殆ど仕事も無くて廃業寸前らしい。」

「材料が手に入らなくて剣を打てなくなったボロボロの工房に、竜滅がわざわざ行って剣を頼んだってことか?」

「材料が無いカジシ工房に、竜滅がミスリルのインゴットを大量に持ち込んだそうだ。」

「うわぁ~、公爵への当てつけかよ。」

「竜滅はそんなに大量のミスリルを持ってたのか?」

「伯爵屋敷の悪霊退治の時に手に入れたんだって。」

「公爵に嫌われている者同士が手を組んだって事か。」

「敵の敵は味方ってやつだな。」

「カジシは引き受けたのか?」

「ベルンの英雄である竜滅の剣が打てるのは鍛冶師の誉れだと、喜んで引き受けたそうだ。」

「領主である公爵の依頼を断って、竜滅の依頼は喜んで引き受けたのか。」

「流石は名工と言われるだけの事はあるな。」

「待て待て、竜滅は回復師だ。 剣を遣うなんて聞いた事ねえぞ。 カジシは剣の腕を見て引き受けるかどうかを決めるんだろ?」

「いや、竜滅は大門ギルドのギルマスに剣を教えて貰っている。 ギルマスは帝心1剣流の達人だから竜滅が剣の達人でも不思議はない。」

「あの竜滅だからな。」

「ああ、剣も凄いんだと言われても、竜滅なら納得出来るな。」

「回復師の腕も1流だが、剣の腕も1流と言う事か。」

「あのカジシが引き受けたんだから、そうなんだろう。」



「貴族3人が100人の兵を引き連れて竜滅を襲ったそうだ。」

「Aランク冒険者は1個師団1万人相当っていうぞ。 それなのにたった100人で襲ったのか?」

「襲ったのは公爵家譜代の子爵3人が率いる兵らしい。」

「という事は、命じたのは公爵家か?」

「それは判らんが、中央公園で2時間も戦っていたのに、警備隊が来なかったそうだ。」

「ベルンのど真ん中にある中央公園で戦ったのか?」

「ああ、群衆が大勢集まって、群衆目当てに串肉の屋台も出ていたらしい。」

「2時間も戦っていたら、屋台も出るか。」

「屋台が出る程時間が掛かったのに、警備隊が来なかったってどういうことだ?」

「そうだよな。 警備隊は何をしていたんだ?」

「警備隊の長官も公爵家譜代の子爵なんだって。」

「ああ。 前の長官が竜滅への不敬罪で処分されたから譜代の子爵になったって聞いたな。」

「警備隊もグルってことか。」

「警備隊は竜滅と仲が良いぞ。 長官が出動を止めたんだろう?」



「それにしても、たかが100人を相手にあの竜滅が撃退に2時間も掛かったのか?」

「見ていた奴の話では、竜滅は防御しただけで攻撃は一切しなかったらしい。」

「大勢の見物人の前で、公爵の兵を殺すのは拙いと思ったんだろうな。」

「周辺には折れた剣や壊れた槍が散乱していたのに、怪我人は1人もいなかったそうだ。」

「流石は竜滅だな。」

「公爵家は大勢の見物人の前で恥を晒しただけという事か。」

「まあそうなるな。」



諜報員達が去った部屋では、公爵と側近達が難しい顔をして黙り込んでいた。

「・・・何故このような事になっておる。 余はショータに敵意など持っておらぬし、それどころか感謝しておる。 勿論利用しようなどとは、少しも思っておらぬぞ。」

公爵が頭を抱えながら呟いた。

「・・・、判りませぬ。」

側近達も首を捻るばかりであった。

「余は、ショータを戦わせるつもりなど無い。 そもそもどの国もショータの力を恐れて兵を引いておる。 そんな国に兵を出せば只の侵略行為で大陸中を敵に回す事となる。」

「おっしゃる通りで御座います。」

「1度も宮殿に来ぬのは、ショータが忙しいのとギルドから遠いからと聞いておった。 宮殿を遠回りする程に余は嫌われておるのか? 」

「・・・・、誰もが欲しがる宮殿の通行証を与えたのに、何故遠回りして迄宮殿に入らなかったかについては、全く想像も付きませぬ。」

「恐らく、別の目的があって遠回りする必要が有ったのかと思われます。」

「遠回りする程の目的とは何じゃ。」

「・・・、それは判りませぬ。」



「ショータがわざわざギルドから遠い鍛冶師街まで行ったのは、余の注文を断った工房があるからというのは事実か?」

「それも判りませぬ。 たまたま立ち寄った工房がカジシ工房だったという事も有り得ますが、民衆は閣下の依頼を断った工房にわざわざ行ったと思っておるようで御座います。」

「ドワーフの鍛冶師が金よりも誇りを大切にしておる事は余も存じておる。 剣の腕については、余も不足しておる事を自覚しておる。 カジシが余の頼みを断ったのは当然じゃ。 余は譜代の貴族から、工房には話を付けてあるから是非とも注文を出してやってくれ、と頼まれた故に赴いただけじゃぞ。」

「後に調べました所、貴族は剣の制作を引き受けよという命令書1枚を1方的に工房に送りつけただけで、工房には1度も行った事は無かったばかりか、工房からの返事も無かったという報告を受けております。」

「ドワーフの気質を知らぬ愚かな貴族の振る舞い、としか申しようがありませぬ。」

「あの時も余はカジシを咎めはしなかった。なのに何故に余がカジシの敵という事になっておるのじゃ?」

「噂の事ですから、口から口へと伝わる間に変わってしまったとしか思えませぬ。」



「・・・、カジシ工房への材料納入を止めたと言うのは誠か?」

「命令書を送り付けた貴族が、面子を潰された腹いせに、カジシ工房の取り引き先に圧力を掛けたようで御座います。」

「愚かな。 すぐに取引できるようにせよ。」

「御意。」

「貴族達が工房を壊したというのはなんじゃ?」

「カジシが公爵の依頼を断ったと聞いた譜代の貴族達が、不敬であると憤って襲ったようで御座います。」

「襲った貴族達を洗い出して、処罰せよ。」

「御意。」



「その方達は中央公園の件を知っておったのか?」

側近達が顔を見合わせる。

皆が首を横に振る。

「警備隊からは何の報告も上がって来ておりませんが故、・・・・。」

「初めて聞きました。 速やかに調査致します。」

「・・・、そうであるか。 兵に怪我人が出なかった事は幸いであったが、襲った貴族共と警備隊長の責任は免れん。 厳罰に処せ。」

「直ちに。」 

「はぁ。」

公爵が大きなため息を吐いて頭を抱える。

「何でこうなったのじゃ。」

小さな呟きは側近達にも聞き取れなかった。



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