107 俺は希少な珍獣か?
「ズン、今日は何の用?」
魔導具ギルドの本部に入ると、カウンターにいたズンさんの知り合いらしいおば・・お姉さんが声を掛けて来た。
口には出してないのに、考えている途中でギロッと睨まれた。
ズンさんの知り合いもエスパーらしい。
危ねぇ。
この世界には俺が何を考えているかを感じられる女性が多いから、注意が必要だったのをすっかり忘れていた。
「久しぶりね。 今日は新しい魔法陣の登録よ。 責任者の所に案内して。」
「本当に新しい魔法陣なの?」
「本当よ。しかも画期的な魔法陣。 詳しくは責任者が来てから説明するわ。」
ズンさんがおば・・お姉さんの目を見ながら胸を張る。
デカい。
お姉さんの顔から笑顔が消えて真剣な顔つきになる。
「すぐに担当者を呼ぶわ。 ユド、お客様を1番応接室にご案内して。」
お姉さんが受付の子に俺達の案内を頼んで2階に上がって行った。
ユドさんに案内されて広い応接室に入る。
フカフカのソファーに腰を降ろすと、すぐにお茶とクッキーが運ばれて来た。
めっちゃ香りの良い高そうなお茶にサクサクのクッキー。
ズンさんのお陰でめっちゃ待遇が良い。
俺1人なら、たぶんカウンターで延々と説明する事になったのだろう。
ズンさんがベロを膝に乗せてクッキーをあげている。
ベロは大好きなズンさんにクッキーを貰えて御機嫌。
尻尾の蛇さんもクッキーを貰って嬉しそうに揺れている。
俺もクッキーを食べながらのんびり待つことにした。
暫くすると、おっさん2人とおば・・お姉さんと受付にいたお姉さんが入って来た。
「ギルマスのマードグだ。 これはサブマスのドーグ。」
女性2人は紹介されなかった。
ギルドの御館様は客には紹介しないのが普通と聞いた事が有る。
万が一危険を避ける為らしい。
恐らく2人のお姉さん達は正・副の御館様なのだろう。
「皆さまお久しぶりです。 本日は新しい魔法陣の登録に参りました。 こちらは皆様も名前はご存じと思いますが、ベルン唯一のAランク冒険者であるショータ閣下、竜滅の二つ名で呼ばれております。」
4人の目が大きく見開かれる。
竜滅の名は知っていたらしいが、俺の姿が予想外だったらしい。
大門ギルドの近くでさえ、俺を見て竜滅と気づく人は少ない。
大門から遠く離れた西門近くにある魔道具ギルドの職員が、竜滅の姿形を知らないのは当然と言えば当然だろう。
「そしてこちらがSランクの神獣、ケルベロスのベロちゃん。」
ズンさんがベロの前足を持ってギルマスに向かって可愛く振っている。
うん可愛い。
って、ベロを紹介する必要があるの?
いやそれよりも、魔法陣の登録交渉なのに、ベロを膝に乗せたままでいいのか?
ズンさんの顔を見たら、ジロっと睨まれた。
いいらしい。
「吟遊詩人の詩や芝居では大男という事になっていますが、こちらが正真正銘、本物の竜滅殿です。 ショータ、ギルドカードを見せてあげて。」
収納からギルドカードを出した。
「ギルドカードです。」
魔導具ギルドのギルマスにカードを渡す。
ギルマスが裏表を念入りに見て、受付にいた女性に渡す。
どうやら受付にいた女性がギルマスの奥様らしい。
冒険者ギルドの最高責任者であるズンさんが受付カウンターにいるのと同様なのだろう。
他の2人もギルドカードを確認する。
「良い物を見せて頂けました。 ありがとう御座います。」
ギルマスが俺にカードを返してくれた。
「驚いたでしょ?」
「はい。 まさか竜滅殿がこのような可愛ら・・。コホン、若々しい方とは思いませんでした。」
今一瞬、可愛らしいって言い掛けたよね。
服装は全く気にしない俺でも、女顔なのは気にしているんだぞ。
「でしょ~。」
なんでズンさんがドヤ顔してるんだ?
判らん。
「吟遊詩人や芝居の脚本家がモリモリに盛ったから、竜滅はマッチョな大男とか、派手なマントを着けて大きな杖を持ったイケメン魔術師っていう事になってるのよね。」
「まことに申し訳ない事に、正直に言って本日お会いするまでは、私もそのように思っておりました。」
「ショータはいつもギルドの中に居るから、大門ギルドの近所に住んでいる人でも竜滅の顔を知らないのよ。」
「そうなのですか?」
「ショータは目立つのが嫌いなので、殆ど外には出ないの。 大門ギルドの外でショータの顔を見られる事は、極々稀な事なのよ。」
何となく恩着せがましい?
ズンさんの秘蔵品を特別に見せてあげてる感満載。
俺は希少な珍獣か?
「その姿なら、街で見かけても、誰も竜滅殿とは思わないでしょうな。 改めて、お目に掛れて光栄です。」
ギルマスが俺に頭を下げた。
「こちらこそ宜しくお願いします。」
「新しい魔法陣を開発したと伺いましたが、ひょっとして竜滅殿が魔法陣の開発者なのですか?」
ギルマスが俺に聞いたが、俺が答える前にズンさんが答えた。
「その通り。 それもなんと、・・・。」
ズンさんが胸を張る。
うん、でかい。
って、この間は何なんだ?
めっちゃ溜めてるよね。
「何と・・・。」
「何と?」
ギルマスが身を乗り出す。
「光属性の魔法陣です!」
「光属性の魔法陣だと!!!」
ギルマスが叫んだだけでなく、皆が驚いた顔をしている。
そう言えば、この世界には光属性の魔道具が無いとレイが言っていた。
「ショータ、魔法陣を見せてあげて。」
魔法陣を刻んだ10㎝四方のミスリル板を出した。
魔法陣を新規に登録する場合の原本は、魔法陣を刻んだミスリル板になると聞いて急いで作った物。
ミスリル板の隅には俺の名前が刻されている。
紙に画くと、登録原本を改変される恐れがあるかららしい。
発動試験はしているので大丈夫な筈。
ギルマスがミスリル板を御館様達にも見えるように掲げながら真剣に見つめる。
「古代文字を使っているにしても、文字数が随分と少ないように思われます。 発動試験は行いましたか?」
ギルマスが俺の顔を見る。
「勿論です。 とりあえず発動してみます。」
ミスリル板の上に吸出しの魔法陣を描いた紙を乗せ、真ん中に魔石を置く。
「どなたか、起動してみて下さい。」
「では私が。」
ギルマスが吸出しの魔法陣に手を置いて魔力を流した。
魔導具が光った。
「「「「ウワッ!」」」」
明るさに驚いたのか、4人が同時に声を上げて仰け反った。
「えっとぉ、吸出しの魔法陣の角度を変えると明るさが変わるようにしてます。 もっと明るくするにはこっちに回すと明るくなります。」
魔導具が一層明るく光る。
「なんと・・・。」
「どう? 大陸初となる光属性の魔法陣よ。 凄く明るいのに魔力効率が高いから、魔石の消費量は今販売されている灯りの魔道具の10分の1らしいわ。」
ズンさんが胸を張る。
デカい。
ササヤカお神とはえらい違いだ。
ズンさんが胸を張るたびに、条件反射で目が行ってしまう。
「「「「・・・・。」」」」
4人が口をポカンと開けたまま固まっている。
ズンさんはドヤ顔で何度も頷いている。
取りあえず話を進めて欲しい。
「もしも~し。」
俺が声を掛けたら、ギルマス達はようやく開けっ放しになっていた口を閉じた。
「は、はい。 あまりの明るさに驚きました。 それなのに魔石の消耗は従来よりも少ないのですか?」
「詳細なデーターは有りませんが、恐らく従来の10分の1程度だと思います。 従来品の灯りの魔道具との比較については時間が掛かるので、こちらのギルドで調べて下さい。」
「承知致しました。」
「この魔方陣で登録出来ますか?」
「勿論です。 早速書類を用意します。」
ギルマスが目で合図すると、サブマスが部屋を飛び出して行った。
「魔法陣の公開にあたっては、大陸魔道具ギルドへの登録、新しい魔法陣を使った魔道具のデモンストレーション、新規魔法陣の使用権登録と図面販売など色々な準備を整えなくてはなりません。 魔法陣の公式発表までおよそ1ヶ月掛かると思われますが、宜しいでしょうか。」
どうやら色々な準備に時間が掛かるらしい。
俺には全く判らないのでズンさんを見る。
事前の打ち合わせで手続き関係はズンさんに任せる事になっている。
「新しい魔法陣は商業ギルドにも登録します。 明日登録に行きますので、商業ギルドへの登録が認められた場合は両ギルドで公開日を合わせる方が良いと思います。」
「・・・、出来れば魔道具ギルドと独占契約して頂きたいです。 条件に関して出来る限り優遇させて頂きますので。」
ギルマスが、魔導具ギルドとの独占契約を持ち出して来た。
うん、ズンとの打ち合わせでもその可能性が高いって聞いていた。
ズンさんの予想通りの展開。
「ダメです。 この魔法陣は世の中を明るくする為に竜滅殿が開発した魔法陣です。 竜滅殿は魔法陣による金儲けは考えておりません。 この魔方陣は、多くの人が使える魔道具に使って頂く為に竜滅殿が開発したのです。 これは竜滅殿の希望ですので商業ギルドに登録しないと言う事は有り得ません。」
ズンさんが事前の打ち合わせ通りに独占契約を断ってくれた。
うん、俺はこれ以上のあぶく銭はいらない。
魔法陣は魔力視の練習ついでに、みんなの役に立てばうれしいから作っただけ。
こつこつと働いたお金で治療院を建ててのんびりした老後を楽しむのが目標。
余計なお金があってもトラブルが増えるだけ。
めんどくさい契約手続きは殆どズンさんがやってくれた。
俺は時々頷くだけ。
それでも朝早くに大門ギルドを出て、契約が終わったのは夕方。
ズンさんに相談して良かったとしみじみ思った。
翌日には商業ギルドに行って契約手続きをした。
魔導具ギルド同様に1日仕事。
ズンさんが何度も胸を張ったので、間近で鑑賞出来た。
眼福、眼福。
うん、チチは偉大なり。
商業ギルドへの登録も、ズンさんのおかげで無事に終われた。
俺は頷いていただけなのにめっちゃ疲れた。
2つのギルドでの登録を終えて実感したのは、俺は交渉事には向いて無いという現実。
これからも交渉は熊とズンさんに任せようと思った。




