106 ズンさん恐るべし
レイに勧められて始めた、灯りの魔道具に使う魔法陣の転写が終わった。
1瞬しか現れない魔法陣を紙に写すのは、めっちゃめんどくさい作業だった。
1回“灯り”を発動させる度に1文字だけを覚えて紙に書き記す。
もう1度発動して、間違いが無いかを確認する。
作業が日を跨ぐと、どの位置の文字まで書き写せているかを確認しなければならない。
何度も作業を繰り返したお陰で、最近は魔法陣の見えている時間がほんの僅かではあるが長くなり、4文字までなら1度に覚えられるようになった。
それでも、延々と“灯り”の発動を繰り返して、魔法陣の文字を転写するには結構根気がいる。
先日、ようやく全ての文字を書き写して灯りの魔法陣を完成させた。
転写が終わると解析。
1文字1文字の意味を書き出して、どの文字がどのような働きをしているかを調べる。
魔法陣に使われているのは漢字なので、俺が意味を説明してレイが魔法陣の中でその漢字がどのような働きをしているかを解析する。
魔石から魔力を吸い出す魔道具用の魔法陣と接続する場合に、どのように繋げるかを考える為。
レイは魔導具に詳しいので色々と教えてくれる。
今魔道具に使われている魔法陣は4重の魔法陣らしいが、俺の魔法陣は3重の同心円。
しかも中央の円内には光属性という事を示す“光”の1文字だけ。
構造も簡単だし、文字数も圧倒的に少ないらしい。
2つ目の円には“輝”や”耀”、”灯”、“眩”などの光に関する漢字と”拡“や”集“、”瞬“、”連”などの発動関連の漢字。
ただレイの意見では、この発動関連の漢字を改変されると、高熱を出す兵器に使われる可能性が有るらしい。
改変されて兵器に転用されるのは嫌なので、レイに教えて貰った改変防止用のダミー漢字を幾つも加えて改変すると発動し難いように工夫した。
魔法陣に詳しいレイがいてくれるので安心して魔道具用の魔法陣を作れる。
あれ?
高熱を出す兵器って、ひょっとしてレーザー?
前世では、安価なドローン迎撃に高価なミサイルを使うとコスト的に割が合わないと言う理由から、1発あたりの単価が安いレーザー兵器の研究が進んでいると聞いた事がある。
レイの言うように、灯りの魔法陣を改変して熱を発する兵器が作れるなら、魔法のイメージを変えれば俺にも光属性の攻撃魔法が撃てるんじゃね?
もしかしたら、属性魔法を使えない俺でも攻撃魔法が使えるかも知れない。
ちょっと希望が湧いて来た。
3つ目の円には“明“、”暗“、”徐”、“突”、“吸”、“入“、”出”などの制御系漢字。
この部分は使用目的に応じて文字を入れ替えても発動し易いようにしてある。
用途に適した魔法陣に変えて良い魔道具を作ってくれるなら問題は無い。
出来上がった魔方陣の上に、魔力を吸い出す魔法陣を置いて魔石を乗せれば灯りの魔道具になる。
魔力吸出しの魔法陣はレイが持っていた壊れた魔道具のものを流用した。
魔石から魔力を吸い出す魔法陣はどの魔道具でも共通で使えるらしい。
吸い出しの魔法陣は魔導具の部品屋で普通に販売されているとレイが言っていた。
これに発動用の魔力を流せば魔石の持つ魔力が連続して灯りの魔法陣に注がれるので、灯りが点灯する。
ダミーの漢字以外は俺が使う“灯り”の魔法陣と全く同じ。
上に乗せた吸出しの魔法陣の角度を変えれば明るさが変わるようにダミー漢字を配置するのがかなり面倒だった。
後は外枠を作って魔法陣を張り付け、魔石を入れる容器を付ければ、販売出来る。
「一応完成かな?」
「ショータの魔法陣は魔力効率が高いので、明るいのに魔石の消費が少ない。 みんなに喜ばれるはずじゃ。 広く使って貰う為には魔道具ギルドか商業ギルドに登録する方が良いぞ。」
「うん。 でもまだ外枠が出来ていないよ。」
「大切なのは基本の魔法陣じゃ。 魔法陣さえ出来ておれば、後は商売上手な魔導具師達が売れそうな外装を勝手に考える。 灯りの魔道具を使う必要がないショータが考える必要は無いぞ。」
それはそうだ。
俺は天井に張り付ける形で灯りの魔法を使える。
灯りの魔道具よりも利便性が高いから、灯りの魔道具を使う事など無い。
並列思考に慣れたので灯りの魔法を使いながらでも、他の魔法を使えるし、魔力量的にも問題は無い。
自分が使わないのだから、外装は使う人に考えて貰った方が良いだろう。
素人の俺が電球とランプシェードまで作る必要など全く無い。
自慢じゃないが、いつも着た切り雀の俺にデザインのセンスが有るとは思えない。
俺がデザインしたら、絶対にヒットしない自信がある。
「じゃあ登録する。 魔道具ギルドと商業ギルド、どっちに登録したら良いの?」
「儂は登録した事が無いので判らん。」
そりゃそうだった。
骸骨が登録に来たら、手続きどころの騒ぎじゃないよな。
レイに聞いた俺がバカだった。
「えっとぉ、灯りの魔法陣を作ったんだけど、商業ギルドと魔道具ギルドのどっちに登録したら良いの?」
ズンさんに聞いてみた。
いつも受付で冒険者達の世話をしてくれているけど、熊の奥様で大門ギルドの御館様。
判らない事はズンさんに聞くのが1番。
「魔法陣? ショータは魔法陣を作れるの?」
「なんとなく出来た?」
「ちょっと1緒に来て頂戴。」
受付から飛び出して来たズンさんに腕を掴まれた。
右腕を極められて初めて判ったけど、身体強化のレベルが俺とは全然違う。
がっちりロックされた右腕は、お相撲さんの小手投げ状態で全く動かせなくなっている。
そのまま引き摺られるように、2階のギルマス室に連行された。
「魔法陣を作ったって? 見せてみろ。」
熊に紙に描いた魔法陣を見せる。
「・・・随分と簡単な魔法陣だが、これで魔法が発動するのか?」
熊がめっちゃ疑ってる。
「えっとぉ、この魔方陣に吸出しの魔法陣を乗せて、魔石を置いて。 うん、準備完了。 これに魔力を流してみて。」
熊が吸出しの魔法陣に起動の魔力を流す。
魔導具がピカッと光った。
「「ワッ!」」
熊とズンさんが声を上げて飛び退く。
一瞬の事ではあったが、俺の目には戦闘特化の熊よりもズンさんの方が僅かに早く反応したのが判った。
ズンさん恐るべし。
ズンさんには絶対に逆らわない様にしよう。
「えっとぉ、吸出しの魔法陣の角度を変えると明るさが変わるよ。 もっと明るくするにはこっちに回すと明るくなる。」
魔導具がめっちゃ光った。
「凄いな。」
「ほんと、お日様みたいに眩しいわ。」
ズンさんが目の前に手を翳して眩しそうに魔道具を見ている。
「えっと~、ランプシェードとかは専門の人に作って貰えば良いと思って、魔法陣だけ登録しようと思ってるんだ。 でも魔道具ギルドと商業ギルドのどっちに登録すれば良いのかが判らないから教えて貰おうと思った。」
「そんな事は簡単だ。 両方に登録すれば良い。」
熊が一言で答える。
「両方に登録出来るの?」
「当然だ。 広く使って貰うにはその方が良い。 ズン、一緒に行って貰えるか。」
「良いわよ。 ショータの担当は私だし、どっちにも知り合いがいるから。」
ズンさんは顔が広いらしい。
熊は顔が酷いけど。
ギルドの馬車で魔道具ギルドのベルン本部に向かった。
馬車には俺とベロとズンさん。
勿論ベロはズンさんの膝の上。
大門近くに魔道具ギルドの大門支部があるのだが、新しい魔法陣の登録は本部の方が良いらしい。
「支部だと、実証実験をするとかの理由を付けて、登録を遅らせる事があるの。」
ズンさんがベロをモフりながら説明してくれた。
顔が蕩けているのでいまいち説得力が無い。
「登録を遅らせる?」
意味が判らない。
「登録手続きを遅らせている間に、支部の幹部達が懇意の魔道具工房に魔道具を作らせて儲けるの。 画期的な新製品だと、出始めの時は高くても飛ぶように売れるから凄く儲かるの。 他の工房も作り始めると、生産が増えるから値段も下がるでしょ? どれだけ稼げるかは時間との勝負なのよ。」
「そうなんだ。」
「魔道具ギルドのベルン本部は西地区だから少し遠いけど、大陸初の光属性の魔法陣だから、信用出来る本部まで行った方が確実だし、本部のお館様は私の友達だからね。」
友達の顔を立てるのも本部迄足を延ばす理由らしい。
そんな訳でベルンの西地区にある魔道具街へと向かったが、遠かったので随分と時間が掛かった。




