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102 俺はこっそりひっそり生きるのだ

商店街の途中で左に曲がり、北に向かって歩く。

たぶん北だよね。

探知にうっすらと道が映っているが、カーナビと違って目的地を設定できないのでどこに南市場があるのかは判らない。

探知の画面では常に俺の正面が上。

角を曲がる度に正面の方角が変わるので、どの方向に歩いているのかが判らなくなる。

”次の角を右だ“

右に曲がると、探知の画面が90度回転する。

既にどこから歩いて来たかも判らなくなった。

でもSランクのベロナビがあるから迷う事は無い。

うん、ベロナビはめっちゃ優秀。



この道は初めてなので、キョロキョロと周囲を見回しながら歩いた。

まあ、ベルンではどの道も殆どは初めてだけど。

俺の行動を見張っている監視員達は少し距離を置いて歩いている。

不自然に思われない為か、数人ずつが友人を装って話しながら付いて来る。

それぞれが違う組織から派遣されているのだが、目的は皆同じで依頼主に俺の行動や能力を報告する事。

なので、俺がトラブルに巻き込まれようが暗殺者に襲われようが手を出す事は無い。

むしろ何かに巻き込まれれば、依頼主に新しい報告が出来ると喜んでいるふしもある。

目的が同じな上に競合している訳では無いから、今ではすっかり仲良しらしい。

まあ、20人近い人数がバラバラに俺を追っていたら、めっちゃ不自然で目立ちすぎる。

少しでも不自然さを無くすために、幾つかのグループに別れ、楽し気に会話をしながら監視するのが最近のはやりらしい。

それでも目つきがめっちゃ鋭いおっさん達の集団だから、通行人が立ち止まって2度見するのは仕方が無い。



ベロが案内してくれたので、30分ほど歩いたら南市場に着いた。

市場と言っても大きな建物がある訳ではない。

普通の2階建ての家が路地の両側にひしめき合っている区画。

他の商店街と違うのは、店の1階には通路側の壁や扉が無く、店の中にある商品が通路から見えるように並べられている事。

俺は早速鑑定の練習を始めた。

レイも収納の窓から色々な商品を鑑定している。

3つの頭があり、尻尾が蛇のベロを見て驚く人もちらほらいるが、首に掛けた従魔札を見て直ぐにホッとした表情になる。

中型犬サイズで可愛いから、頭が3つあっても殆どの人は全く怖がらない。

それどころか声を掛けて来る人も多い。

「ベロちゃん、今日はお散歩に連れて来て貰ったの?」

「ワゥ(うん)。」

大門ギルドから近いのでベロの事を知っている人もいるらしい。

ギルドの入り口でベロを可愛がっているベロフアンは多い。

「ベロちゃん今日も可愛いわね。」

「ワフ(当然だ)。」

元々はズンさんがベロを猫可愛がり、いや犬可愛がり?したのが始まりだが、冒険者達などのギルド関係者にベロを可愛がってくれる人が増えて、狭い治療室ではなくギルドの入り口横にある馬や従魔の待機スペースがベロを愛でる場所になった。

最近はベロの可愛さに魅せられた近所の人達も集まる様になって、ベロフアンが増えた。

それでも、吟遊詩人の詩局や芝居での主役は英雄である竜滅、ベロが取り上げられた作品は殆ど無い。

なので、ベロを連れていても俺が竜滅とは知らない者も多い。

まあ、コアなベロフアンは知っているらしいけど。

「ベロちゃん、広場に屋台が出ているわ。串肉を買ってあげるから、1緒に行こう。」

“行ってもいい?”

ベロが俺を見上げる。

“いいけど、襲われても相手を殺さないでね”

ベロパンチだと、軽く撃っても相手が爆散してしまうので注意した。

“判った”

「ワム(行く)。」

ベロが串肉に釣られて、お姉さん達と広場に向かった。

食い物で簡単に釣られるSランクの神獣って、どうなんだ?

まあ市場の中なら念話が届くので、離れても問題は無いけど。



ふと気が付いたが、俺は誰からも声を掛けられなかった。

竜滅の名は有名だが、どうやら市場にいる人達は、俺が竜滅とは知らないらしい。

考えてみれば、俺がギルドの外に出るのは図書館に行く時だけ。

ベロは毎日ギルドの入り口前に寝転んでいるが、俺がベロの所に行く事は無い。

仕事が終わった時は、戻る様に念話すると、ベロは自分で治療室に戻って来る。

俺が人に顔を見られるのは、図書館への道とギルドの中だけ。

どうやらギルドに近いこの地域でも、俺の顔は知られていないらしかった。

まあ吟遊詩人や芝居のせいで竜滅の名は有名になったけど、どちらも竜滅は2mを越える髭モジャの大男とされている。

さらに、竜滅は高位の魔法使いという設定なのか、派手なマントを羽織り、大きな宝玉が付いた杖を持っているのがお約束。

芝居小屋によってマントの色や杖の形は違うらしいけど。

今の俺は庶民が極普通に着ているシャツに、極普通の上着。

そして極普通のズボンを履いている。

でも、唯一つ違っていたのは、ショータは竜滅だったのです、って奥様は魔女か!

ともあれ、ギルドの近所にある南市場でさえ、武器を持たずに平服で歩いている俺が竜滅だとは、全く気が付いていないようだった。

良き哉、良き哉。

俺はこっそりひっそり生きるのだ。



俺とレイは市場の商品を次々に鑑定した。

”野菜や果物も暫く見ぬ間に微妙に変わっておるな“

“そうなの?”

”全体的に大きくなっておるし、果物の糖度が増しておる“

以前の果物の事を知らないので俺には違いが判らない。

“そうなんだ”

この世界でも品種改良が行われているのかも知れない。

穀物や香辛料も鑑定する。

鑑定レベルが上がったせいで、精密鑑定をすると栄養成分や調理法も表示されるが、自分で料理をした事が無いので調理に関してはまるで判らない。

レイは興味深そうに色々な食材を鑑定している。

”レイは料理が出来るの?“

”調理法なら詳しく知っておるぞ“

“じゃあ今度作って”

”調理法は知っておるが、作った事は無い。 生前は専属の料理人がおったし、アンデッドになってからは食事をする事も無くなったからな“

知っているのと作れるのは違うらしい。

”ソウデスカ“

万が一ベルンを逃げ出す事になったら、レイに料理を頼もうと思ったが無理そうだった。



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