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美智果とお父さん  作者: 京衛武百十
201/201

とにかくやってみようかなって

四月。今日から美智果も中学一年生だ。真新しい制服に身を包んだ美智果と一緒に入学式に出る。


『美智果はこんなに立派になったよ……


どこかで見てる? 羽瑠果はるか


この子を残してくれて、ありがとう……』




学校から帰ってきて着替えてゲームをしてた美智果が不意に僕に話し掛けてきた。


「お父さん。今日から私、一人でお風呂に入ってみる」


「…え? あ、そうなのか。大丈夫?」


突然のことに上手く返事ができなかった気がする。


「うん。大丈夫、だと思う。とにかくやってみようかなって」


美智果自身、まだ少し不安はあるっぽいけど、『やってみようかな』って言葉で僕は自分が落ち着くのを感じた。


そうか、やってみようって思えるようになったんだな。


思えば、最近、僕が先に上がっても大丈夫そうにはなってきてた。以前は『待って!』って慌てる感じだったのが、『分かった~』って軽く応えるようになってた。だからなんとなく予感はあった気がする。そう遠くないうちに一人で入れそうだなって。


ちょっぴり寂しい半面、成長してるんだなっていう嬉しさもあった。怖いものを克服できるって、立派なことだと思う。


「怖くなくなってきたのかな?」


そう問い掛けると、


「なんか、平気になってきた。不思議だけど」


美智果本人にも分からなくても、怖くなくなってきたのならそれでいいよ。


無理に克服させようとして、かえって拗れさせることもあると思う。だから僕は自然と平気になるのを待った。


母親を亡くしたばかりの頃の美智果は、部屋に一人でいることもできなかった。もちろん一人で寝ることもできなかった。


暗くすると怖がって寝られなかったのが、しばらくすると照明あかりを消しても大丈夫になった。それでも、


「おばけこない? こない?」


と何度も訊いてくるので、


「来ないよ。お父さんと美智果がいっつも笑ってられるこのおうちには、お化けなんて近付けないよ」


と何度も言い聞かせた。それも、三年生になる頃には訊いてこなくなった。


照明あかりを消して寝られるようになってからも、暗い部屋には一人で入れなかった。照明あかりを点ける為に入ることさえできなかった。それが今なら、暗い部屋に一人でいることはできないけど、照明あかりを点ける為に一人で部屋に入るくらいなら出来るようになった。


こうやって少しずつ少しずつ、怖いものを克服していくんだと思う。成長していろんなことが分かってくるにしたがって自然と怖がらなくなってくるものだと思うんだ。それを、無理に克服させようとして荒療治すると、上手くいけばいいけど実は失敗することの方が多そうだって僕は感じてる。かえってトラウマになってしまったりとかね。


そんなことしなくても、『サンタクロースはいない』というのをいつの間にか知るように、『お化けはいない』っていうのをいつの間にか知るんじゃないかな。


こうやってこの子は成長していく。いつか一人で生活もできるようになると思う。それは寂しいことだけれど、美智果が自分の力でこの世界で生きていけるようになるなら、それは素晴らしいことの筈なんだ。


僕はただ、<美智果オタク>として、大変なこともあるこの世をそれでも満喫するこの子の姿を見ていたいだけなんだ。




ありがとう、美智果。


僕の娘に生まれてきてくれて、本当にありがとう。


愛してる。



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