第五十一話 - 未来ってこうやって良くなる
縁の下ギルドの内側、食事スペースと横の小さな壁付テーブルで
仕事をしていると、承認書類の整理で
気になるメモ書きが出てきた。
「初仕事につき、ベテランと共に派遣?」
ボンメルトさん?見慣れない名前だ、リザード屋…お風呂屋さんの掃除に
100クランで派遣されている。
珍しい形態だ、仲良しなのかな。
そのまま要確認に入れたり承認したりして
整理を進めていった。
「失礼します。
確認書類です。お願いします。」
ある程度溜まったら、紫苑さんに最終確認済み記録待ちのチェック
キャロスさんに要確認のチェックをお願いした。
「日葵、11時だぞ。」
え、もう!?
承認しながら区切りの時間に色々考えてたら
あっという間に時間が過ぎてしまった。
ただ紙をめくるだけなのに元気や悩みが
指先と目から伝わってくるんだ…。
会議室には、別室から持ってきた机。
バドレさんが落ち着けるように、お茶まで入れてあった。
そのバドレさんは…
そっぽを向いて腕を組んで寝息を立てていた。
ただ、流石だと思うけど
部屋に入って扉を閉めると
彼は起き、目の下が若干黒く血走った眼で
私を見て、また向こうを向いた。
「寝たら来れなくなっちまうと思ってよ
徹夜して来たぜ。」
どんな言葉だろうと受け止めようって
目を閉じて、心を切り替える。
「マーレンさん、交渉で一杯考えて
返答したい。
高揚の魔法をお願い。」
+分かった。+
視界が研ぎ澄まされて
全身が気になりだすほど、集中が研ぎ澄まされる。
貴族達は、よく小道具でやっている事、お草を吸ったりね。
でもこれにはデメリットもある、切れた際の強烈な反動。
始めが肝心だと思うから使った。
「俺は、無理だ。
偽物にすら殴るのを我慢できなくて、
俺が暴れたらオメェ、庇うんだろ?
もし誰かがお前を切り裂こうとしてたら、どうするよ。
同じように、妙なことをしだしたらどうするよ。
台無しだ。」
「バドレさん、まず私は…
それでも参加してほしい。
やっぱり私、勇者教の被害者たちにも伝えたいんです。」
バドレさんは机に突っ伏して
顔を隠した。
「適当な被害者見繕って
鎖でつないで連れてけばいいだろうが。」
彼の指は心無い言葉の旅に止まり
表情は見えないがそんなに長く、話したいような
姿には見えない。
なら、直球で話すしかない。
「バドレさん、直球で言います。
私が一生懸命、練習した劇の本番を
ただ見てほしいだけなんです。
みんなの為って思い込んでたし、そういう側面もありますが。」
バドレさんの目が、暗闇から私に向けて光る。
「ただ、共犯者だから共有したくって。
失敗したらお互い生き延びて
また練り直そうよ。」
「そんなこと言われても…どうしろってんだ。」
顔を左右に動かし、机に擦り付けるバドレさんに
私は少し、意識が朦朧としてきた。
あれ…?目を閉じて、確認する。
+”あの”魔法服がない分、負担が大きい。
4分は持つと踏んでいたが、後1分ほど。
恐らく反動は比じゃない。+
「特別なことは、何もなくて。
ただ道中にグロンさんを護衛して、心も体も
安全なところから、私を見守ってほしい。
やっぱり、死にそうだったら逃げ込んじゃおうかな?
数千人が相手だから、私も心細くって。」
「そりゃ当たり前だろ…どう断れってんだよ。」
だよね。
分かってはいたんだ、ごめんなさい。
「頭では分かってんだよ。
ガキ見捨てて眠れんのかよってな。
でもよ、お前を3度も殴って
どうして俺が頼られてんだ…」
そんなに頭振ること無いよ。
「だから…っ信頼してる。」
頭に激痛が走って、鼻の頭を抑えた。
一気にぐらぐら、居眠り直前って感じに…
「ははは、くしゃみ直前って感じか?」
むっ…むーーー!
「バドレさん頭いいし
とっても優しくて信頼できて。
見てくれたらいい感じに事が運びそうで。
被害者の会何も知らないから。
ごめん。」
何とか話したら、変になってしまった。
「しっくりこねぇ。」
「最初の時も、強いから前に出たんだよね?
次は私を導いてくれたし、
私を助けてくれて、
次は代わりに怒ってくれたし。」
んんーもうちょっとうまくはなせると思ったのに。
「眠くなってきたぞ。」
「久しぶりに仕事したんです。
こいつは頑張り屋だから、
居眠りもペース配分でしなくて済むって
張り切ってしまったんでしょう。」
キャロスさん…そうじゃないんだけど。
「だから、張り切るときには
甘える人が欲しいんですよ。
それが出来るのが貴方なんじゃないんですか。
俺は父親ですが、同時に上司ですからね。」
…なんか子供っぽく言われてない?
「こうしてみるとほんと
暴動の時は無茶しやがって。
とんでもなく清純に見えて
やっぱり理屈に呑まれただけの
ただのガキじゃねか!」
ん、ん~
「ほれよ、眠気覚まし。
俺はこの後ぐっすり寝るぜ。
はははは!」
陶器が細かく引っ掛かりながらずずずと寄せられる。
口は付けてないよね!?
「俺は…死んだガキの無念…晴らしてやりてえけど
晴らし方が暴力しかねぇっていうのは
頭で考えすぎてたからだな。」
バドレさん?
「アイツは、もっと単純に
死ぬとき”やめてくれ”って
思ってただけだろうよ。
そう思ったらお前の方法、悪くねえかもな。」
そっか…
「遅くなったけど、止めてあげましょう。」
そしたらきっとそう思う人も少なくなるからね。
足りない分の背は、バドレさんやロメスさん
それにヌエッサン指揮官にも借りよう。
だから、もう大丈夫。
きっと良くなるよ。




