第二十六話 - だから今、私がある
「退院おめでとう!」
記者さんたちがくれた花を持って
私は医師に手を振った。
バドレさん達については、ちゃんと伝言を頼んだし…
スノルも、あと10日ぐらいで退院で
バルドさんは今日で仕事に戻るみたい。
病院からギルドヘ石畳の道を10分ほど歩いて帰ると
ギルドの前に紙が張ってあるのが目についた。
結局、5名の犠牲者が出たんだ…
病院の香りを纏ったままギルドに入ると、
冒険者たちが依頼を眺めている。
ベラーゼ君と目が合うとちょいちょいと手招き、
無言でカウンター内の扉を指さした。
似たことが、あったよね。
あの時は…病み上がりでお風呂掃除の依頼を受けたっけ。
駆け足で、花瓶に持っていた花を挿した。
良い花の香り…
赤と白と黄色が映える…そして白い陶器が
それを支えていた。
振り返るとアロスさんとシングさん…冒険者さん達だね。
「あの記事読んだよ、そんな長袖で
歩いてきて、大丈夫だった?」
冬用の服をアリッサちゃんから借りてた…
手足を隠すのと、持ってない事の両方の理由で。
「ええ、シングさん!ほんとにケンカして
満足しました!…剛天の雷壁!」
バドレさんの真似をして、両手で構え指を上げ…くるんと回した。
「日葵、伝説打ち立てるのはいいけど
聞いたらそいつ、上級冒険者でしょ?
無理しちゃだめだよ冷気娘~」
皆さんの温かみが肩に染みる。
気付けば私の周りには人が集まっていた。
「新聞に文章を寄せるなんて人気者は大胆だなぁ。」
「そんなことないよ、受け売りだもん。」
「頑張り屋で豆好き、心から対話して頑張ります…って
ほんとにブレないね肝っ玉は。」
肝っ玉…?そのあだ名は否定してるのに、何でそんな話に?
「み、皆さん…
ご心配頂きありがとうございます
本日のお仕事を探しましょうか。」
10時からの仕事とか…あるからね!
紫苑さんからも待つように言われたので
見知らぬ人も働く中、久しぶりに受付兼雑用として
しっかり仕事をした。
ふう…やっぱり病み上がりは、仕事だね!
さて、そろそろお昼かな。
「午後は休んでくださいね。
ピークは過ぎましたし、
他の従業員もいますし管理人も戻っているはずです。」
ベラーゼ君に言われて私は裏に引っ込んだ。
「少しだけお話ししようよ。
今回の事整理したいし。」
「いいですよ、話しましょう。
何でも相談してください。」
ベラーゼ君、すごく賢いから…つい話し合いを挑みたくなっちゃう
そうして少し"劇"について話して、ギルドの中に入ると…
「おめでとうございます!日葵様!」
あーー…
20歳ぐらいの女性信者が働いていて、他の信者は居ないみたいだ。
「やっぱり私、このギルドで働きます!
他の信者さんも朝と夕方に手伝いに来てますけど…
皆さん優しいし、アリッサちゃんやフレアンさんも魔法を磨いてて
…すごくいいなって!
あ、私の名前ですか?
ハレサ レイナ。ハレサでお願いね。」
…そっか!
少し気持ちを整理しようと思って、もじもじしてたら
さらに畳みかける様に話しかけてくれた。
「暫くは、他の事をされる…と聞きました。
それが終わったら、一緒にお仕事しましょう!
それにしても、みんな若くて可愛い~!」
押しが強いけど優しいお姉さんだ。
身長も高くて…少し前かがみで視線を合わせてくれて、
若干黄色がかった茶髪、笑顔の輪郭がハッキリと見える。
どのぐらいの距離感がいいのかな?
少し、様子を見よう…
「分かった、よろしくね。ハレサさん!」
思ったより良い人そう。呼び方には慣れよう。
「日葵」
キャロスさん、今日も控えめなターバンが決まってる。
肩が軽くなる感じで、見るだけで気持ちが明るくなる。
「ダルトン家の貴族オペランから屋敷を訪ねて来るようにとの伝言だ。
…劇の構成を考えるらしい。
今日は空いている日との事だから、食事をしてから向かってくれ。」
え、キャロスさんが伝えたのかな。
ともかく、食べたら…すぐ行こう。
広まったら面倒なことになるかもしれないし
どうして知ってるのか…聞いてみよう。
「俺も行くぜ!流石に一人で、病み上がりは不味いからな!」
トルトルさんの声で、アレックスさんとソルティさんが目の前に並び
がっつり3人で腕を組んだ。
「日葵、おかえり。」
リーファさん!
「旧ギルド跡じゃないんですか?」
「退院って聞いて、様子だけ見に来たの。
ただここにいると働きたくなるから
食事だけしたらすぐ戻るわ。」
お腹も…さらに大きくなって…
「最近顔見せられて無くてごめんね。」
襲撃が多くなってから、先に避難することも有ったし
私の方が避けてた。
無理してると…絶対にバレちゃうから。
そのまま、引き寄せられるように近寄って耳を当てていた。
まだかな…早く来ないかな…
私も頭を撫でられちゃった、へへ。
「準備できたよ!」
アリッサちゃんの声で、みんなでご飯を食べる。
豆のスープ、2種類のパン、いつもの水
…幸せ。
だからこそ、勇者教の過激派は止めないといけないんだ。
「向き合うつもりなのね、あの地獄に。」
リーファさんの言葉に頷いた。
諦神さん…やっぱりあの石はやり過ぎだよ…
ハレサさんは首を傾げてたけど
少しすると、勝手に納得してくれた。
香り豊かな食卓に日が射した。
一年前のこのころは、3人か6人だったのに
段々大きくなっていく食卓。
笑顔で話し合う
私と家族。
こんな何処かの家族を守るために
止めなきゃ…レジスタンスを。
…
「作ってくれてありがと!
食事の間警備してたトルトルさん達が食べたら、
一緒にオペランさんの屋敷に行こう。
…そんなに遠くないから徒歩で。」
足早に食卓を去り、
少しの間仮眠して、備えた。




