第十八話 - 次に向かいたい場所は
虫の声が響く中、私は椅子に座り直して
被害者の会の話し合いが続いていた。
「勇者教の活動は少ないが、
また集会が始まる気配がある。
世間の視線にも注意しつつ
引き続き注意喚起と
国への対応要請を行いましょう。」
顔を上げず、その声だけを聞いていた。
「他には、何か報告はありませんか。」
「では最後に、何か発言したい人は居ますか。」
一秒待って、私は手を上げる。
「…日葵さん」
私は立ちあがって、中央に向かう。
「みなさま、本日は参加させていただきまして
誠にありがとうございました。
皆さまの心の痛みを直に感じ、私も…苦しいです。」
左右に顔を振る…けど頭が勝手にぼーっとして
視線はあまり気にならなかった。
「私も微力ながらレジスタンスなどの
過激派勇者教を止めるため
ご協力をさせて頂きたいと思いました。
今までの犠牲者と、今回の犠牲者や逮捕者に
改めて、平和への祈りを捧げさせていただきます。」
手を組み、ただ数秒…無心に祈った。
「私からは以上です。」
そうして振り返らず、
ジリジリ後ろ歩き…椅子に座った。
「他には、ありますか?」
数秒の静寂の後
「では…会議を終了します。」
その宣言の直後、バドレの隣の…白い鎧の人が立ち上がって
こちらに駆け寄ってくる。
「ちょっと失礼」
私の体を掴んで、背中を見て
顔を見て…しまった…。
「血が出てるじゃないか!
今すぐ病院に…」
顔が自然と歪み、痛みで意思に反し涙が暴れる。
それでも私はその言葉に首を振った。
「大丈夫です、そんなにお金もないですから。
ギルドに帰って、設備で手当します。
あ…いだっ…!」
男の人が手を握った拍子に腕に痛みが流れる。
離してくれない、手すりに身を任せた。
「そんな服で歩いてたら誰だって
君を呼び止める。
病院に行こう。」
「あ…何処かでちょっと…洗えばいいですから。」
「そんなに言うなら馬車を呼び止めて送る。
歩ける体には見えない。」
あれもこれも、返せない大恩になる。
その30後半位の白い鎧の男に私は首を振った。
「ほら、手も熱を持って…?」
彼は私の服を素早く捲り、
半分色が変わった手が露わになった。
元々、戦うつもりはなくて体も弱っていたけど
手に黄色や紫、赤が混じっている。
これは…思ったより…
「打撲がひどい、諸々考えると病院に行かないと。
馬車で病院に送る…無茶も言わせない。」
その男の人が、真剣な顔になり他の人たちも様子を見に来た。
誰かから治癒魔法を掛けられながら
私は頭を抱えた。
可哀そうな人としては扱われたくなかった。
バドレさんには隠したかったのに。
どうやって何千クランも返せばいいの?
…ダンジョンにでも潜ればいいの?
…違うよね、私が悲劇を止めればいいんだ。
この怪我は、きっと悲劇へのバリケードとして
必要な痛みなんだから。
息を落ち着けて、顔を上げた。
「分かりました、でも
若いから、数日寝れば…治りますから。
そんなに治癒魔法を…」
ズキズキとした痛む腕の先を見ると
魔法を無言で使うバドレさん。
私はそれで、言い返す言葉を失ってしまった。
…
私は馬車に乗せられて
ガーネス町の病院で背中の傷を診てもらって
薬草も塗ったうえで、包帯がグルグル巻き。
…少し様子を見る間、スノルの横のベットに座って待つことになった。
「どうしたんですか!?」
驚いて体を上げたスノルは、少しやつれた様に見える。
だけど…すぐ体を起こせてる。
痛みは少し引いたみたいだね。
「話し合おうとしたら、こうなっちゃった…
世の中って世知辛いよね。」
スノルはその言葉に苦笑いして
「個人が無茶しない組織作りが大切ですね。」
と苦笑いの輪が広がる。
「そうだね、そうしよう。
そうだ、ギルドは手伝ってくれる人がいるから
私、少し良くなったら…ニューフィールドに向かおうと思う。」
「観光ですか?あのあたりには新しい町が…じゃなさそうですね。」
「ちょっと色々…頼みたいことがあって。
竜探しかな。」
スノルは顔をしかめ、再び横になる。
そして声を震わせた。
「先輩…めちゃくちゃですね…」
「まあ、ちょっと知恵を借りたくて。」
「無茶しないで下さいよ。
特に僕の想像通りなら
ちゃんとした人達を連れて行ってください。」
そうだね…そこが問題だよ。
まさかバドレさん達に頼んで行くわけには行かないしね。
多分声を掛けられるとすれば
バルドさんとかアレックス達しかいないよね…
その後医師がやってきて
様子を見た結果…
「うん、日葵さんはいつも無茶をするから
一日様子を見ようか。」
だよね…ここの先生ならそう言うと思ってた。
「ゆっくり休めるように、
またベッドを変えたほうがいい?」
…ムッ!
「大丈夫です。抜け出したりはしませんから。」
診察の後、この日はそのまま病院で休むことになった。
だから暫く帰れないって紫苑さんに伝言をお願いした。
その後、スノルが私に話しかけてきた。
「先輩…」
「ん?」
「どんな事を過去にしてたら
あんなことを言われるんですか。」
「ちょっと仲間が脱走したり
怪我を押して再入院したりしたから…」
「あれって、ここの病院だったんですね…」
表情を見ず、布越しに語り合い
そのまま意識を落とし…ぐっすりと眠った。




