第十九話 - つなぎ始めた、希望の軌跡
私は翌日、石造りの診察室に居た。
「日葵ちゃん…
何があったんだい?
まるで誰かに、殴られたりしたようにしか…」
お医者さんの言葉を私は遮った。
「ただの打撲です。
昨日会った人たちは、みんないい人でした。」
私の言葉に、医師はため息を吐き出し…
しょうがない…と言わんばかりに微笑んだ。
「腫れが少し引いてくるまで
入院は継続!」
が…っくし。
予想はしてたけど…今は動きたかった…
「傷が開いたら腫瘍や血の塊が出来る可能性もあるし
内出血も酷いなら
吸血魔具を使うからね。
何でか、そういうけがをした人は
…将来倒れる人が多いんだよ。」
そうなんだ…じゃあ、仕方ないか…。
「面会希望者がいるから
ベッドで待っててね。」
その言葉に頷いて、寝床に戻り
ウトウトとしていると
病室の扉が開いた。
「おう!日葵!久しぶりだな!」
肩パットを付けた服を着た…
がっしりとして意外と白い歯を見せて笑うその人は…
「バルドさん…来てくれたんですね。」
何度もお世話になった、強く機敏な男性だった。
太陽が、健康的な肌を白く照らす。
「暫く、俺が警備として付き添うぜ。
キャロスさんに言われたんだ。
守ってやってくれってよ…」
心配、掛けちゃったな…
大丈夫かな…お金。
「病院での運搬作業と
厄介払いの手伝いも兼ねてるんだ。
ああ、お前が入院すると…」
ふ…ははは…来そうだね…
「スノルも元気か?
あの時俺も、逆側を守ってたから
駆けつけてやれなくて済まねぇな。」
「いえ、そちらは10名だったんですよね
…ほんとに凄いです。」
スノルの声の調子が上がり、バルドさんは頭を掻いていた。
ギルドは襲撃対策もしないといけない。
考えてはいたけど、改めて思う。
「バルドさん、あの…」
こちらに顔を向けたバルドさんに気持ちを話す。
実力じゃ無理だ、だから…
「言葉の力で、彼らを変えたいと思っています。
彼らの教義に勝るのはきっと勇者の言葉だけ…
私が”集会”で直接語り掛けれれば…」
でもただ語り掛けるだけじゃ…ダメだ
彼らの心…
「日葵さんは入院中です!
取材はお控えください!」
そんな声が聞こえて、バルドさんは手で合図し
飛び出していった。
…代わりに答えてくれるみたいだ。
「先輩…」
弱々しい声に視線を左に向けるとスノルが寂しそうに
力なく寝ていた。
「なれるんでしょうか、先輩のように。」
「スノル…私、そんなに強くないよ?
ただ、恩返しをして、笑顔を見たいだけ。
苦しむ人の顔を、見たくないだけなの。」
「僕も…強くないですよ。
先輩…」
彼の泣き顔を見た。
ヒュッと息が吸い込まれ、短く吐き出されている。
スノルはひたすらに真面目で素直で、一生懸命だと思っていたけど
そうだよね…たった一つ上…だもんね。
どうしたら…元気になってくれるのかな。
「弱くったっていいんだよ。
考えが合わない強さより、
弱くても同じ考えで頑張って
踏ん張ってる方が、私は好き。」
スノルはぴくっと反応して、顔を逸らした。
…死なない限り、何処までも心は強くなれるから
これからも頑張ろうね。
心の中の吐きたい言葉を、
吐息として霧散させた。
スノル…ありがとう。
何だか、心が落ち着いたよ。
吐息の中に弱音と強気が溶けていく
大切な時間だ…
暫くして、バルドさんが戻ってくる。
彼は一言、こう言った。
「全部バレてたぜ…
どうなってんだあいつら…」
だよね…って!?
「ええ…何処まで?」
「お前がバドレと乱闘して、集会場から
ここに運び込まれたこと全部…
”本人は有意義な話し合いが出来て満足だ、合意の上でケンカした”
って伝えたぜ。」
私の脳裏に”上級冒険者とケンカ、縁の下ギルドの事務員「合意の上」本人は満足か”
という恐ろしい題名の記事が思い浮び、かき消した。
バルドさんの返答は、バドレさんを庇うのに
これ以上ない完璧なものだったから、悪くない、良い。
「それだけで奴ら引いていったぜ!
いい仕事だろ。日葵。」
あ、絶対そんな感じだ…
静かに絶望に寄り添った。
「日葵、声を届けるって言ってもよ
普通じゃ無理だぜ?
奴らは耳が相当わりぃし、
場所も分かんねぇのによ…」
その通りだ。昔と違って探知魔法も使えないし
危険すぎるから。
それに自分が勇者という証拠も、何もない。
「だから、相談しようと思うんです。
ロメスさん達…竜に。
それと右砦のヌエッサン指揮官に。」
「…大胆過ぎるぜ。
でも俺もあのあたりで活動されるのは
気になってたからな。」
ガーネス町の北…国境付近は
勇者が守った土地という事で被害を免れていた。
それでも、故郷の近くでの活動…バルドさんも気がかりだったんだろう。
「でも彼らは伝説として歴史に残ることを
極端に嫌います。
勇者教みたいになるのが嫌なんだと思います。
だから…どうしようかなっていうのは
ちょっと、考え中です。」
もしかしたら、思ったより大きな規模になるかもしれない。
そんな予感がキノコのように
頭の中で傘を開き始めていた。
★境界からの独り言★
自分には面白いのにな…難しい。
一人だと、分かんないな。




