第61話 鳳凰の試練、料理人の覚悟
鳳凰が洞窟の入り口に、迫っていた。
炎のような赤い光。巨大な影。
俺たちは洞窟の奥で、息を潜めていた。
……マズい。
心臓が激しく打っていた。
料理大会の最終料理のため、羽根は十分回収した。
でも——脱出のタイミングを、完全に失っていた。
ライガさんが低い声で、ささやいた。
「全員、動くな」
「はい」
「鳳凰、賢い。気配を悟られる」
「……」
「巣穴の奥に隠れて——様子を見る」
ライガさんの声には、強い緊張感が宿っていた。
俺は深く頷いた。
戦士の判断。
信じるしかなかった。
鳳凰が洞窟の中に、入ってきた。
……でかい。
体長は二十メートル以上。
全身が燃えるような、赤い羽根に覆われていた。
翼を広げると——洞窟全体を覆うほどの大きさ。
目は金色で、鋭く輝いていた。
【鑑定】が走った。
【鳳凰・霊鳥】
体長:22メートル/翼開長:40メートル
戦闘力:S+級
知能:極めて、高い(人間と、同等以上)
備考:炎を、操る。
非常に、賢く、嘘や、敵意を、見抜く。
……S+級。
知能、人間と同等以上。
しかも——嘘や敵意を、見抜く。
俺は深く息を呑んだ。
戦って勝てる相手じゃない。
でも——知能が高い、ということは。
料理人として、ふとある考えが浮かんだ。
鳳凰が洞窟の奥を、じっと見た。
俺たちの隠れている方向。
……気付かれた。
ライガさんが槍を構えた。
ガリオさんも剣を抜いた。
戦闘の準備。
でも俺は——彼らを止めた。
「待ってください」
「田中殿!?」
「戦わないでください」
「何を言っている」
ライガさんが鋭く、振り返った。
でも俺は深く頷いた。
「鳳凰、知能が高い」
「ああ」
「なら——話が通じるはずです」
「!?」
「料理人として、敬意を示します」
俺はゆっくり立ち上がった。
ライガさんが慌てて、止めようとした。
でも俺は首を振った。
「大丈夫です」
俺は岩陰から、ゆっくり出た。
鳳凰の巨大な目が——俺を捉えた。
金色の瞳。知性が宿っていた。
俺は深く頭を下げた。
「鳳凰よ、初めまして」
鳳凰が、わずかに首を傾げた。
……反応している。
言葉が通じているかもしれない。
「俺は料理人の、田中一郎です」
「……」
「あなたの抜け落ちた羽根を、いただきました」
鳳凰の目が、鋭くなった。
……怒っている?
俺は深く、頭を下げ続けた。
「無礼をお詫びします」
「……」
「でも、お願いがあります」
俺はまっすぐ、鳳凰を見た。
「あなたの羽根を——世界中の種族を繋ぐ料理に使いたい」
「……」
「世界料理大会で、全種族が同じ食卓を囲む」
「……」
「その最終料理に——あなたの羽根を使わせてください」
鳳凰がじっと、俺を見つめた。
長い沈黙。
俺は視線を外さなかった。
料理人として、誠意を伝える。
それしかできなかった。
突然——鳳凰が、巨大な声で鳴いた。
ピィィィィィ、と空気を震わす鳴き声。
洞窟全体が揺れた。
……怒っている?
でも次の瞬間——鳳凰の目から、何か温かい光が宿った。
そして、鳳凰が——人間の言葉で話した。
「料理人よ」
「!」
「お前の誠意、伝わった」
俺は思わず、目を見開いた。
……話せるのか。
知能が高い、と書いてあったけど。
まさか、人間の言葉まで。
「鳳凰、様」
「我、千年生きている」
「!」
「人間がここまで来たの、初めて」
「……」
「だが、お前の目、嘘がない」
鳳凰の声には、深い知性が宿っていた。
「料理で世界を繋ぐ——その夢、本物か」
「はい」
「我の羽根、その夢に使うか」
「もちろんです」
「ならば——試練を与える」
鳳凰の目が、鋭く光った。
……試練。
料理人として、覚悟を決めた。
「何でもやります」
「お前、料理人」
「はい」
「ならば——我に料理を作れ」
「!」
「我が満足する料理を作れたら——羽根、正式に譲ろう」
「……」
「作れなければ——羽根、全て返してもらう」
鳳凰の声には、強い決意が宿っていた。
料理人として、最高の試練。
俺は深く頷いた。
「お受けします」
「即答か」
「料理人ですから」
鳳凰が、わずかに目を細めた。
……笑っている?
知能が高い生物。
料理人として、本気で挑む相手だった。
俺は洞窟の片隅に、簡易の調理場を作った。
持参した調理道具。
ベラ亭のル・オニオン。
獣人族からもらった、ハーブと塩。
そして——回収した紅蓮の翼を一枚。
鳳凰の目の前で——彼の羽根を料理にする。
料理人として、最高の勝負。
俺は深く息を吸った。
まず、紅蓮の翼を慎重に、火で炙った。
【鑑定】の結果通り——焼くと、毒が滋養に変わる。
羽根が徐々に、黄金色に変化していった。
香りが立ち上った。
……すごい香り。
料理人として、心が躍った。
次に、ル・オニオンを薄く切った。
獣人族のハーブを配合。
全てを大鍋に入れて——煮込み始めた。
ル・オニオンの優しい甘み。
獣人族のハーブの深み。
紅蓮の翼の滋養。
三つが混じり合っていく香り。
鳳凰がじっと見ていた。
その目には——強い興味が宿っていた。
料理が完成した。
『紅蓮のスープ』。
黄金色に輝くスープ。
香りは——複雑で、深く温かかった。
俺はそれを鳳凰の前に、差し出した。
「鳳凰様、どうぞ」
鳳凰が巨大な頭を、下げた。
そして——スープをゆっくり飲んだ。
長い沈黙。
俺は息を呑んで、見守った。
料理人として、最高の緊張の瞬間。
次の瞬間——鳳凰の目から、涙がこぼれた。
……涙。
金色の瞳から、透明な雫がこぼれていた。
「これは——」
「お口に合いましたか」
「我の羽根が——こんな優しい味に」
「ありがとうございます」
「千年生きてきて——初めて味わう温もり」
鳳凰の声には、深い感動が宿っていた。
「人間の料理人よ」
「はい」
「お前の誠意——本物だ」
「ありがとうございます」
「羽根、正式に譲ろう」
「!」
「お前の夢に——我の力を貸す」
鳳凰が深く頷いた。
料理人として、最高の瞬間。
獣人族の伝説素材『紅蓮の翼』——正式に獲得。
俺は深く頭を下げた。
「ありがとうございます、鳳凰様」
「料理人よ」
「はい」
「世界料理大会、必ず成功させろ」
「もちろんです」
「我も——その日、見守っている」
鳳凰の声には、強い希望が宿っていた。
料理人として、これ以上の栄誉はなかった。
鳳凰が巨大な翼を、広げた。
そして——一枚の特別な羽根を、自ら抜いて俺に差し出した。
他の羽根とは違う。
虹色に輝く羽根。
【鑑定】が走った。
【鳳凰の、心羽】
備考:鳳凰が、自らの、意志で、与えた、最高の、羽根。
通常の、紅蓮の翼の、10倍の、滋養。
歴史上、初めて、人間に、贈られた。
……心羽。
鳳凰が自らの意志でくれた、特別な羽根。
俺は深く頭を下げて、受け取った。
「鳳凰様、本当にありがとうございます」
「料理人よ」
「はい」
「お前の料理——世界を温める」
「……」
「我は、それを信じる」
鳳凰が深く頷いた。
その目には——深い信頼が宿っていた。
俺は心羽を、大切に抱えた。
料理大会の最終料理。
その核心となる素材を——獲得した瞬間だった。
俺たちは鳳凰に見送られながら——洞窟を出た。
ライガさんが深く頷いた。
「田中殿、見事だった」
「ありがとうございます」
「鳳凰と対話するとは——」
「料理人として、当然のことです」
「いや、誰にもできない」
ライガさんが深く頭を下げた。
獣人族の上位戦士の敬意。
料理人として、最高の栄誉だった。
リーラさんも感動した表情で、俺を見ていた。
「田中殿、本物の料理人ですわ」
「ありがとうございます」
「私も、もっと修行します」
「お互いに学び合いましょう」
リーラさんが優雅に微笑んだ。
料理人として、最高の仲間。
獣人族の料理修行——また深まっていく。
その夜。
俺たちは獣人族の集落に戻った。
ガルロ様が報告を聞いて、驚いた。
「鳳凰が自ら心羽を与えた、だと?」
「はい」
「千年の獣人族の歴史で——初めて」
「ええ」
「田中殿、お前は本物の料理人だ」
ガルロ様が深く頭を下げた。
獣人連合の長老の、最高の敬意。
俺は深く頭を下げ返した。
「ありがとうございます、ガルロ様」
「獣人連合、全力で料理大会参加する」
「ありがとうございます」
「お前の夢——必ず叶える」
ガルロ様の声には、強い決意が宿っていた。
料理人として、第五の種族の信頼を完全に勝ち取った瞬間。
獣人族の伝説素材も、獲得。
料理大会への準備が——また大きく前進した。
その夜、テントの中で。
俺はレイナと、二人で心羽を見ていた。
虹色に輝く、特別な羽根。
「すごい素材ね」
「ええ」
「これで、料理大会の最終料理——」
「四つ目の伝説素材」
「あと、人魚族ね」
「はい」
レイナが深く頷いた。
「あなたの夢、確実に近づいてる」
「皆のおかげです」
「また、それ」
「料理人ですから」
二人で笑い合った。
虹色の羽根が、月明かりに輝いていた。
料理人としての夢が——また一歩近づいた。
でも、その時——ふと不安がよぎった。
カインさん。まだ連絡がない。
もう、三週間。
魔界で、何かが起きている。
料理人として、平和な修行の裏で——確実に何かが進行していた。
俺は深く息を吸った。
料理大会まで、まだ時間がある。
でも、その間に——大きな嵐が来る予感がしていた。




