第60話 鳳凰の巣穴、紅蓮の翼への挑戦
俺たちは紅蓮の平原の、最深部へと向かっていた。
俺、ガリオさん、レイナ、ライガさん、リーラさん。
五人での伝説素材採取の旅。
シエラさんとエマさんは、集落で留守番を頼んでいた。
二人とも、戦闘には参加できない。
料理人として、二人を危険な場所には連れて行きたくなかった。
その代わり——獣人族の集落で、料理修行を続けていてもらう。
ガルロ様も孫娘の代わりに、二人を預かってくれていた。
俺たちはグランビーストに乗っていた。
馬車ではなく、騎乗での移動。
平原を駆け抜けていく速さは、想像以上。
ライガさんが先頭を走っていた。
彼が後ろを振り返って、叫んだ。
「あと二時間で、巣穴に着く!」
「了解!」
俺はグランビーストのたてがみを、しっかり握っていた。
……速い。
風が頬を、強く撫でていく。
料理人として、こんな騎乗体験は初めてだった。
でもその力強さに——心が躍っていた。
平原が徐々に、岩肌の地形に変わっていった。
赤茶色の岩。切り立った崖。
地形が険しくなっていく。
リーラさんが隣で、グランビーストを操りながら説明してくれた。
「鳳凰の巣穴、岩山の最上部」
「高いですね」
「ええ、登るのも命懸け」
「……」
「でも、鳳凰、巣穴から出てくる瞬間がある」
「いつですか?」
「太陽が頂点に達した時」
「真昼、ですね」
「ええ、ちょうど二時間後」
リーラさんが深く頷いた。
「鳳凰が出てきた瞬間に——巣穴に潜入する」
「なるほど」
「巣穴に抜け落ちた羽根がある」
「!」
「それを回収する作戦」
俺は深く頷いた。
……採取作戦、明確。
鳳凰本体と戦うわけではない。
その隙を狙って、羽根を回収する。
料理人として、頭を使った作戦。
でもリスクは、確実にある。
鳳凰が早く帰ってきたら——俺たち、命の危険。
俺は深く息を吸った。
一時間半後。
岩山の麓に到着した。
目の前に——巨大な岩山が聳え立っていた。
高さ五百メートル以上。
頂上付近に、巨大な洞窟の入り口が見えた。
……あれが、鳳凰の巣穴。
俺は息を呑んだ。
あんな高い場所まで、どうやって登るんだ?
ライガさんがグランビーストから降りた。
「ここから徒歩」
「岩山を、登るんですか?」
「ああ、獣人族の戦士、訓練済み」
「俺は料理人ですが」
「だから、私たちが運ぶ」
ライガさんがニカッと笑った。
「肩車で十分」
「……肩車、ですか」
「ああ、お前、軽い」
俺は思わず苦笑した。
料理人として、戦闘力はゼロ。
でも、獣人族の戦士たちが運んでくれる。
ありがたい申し出だった。
「ガリオは自力で登れるな」
「もちろんだ」
ガリオさんがニカッと笑った。
Aランク冒険者の本領発揮。
彼の装備、登山にも対応していた。
リーラさんがレイナに、声をかけた。
「レイナさん、登れますか?」
「私、毒師ギルド時代、こういう訓練受けてるから」
「素晴らしい」
「むしろ、田中の方が心配」
レイナがにっこり笑った。
「私とリーラさんが、田中をサポートします」
「もちろんですわ」
二人の女性が、笑顔で頷き合った。
……あ、また火花じゃなくて、協力。
料理人として、嬉しい瞬間。
団結して、俺を助けてくれる。
最高の状況だった。
俺たちは岩山を登り始めた。
ライガさんが俺を、肩車していた。
彼の力強さ、半端ない。
俺の体重を感じさせない、軽い足取り。
獣人族の上位戦士の本領。
俺は深く感心した。
ガリオさんは自力で登っていた。
Aランク冒険者の技術。
岩肌に手をかけて、軽快に進む姿。
レイナとリーラさんも、しっかり登っていた。
二人とも、訓練しっかり受けている。
……俺だけが肩車。
料理人として、ちょっと恥ずかしい。
でもこれは、必要なサポート。
料理大会の最終料理のためにも——羽根を絶対採取する。
俺は深く頷いた。
一時間後。
俺たちは洞窟の入り口に到着した。
……ここが、鳳凰の巣穴。
俺は息を呑んだ。
洞窟の中は暗かった。
でも、わずかに赤い光が漏れていた。
……鳳凰の体温?
【鑑定】が走った。
【鳳凰の、巣穴】
現在の、状態:本体、外出中(採取中)
残り、時間:約3時間
備考:内部に、抜け落ちた、羽根、複数。
ただし、空気が、高温(80度)。
短時間しか、滞在できない。
……。80度。
サウナよりも熱い。
でも、3時間本体が戻ってこない。
チャンスだった。
ライガさんが深く頷いた。
「行こう」
「了解」
俺たちは洞窟の中に入った。
熱気が襲ってきた。
……熱い。
でも耐えられるレベル。
料理人として、厨房の高温には慣れている。
でも、80度は限界だった。
洞窟の奥に進むと——
無数の赤い羽根が、地面に散らばっていた。
まるで絨毯のような光景。
……すごい。
俺は息を呑んだ。
【鑑定】が走った。
【紅蓮の、翼(抜け落ちた、羽根)】
毒性:生で、触ると、火傷(皮膚レベル)
処理方法:焼くと、毒が、滋養に、変わる
備考:1枚で、人間の、5000人分の、栄養価。
歴史上、人間に、譲渡された記録なし。
……5000人分。
料理人として、最高の素材。
でも、生で触ると火傷。
俺は特殊な手袋を、用意していた。
レイナが毒師ギルドの知識で作ってくれた、耐熱手袋。
俺は手袋をはめて、慎重に羽根を集め始めた。
ライガさん、リーラさんも手伝ってくれた。
ガリオさんは洞窟の入り口で、警戒していた。
もし鳳凰が早く戻ってきたら——彼が最初に気付く。
俺たちは急いで、羽根を回収した。
二十枚、三十枚、四十枚——たくさん取れた。
料理大会の最終料理のためには、十分すぎる量。
俺はレイナを見た。
「これで十分、ですよね?」
「ええ、撤収しよう」
彼女が深く頷いた。
俺たちが撤収の準備を始めた、その時——
ガリオさんの声が響いた。
「鳳凰、戻ってきてる!」
「!!」
俺の心臓が跳ねた。
……早すぎる。
まだ二時間しか経っていない。
なのに、鳳凰がもう戻ってきている?
ライガさんが鋭く叫んだ。
「全員、隠れろ!」
俺たちは洞窟の奥に、身を潜めた。
巨大な影が洞窟の入り口に、迫っていた。
炎のような赤い光。
鳳凰、本体。
……マズい。
料理人として、危機の瞬間が訪れていた。




