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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第57話 紅蓮の平原、獣人連合の長老

 馬車が紅蓮の平原に入った。

 地平線まで続く、赤茶色の大地。

 風が強く、土が舞っていた。

 でもその風には、独特の香ばしさが混じっていた。

 肉を焼く香り。ハーブの香り。

 獣人族の文化の香りが——風に乗って届いてきた。

 俺は馬車の窓を開けた。

 深く息を吸った。

 ……この匂い、好きだ。

 料理人として、嗅覚が研ぎ澄まされていく感覚。

 獣人族の料理の深みが、すでに感じられた。

 馬車が徐々に、獣人族の集落に近づいていった。


 平原の中央に——巨大なテントの集合体が、見えてきた。

 白い布製のテント。

 獣人族らしい、力強い装飾。

 中央には、最も大きなテントが立っていた。

 長老の本部らしい。

 ライガさんが馬車を止めた。

「ここから徒歩で進む」

「分かりました」

「グランビーストは外で休ませる」

 俺たちは馬車から降りた。

 地面は固く、乾いていた。

 風が頬を撫でていく。

 ……日本の夏の河原みたいな感じ。

 でも、もっと力強い空気。

 料理人として、その空気を深く吸った。


 俺たちが集落に入ると——獣人族の人々が、興味深そうに見ていた。

 虎人族、狼人族、熊人族——様々な獣の特徴を持つ人々。

 みんな、筋肉質で力強い体つき。

 でもその目には——好奇心が宿っていた。

 敵意は感じない。

 子供たちが駆け寄ってきた。

「人間だっ!」

「エルフもいる!」

「ドワーフの子もいる!」

 純粋な好奇心。

 ライガさんが優しく、子供たちに声をかけた。

「我らのお客様だ。敬意を忘れずに」

「はーい!」

 子供たちが頷いた。

 でも、目は輝いたまま。

 ……可愛い。

 料理人として、子供たちの笑顔を見ると、心が温かくなった。


 ライガさんが中央の巨大テントに、俺たちを案内した。

 テントの中は思ったより、広かった。

 天井から、無数のランプが吊り下がっていた。

 壁には、獣人族の戦士たちの武具が飾られていた。

 巨大な槍、斧、弓。

 みんな実用的で、力強い武器だった。

 中央には、円形のテーブルと椅子。

 その奥に——一人の老人が座っていた。

 彼はライガさんよりも、年上だった。

 でも体はまだ、筋肉質で力強かった。

 頭には、熊のような耳と白い髭。

 目は深い緑色で、知性が宿っていた。

 【鑑定】が勝手に走った。


【ガルロ・ノルダン(120歳)】

 種族:獣人族・熊人族(連合長老)

 戦闘力:S級(現役時代)

 備考:獣人連合の、最年長。

    全ての、種族を、まとめる、力を、持つ。


 ……S級。

 ドルガン様と同じレベル。

 料理人として、敬意を持って彼に頭を下げた。

「田中一郎と申します」

「うむ」

 ガルロ様の声は、低く深かった。

「人間の料理人田中、よく来てくれた」

「お招き、ありがとうございます」

「ライガから、お前の噂聞いている」

「光栄です」

 ガルロ様が深く頷いた。

「料理大会の件、検討している」

「ありがとうございます」

「だが、我ら獣人族、すぐには決定できない」

「もちろんです」

「お前の料理を見て——獣人族の料理人と比較する」

「比較、ですか」

「ああ」

 ガルロ様の目が、深くなった。

「獣人族にも、優れた料理人がいる」

「ええ」

「その料理人とお前で——料理を披露し合ってもらう」

「料理対決、ですか」

「いや、対決ではない」

 ガルロ様が静かに、首を振った。

「お互いの料理を見せ合う、儀式」

「なるほど」

「我ら獣人族の文化として、お互いの誇りを認め合う」

「素晴らしい習わしですね」

「うむ」

 ガルロ様が深く頷いた。

「明日、その儀式を執り行う」

「分かりました」

「準備、半日与える」

「ありがとうございます」

 俺は深く頭を下げた。

 料理人として、新しい形の交流。

 対決ではなく、相互尊重の儀式。

 獣人族の文化の深さを感じた瞬間だった。


 ガルロ様がふと、テントの奥を見た。

「リーラ、こちらへ」

 奥から、一人の女性が進み出てきた。

 俺は思わず、目を見開いた。

 ……若い獣人族の女性。

 身長は人間より、わずかに高い。

 体はしなやかで、筋肉質。

 でも、女性らしい優雅さもあった。

 頭には——猫のような耳が生えていた。

 顔の左右には、繊細な模様。

 目は深い緑色で、知的な輝き。

 長い黒い髪が、背中まで流れていた。

 【鑑定】が走った。


【リーラ・ハイラン(28歳)】

 種族:獣人族・猫人族(料理人)

 職業:獣人連合・最高料理人

 戦闘力:A級(戦士としての、訓練も、受けている)

 備考:ガルロ長老の、孫娘。

    獣人族の、伝統料理の、達人。


 ……ガルロ様の孫娘。

 しかも、最高料理人。戦闘力、A級。

 獣人族では、料理人も戦士の訓練を受けているらしい。

 リーラさんが優雅に頭を下げた。

「初めまして、リーラ・ハイランです」

「田中一郎です」

「ライガからお話、聞いています」

「光栄です」

「明日の儀式、楽しみにしています」

 彼女の声は、優雅で落ち着いていた。

 戦士の力強さと、料理人の繊細さ、両方を持つ女性。

 俺は感心した。

 料理人として、最高の相手だった。


 その時、エマさんがぱぁっと、リーラさんに駆け寄った。

「リーラさん、可愛い猫の耳!」

「ありがとう、ドワーフのお嬢さん」

「私、エマ・グレンハイムっ!」

「うふふ、エマさん、お元気ですね」

 リーラさんが優しく微笑んだ。

 その笑顔は——母親のような温かさがあった。

 エマさんがリーラさんの手を握った。

「明日、料理見せて?」

「もちろんよ」

「私、ドワーフの料理見せるね!」

「楽しみだわ」

 二人がすぐに、打ち解けた。

 料理人同士の絆。

 種族の壁を超えて、すぐに繋がる。

 料理人として、最高の瞬間だった。


 その夜。

 俺たちは獣人族の客用テントに、案内された。

 大きなテント。

 中には、毛皮の敷布と簡素なベッド。

 獣人族らしい、シンプルで力強い空間。

 俺はレイナと、二人でテントの中で相談した。

「明日の儀式、不安?」

「いえ、楽しみです」

「リーラさん、料理人として本物だわ」

「ええ」

「あなた、本気で挑まないといけない」

「もちろんです」

 俺は深く頷いた。

 リーラさんの料理を、見るのが楽しみだった。

 獣人族の伝統料理の達人。

 そこから、何を学べるか。

 料理人として、ワクワクしていた。

 でも、その夜——ふと不安がよぎった。

 カインさんは無事に、魔界で調査しているだろうか。

 ザガン公の動きが、心配だった。

 料理人としての平和な時間。

 でも、その平和の裏で何かが動いている気がした。

 俺は深く息を吸った。

 ……明日、儀式を成功させる。

 料理人として、最善を尽くす。

 それしか、できなかった。

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