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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第56話 紅蓮の旅路、ライガの過去

 二日後の朝。

 俺たちはベラ亭の前に集まっていた。

 俺、ガリオさん、レイナ、シエラさん、エマさん。

 そして、ライガさん。

 六人での、獣人族領地への旅。

 カインさんは別行動で、すでに魔界へ出発していた。

 彼の無事を祈りながら——俺たちも出発の準備を整えた。

 馬車には、ライガさんのグランビーストが二頭追加で繋がれていた。

 馬の三倍の速度。

 五日の旅とは言うものの、グランビーストの引く馬車は桁違いに早かった。

 俺はその筋肉質な体を、観察した。

 ……かっこいい。

 地球の馬とは、まったく違う神々しさ。

 料理人として、思わず感心した。


 ベラさんが見送りに出てきた。

「田中さん、皆さん、お気をつけてぇぇぇ!」

「ベラさん、お留守、お願いします」

「ベラ亭、しっかり守りますぅぅ!」

 ベラさんが号泣しながら、見送ってくれた。

 リエラさんも隣で、頭を下げた。

「皆様、お元気で」

 シャルロッテ王女もテラスから、手を振っていた。

「師匠、頑張ってくださいませ!」

 ジルベールさんも礼儀正しく、頭を下げた。

「ベラ亭の運営、お任せください」

 俺は深く頭を下げた。

「皆さん、よろしくお願いします」

 ベラ亭の家族たち。

 いつも温かく、見送ってくれる。

 料理人として、これ以上の幸せはなかった。


 馬車がゆっくり動き出した。

 ガリオさんが御者席に座った。

 ライガさんも隣で、グランビーストを操っていた。

 二人のベテランの男たち。

 馬車の中には、俺、レイナ、シエラさん、エマさん。

 いつもの四人の構成。

 でも今回は、ヒロイン候補3人と俺、という面白い状況だった。

「タナカさん」

 エマさんがぱぁっと駆け寄ってきた。

「獣人族って、どんな人たち?」

「俺もよく分からない」

「えっ、知らないの?」

「初めて会うんだ」

「面白そう!」

 エマさんが楽しそうに笑った。

 彼女の好奇心は、本当に止まらない。

 料理人として、その元気が心地よかった。

 シエラさんが優雅に説明した。

「獣人族、エルフ族とは長年、距離がありました」

「そうなの?」

「ええ、価値観の違いで」

「植物と肉、ですね」

「その通り」

「でも、料理大会で繋がれる」

「ええ、そう願います」

 シエラさんが深く頷いた。

 二人の会話は、知識交換のようだった。

 俺はそれを聞きながら、料理人として考えていた。

 獣人族の料理。

 肉と生食を中心とする文化。

 その本質的な価値を引き出す料理を作る。

 料理人として、新しい挑戦だった。


 夕方。

 馬車が街道を外れて、森の中の開けた場所で休憩した。

 ライガさんがグランビーストたちに、水を与えた。

 俺たちも馬車から降りて、食事の準備を始めた。

 今夜はベラ亭で用意してもらった、お弁当。

 ベラさんが心を込めて作ってくれた料理が、詰まっていた。

 俺はお弁当を開けた。

 ル・オニオンの煮込み、おにぎり、肉と野菜の炒め物。

 全部、ベラ亭の温かい味だった。

「タナカさん、これ、美味しそう!」

「エマさん、食べましょう」

「いただきまーすっ!」

 エマさんが楽しそうに食べ始めた。

 彼女の食欲、本当にすごい。

 ドワーフ族らしい、健康的な食べっぷり。

 シエラさんも優雅に、お弁当を味わっていた。

 その時、ライガさんが興味深そうに、こちらを見た。

「お前たち、人間のお弁当か」

「はい」

「私もいただいてよろしいか」

「もちろんです」

 俺はお弁当を、彼に差し出した。

 ライガさんが慎重に、口に運んだ。

 彼の表情が、わずかに緩んだ。

「これ、美味い」

「ありがとうございます」

「人間の料理、温かい味だ」

「光栄です」

「我ら獣人族の料理とは、全く違う」

「どんな料理ですか」

「肉、メイン。塩と火だけでシンプルに」

「素材重視ですね」

「そうだ」

 ライガさんが深く頷いた。

「だが、お前の料理は——複雑で深い」

「ありがとうございます」

「興味深い」

 彼の目には、強い好奇心が宿っていた。

 料理人として、嬉しい視線だった。


 夕食の後。

 ガリオさんとライガさんが、ワインを飲みながら話していた。

 俺はその横で、お茶をすすっていた。

 ライガさんがふと、口を開いた。

「田中殿」

「はい」

「実は、お前にお礼を言わねばならない」

「お礼、ですか?」

「ああ」

 ライガさんの目が、深くなった。

「数年前、人間の街で私の妻が、毒で倒れた」

「!」

「人間の医者では、治せなかった」

「……」

「だが、ある料理人が彼女を救ってくれた」

 彼の声には、深い感謝が宿っていた。

「その料理人の名前は——田中、といったか、確か」

「!?」

 俺は思わず、目を見開いた。

 ……それは俺じゃない?

 心当たり無いけど。

 ライガさんがふっと笑った。

「すまない、お前ではなかったらしい」

「あ、はい」

「だが、人間の料理人が、毒を料理に変える技術を持っている」

「ええ」

「その噂を聞いて——獣人族の長老が、お前に興味を持った」

「なるほど」

「我ら獣人族も、料理人として田中殿に学びたい」

 ライガさんが深く頭を下げた。

 俺は慌てて、手を振った。

「ライガさん、頭をお上げください」

「いや、これは必要な礼だ」

「俺、まだ若い料理人です」

「だが、お前の料理は本物」

「……」

「ベラ亭で味わって、確信した」

 ライガさんが深く頷いた。

「我ら獣人族の料理を、より高めてもらいたい」

「光栄です」

 俺は深く頭を下げた。

 料理人として、信頼を勝ち取った瞬間。

 でも、それ以上に——心配なことがあった。

 ライガさんの奥さんを救った料理人。

 ……それは誰だろう?

 俺と同じ技術を持つ料理人?

 もしくは——前世の俺と似た転生者?

 料理人として、興味深い謎だった。


 夜が更けた頃。

 俺は馬車の中で、レイナと二人で横になっていた。

 星空が、馬車の窓から見えていた。

「一郎」

「はい」

「ライガさんの話、気になる?」

「ええ」

「あなたと同じ技術を持つ料理人」

「……」

「気になりますね」

「もしかすると、転生者かもね」

 レイナがぽつり、と呟いた。

 俺は深く頷いた。

 ……転生者。

 地球からこちらに来た、別の人。

 俺以外にもいる可能性。

 料理人として、その可能性に興奮していた。

 でも同時に——少し不安でもあった。

 その料理人が、敵か味方か。

 まだ分からない。

「一郎、心配しないで」

「はい」

「あなたの料理が本物なら——必ず出会える」

「ええ」

「料理人同士、いつか繋がるはず」

 レイナの声には、強い信頼が宿っていた。

 俺は彼女の手を握った。

 彼女が優しく、握り返してきた。

 馬車の中で、二人だけの時間。

 星空が優しく輝いていた。

 料理人としての新しい謎が、増えた夜だった。


 翌朝から、馬車の旅が続いた。

 四日目の夕方。

 遠くに、紅蓮の平原が見えてきた。

 地平線まで続く、赤茶色の大地。

 獣人族の本拠地。

 馬車が徐々に近づいていった。

 俺は深く息を吸った。

 新しい種族との出会いが、もうすぐ待っていた。

 料理人として、また世界が広がる。

 ワクワクが止まらなかった。

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