第54話 シャルロッテ来訪、ヒロイン全員集合
ベラ亭の日常が続いていた。
シエラさんとエマさんは、毎日新しい料理を学んでいた。
ル・オニオンの煮込み、ハンバーグ、鶏のロースト。
基本料理を、しっかり覚えてくれた。
二人とも、料理人としての吸収力が抜群だった。
ベラ亭の新しい朝が、定着していた。
でも、その日——王都から、特別な来客がやってきた。
昼前。
ベラ亭の前に、豪華な馬車が止まった。
金色の装飾。王家の紋章。
ベラ亭の常連さんたちが、一斉に驚いた。
俺はその馬車を見て——にっこり微笑んだ。
……シャルロッテ様。
来週と言っていたけど、早めに到着したらしい。
馬車の扉が開いた。
最初に降りてきたのは——護衛のダミアン騎士団第三席。
いつもの青い騎士服。
彼が深く頭を下げた。
「田中殿、お久しぶりです」
「ダミアンさん、お元気そうで」
「シャルロッテ王女、お連れしました」
彼の後ろから、シャルロッテ様が優雅に降りてきた。
紫色のドレス。
いつもの、王女らしい品のある佇まい。
でも、表情には——会えた喜びがにじんでいた。
「師匠!」
「シャルロッテ様」
「お会いしたかったですわ!」
彼女が駆け寄ってきた。
王女らしく優雅に、でも隠せない嬉しさを含んだ足取り。
俺は深く頭を下げた。
「シャルロッテ様、お元気そうで何よりです」
「師匠こそ、ご無事のお帰り、嬉しいですわ」
「ありがとうございます」
「ドワーフ族の件、お聞きしました」
「お耳が早いですね」
「兄上の王宮にも、伝令が来ましたわ」
シャルロッテ様がにっこり笑った。
王女らしい、優雅な笑顔。
でも目には、料理人としての好奇心も宿っていた。
俺はシャルロッテ様を、ベラ亭の中に案内した。
ベラさんがホールから駆け寄ってきた。
「お、王女様ぁぁぁ!」
「ベラさん、お久しぶりですわ」
「お、お会いできて、嬉しゅうございますぅぅぅ……!」
ベラさんが、いつもの号泣全開。
王女様の前で号泣する女将——いつものことだけど、シャルロッテ様も慣れていた。
彼女が優しく、ベラさんの手を握った。
「ベラさん、ベラ亭の玉ねぎスープ、またいただきたいですわ」
「もちろんですぅぅぅ!」
「ありがとうございます」
二人の再会の光景。
料理人として、心が温かくなる瞬間。
その時、シャルロッテ様が——ホールの奥にいた、シエラさんとエマさんを見た。
彼女の目が、わずかに見開かれた。
「あら、お二人は——?」
「シャルロッテ様、ご紹介します」
「お願いしますわ」
「エルフ族の、シエラ・フェリオンさん」
「!」
「ドワーフ族の、エマ・グレンハイムさん」
「!!」
シャルロッテ様が目を丸くした。
でもすぐに、笑顔に戻った。
「お二人とも、ベラ亭で修行中なのですわね?」
「はい、シャルロッテ様」
「料理大会の準備で、ベラ亭に滞在しています」
「素晴らしいですわ」
シャルロッテ様が優雅に頭を下げた。
「シャルロッテ・ヴァン・オーランドと申します」
「お初にお目にかかります」
「王女様!? うわぁぁ、本物っ!」
エマさんが目を輝かせた。
彼女がシャルロッテ様に駆け寄った。
「私、王女様初めて見たっ!」
「うふふ、エマさん、お元気ですわね」
「すごい、ドレス!」
「あ、ありがとうございます」
シャルロッテ様が少し、戸惑った。
でも、エマさんの純粋な好奇心に——徐々に笑顔になった。
ドワーフの太陽のような明るさは、王女様にも伝染していた。
その時——シャルロッテ様の視線が、俺の隣に立っていたレイナに移った。
レイナがにっこり微笑んだ。
「シャルロッテ様、お久しぶりです」
「レイナさん、お元気そうで」
「ええ」
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
二人が優雅に、頭を下げ合った。
でも、その礼儀正しいやり取りの裏で——何か微妙な空気が流れていた。
……あ、これ、ヒロインの火花。
でもレイナとシャルロッテ様の場合は、微妙に違う。
二人の間には、もはや対立の空気はない。
でもそれぞれ、立場が違う。
レイナは俺の婚約者——「正妻」。
シャルロッテ様は俺の弟子——「料理人」。
二人の関係は、絶妙なバランスを保っていた。
俺はホッと息を吐いた。
……平和に進みそう。
その時、シャルロッテ様がシエラさんとエマさんに、声をかけた。
「お二人、私、お料理教えていただきたいですわ」
「!」
「私も、ベラ亭の弟子です」
「えっ」
「料理人として、同じ立場ですわ」
「シャルロッテ様」
「皆で一緒に、修行しましょう」
シャルロッテ様の目には、強い決意が宿っていた。
王女としての誇りを忘れず——でも料理人として、対等な姿勢。
俺は深く感動した。
彼女が、こんな姿勢で来てくれるとは。
料理人として、誇らしい弟子だった。
エマさんがぱぁっと、目を輝かせた。
「やったー! 王女様も料理仲間!」
「うふふ、よろしくね、エマさん」
「私、お料理いっぱい教えますっ!」
「楽しみですわ」
二人がすぐに打ち解けた。
シエラさんも優雅に微笑んだ。
「シャルロッテ様、エルフの料理もお教えします」
「素敵ですわ」
「お互いに学び合いましょう」
「ええ」
三人が笑顔で頷き合った。
ベラ亭に、5人の女性料理人が揃った。
ベラさん、リエラさん、レイナ、シエラさん、エマさん、シャルロッテ様——6人。
……賑やかすぎる。
俺は思わず笑ってしまった。
料理人として、こんな賑やかなベラ亭、初めてだった。
その夜。
ベラ亭の奥の食堂で——6人の女性たちが、賑やかに料理談義していた。
俺、ガリオさん、カインさん、ダミアン騎士、ジルベールさんは、別のテーブルでワインを飲んでいた。
ガリオさんがニカッと笑った。
「田中、お前のベラ亭、本当にすごいことになってるな」
「ですよね」
「6人の女性、料理談義」
「賑やかですね」
「お前、ハーレム本気で運営してるな」
「いや、これはたまたま」
「たまたまでこうなるか」
ガリオさんが笑った。
ダミアン騎士も苦笑しながら、頷いた。
「田中殿、本当にすごい人ですね」
「いえ、皆のおかげです」
「シャルロッテ王女、ベラ亭が大好きなんですよ」
「光栄です」
「王宮ではずっと、料理大会の話してます」
「楽しみにしてくれている」
「もちろんです」
ダミアンが優しく微笑んだ。
料理大会への王宮の応援団。
また、一つ絆が深まった。
ジルベールさんがぼそっと呟いた。
「田中殿、一つお話があります」
「はい?」
「ザガン公の動きの件です」
俺の表情が、一気に変わった。
「何か、情報が?」
「ええ」
「カインさんと、情報を共有してきました」
ジルベールさんが深刻な顔で続けた。
「魔界、ザガン派の勢力が急速に拡大しているようです」
「!」
「魔王軍内部に、反グレイヴ派が台頭」
「グレイヴ様、危険ですか?」
「まだ、安全」
「でも?」
「時間の問題、だと思います」
ジルベールさんの声には、強い緊張感が宿っていた。
俺は深く息を吸った。
「カインさん、何か対策は?」
「あります」
カインさんが静かに答えた。
「俺の毒師ギルドの人脈で、魔界に潜入捜査をする」
「危険じゃないですか?」
「もちろん危険」
「カインさん」
「でも、必要なことだ」
カインさんの目には、強い決意が宿っていた。
毒師ギルド総帥としての、彼の覚悟。
俺は深く頷いた。
「カインさん、お願いします」
「もちろん」
「危険な時は、すぐ戻ってください」
「了解です」
カインさんが笑顔で頷いた。
料理人として、頼もしい仲間。
でも、不安もあった。
ザガン公の動きが加速している。
料理大会まで、まだ一年と少しある。
その間に——魔界で、何かが起きる可能性が高い。
俺は深く息を吸った。
料理人として、その激動の時代を生き抜く覚悟を決めた。
夜が更けた頃。
俺はレイナと、ベラ亭の屋根の上で月を見ていた。
いつもの二人の時間。
「一郎」
「はい」
「ザガン公の動き、不安?」
「正直、不安です」
「でも、私たち料理人」
「ええ」
「俺たちにできることは——」
「料理を作ること」
「はい」
二人で頷き合った。
政治的な戦いは、俺たちの専門外。
でも料理を通じて、世界を温める。
それが俺たちの戦い方だった。
「一郎」
「はい」
「私、信じてる」
「何を?」
「あなたの料理が、世界を変えること」
「……」
「ザガン公の悪意も、料理で溶かせる」
レイナの目には、強い信頼が宿っていた。
俺は彼女の手を握った。
彼女が優しく、握り返してきた。
月明かりが二人を、優しく照らしていた。
料理人として、これからの戦い。
でも仲間がいる。愛する人がいる。
ベラ亭の家族がいる。
俺は深く息を吸った。
絶対、料理大会成功させる。
その決意が、また固まった瞬間だった。




