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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第51話 別れと、新しい旅立ち

 翌朝。

 俺たちは鉄の都の城門前に集まっていた。

 俺、ガリオさん、レイナ、カインさん、シエラさん、そして——エマさん。

 六人でのベラ亭への帰還の旅。

 馬車にはドワーフ族からの贈り物が、山ほど積まれていた。

 黒鉄の骨髄。鉱山牛の肉。地下キノコ。ドワーフ酒『鉄の魂』。

 料理大会の最終料理に使う伝説素材『黒鉄の骨髄』も、特別な箱に収めてあった。

 ドワーフ族からの最高の贈り物。

 俺は深く頭を下げて、受け取った。

 城門前には見送りのドワーフたちが、集まっていた。

 ドルガン様、ガレンさん、長老たち、ボルカン守備隊長。

 そして、ドワーフ族の一般の人々まで。

 数百人の見送り。

 ……すごい光景。

 俺は感動した。


 ドルガンが深く頭を下げた。

「田中殿、長い滞在ご苦労だった」

「ドルガン様、お世話になりました」

「いや、こちらこそ。命を救ってくれてありがとう」

「いえ、当然のことです」

「料理大会で、また会おう」

「もちろんです」

 俺たちは固く握手を交わした。

 ガレンさんが俺の前に立った。

「田中殿、もう一度、お礼を」

「いえ、ガレンさん」

「私の命、確かに繋がりました」

「お元気そうで、何よりです」

「料理大会の会場、最高のものを作ります」

「楽しみにしています」

 ガレンさんが深く頭を下げた。

 俺も深く頭を下げ返した。

 最年長の長老がゆっくり、進み出てきた。

「田中殿、最後に一つ」

「はい」

「お前の夢、ドワーフ族として全力で応援する」

「ありがとうございます」

「料理で世界を繋ぐ——その壮大な夢」

「はい」

「我らも、その一部でありたい」

 長老の目には、強い決意が宿っていた。

 俺は深く頷いた。

「必ず、料理大会を成功させます」

「うむ」

 俺たちは、しっかりと頷き合った。


 次はエマさんの番。

 彼女は家族との別れに震えていた。

 でもその目には、強い決意も宿っていた。

「お父さん、おじいちゃん」

「うむ」

「行ってきます」

「気をつけて、エマ」

「無理はしないで」

 ガレンさんが優しく、娘の頭を撫でた。

 ドルガンが孫娘を、しっかり抱きしめた。

「エマ、ドワーフ族の誇りを忘れるな」

「うん」

「お前の夢、必ず叶える」

「うん」

「料理大会で、世界に見せてやれ」

「絶対、見せてやるっ!」

 エマさんが力強く頷いた。

 涙を必死に、堪えていた。

 ドルガンも目を潤ませていた。

 でも二人とも、別れの寂しさより——未来への希望が勝っていた。

 俺はその光景を見守りながら——料理人として、エマさんを必ず立派に育てる、と誓った。


 馬車がゆっくり動き出した。

 城門が徐々に、遠ざかっていく。

 ドワーフ族の人々が手を振って、見送ってくれた。

 数百人の手が、一斉に揺れた。

 ……壮大な見送り。

 俺は馬車の窓から、深く頭を下げた。

 エマさんが窓に貼り付くように、家族を見つめていた。

 涙がぽろぽろと、頬を伝っていた。

 でも、口元は微笑んでいた。

「お父さーんっ! おじいちゃーんっ!」

「またね、エマっ!」

「絶対、戻ってくるからねっ!」

 彼女の声が坑道に響いた。

 ドルガンとガレンさんが、最後まで手を振っていた。

 城門が見えなくなるまで——彼らは立ち尽くしていた。

 俺は深く息を吸った。

 料理人として、また一つ——大切な絆を得た瞬間。


 馬車が坑道を進んでいった。

 ボルカンと警備隊が、坑道の出口まで護衛してくれた。

 ボルカンが最後に、俺に声をかけた。

「田中、また来いよ」

「もちろんです、ボルカンさん」

「ガリオも、また飲もう」

「おう、楽しみにしてる」

 ガリオさんがニカッと笑った。

 Aランク冒険者とドワーフ族の精鋭の友情。

 二人は深く握手を交わした。

 坑道の出口に到着した。

 ボルカンと警備隊が深く頭を下げて、見送ってくれた。

 俺たちは馬車を進めて、地上に出た。

 太陽の光がまぶしかった。

 久しぶりの地上の空。

 俺は深く息を吸った。

 爽やかな空気。森の香り。

 地下都市とは、また違う世界。

 料理人として、五感が研ぎ澄まされていく。

 地上、最高だ。


 馬車が街道を進んだ。

 行きと同じ道を戻る旅。

 でも、行きとは違う。

 今はドワーフ族の信頼を勝ち取り、伝説素材を獲得した後の旅。

 心が軽かった。

 エマさんは最初、家族との別れの寂しさで静かにしていた。

 でも徐々に、いつもの元気を取り戻していた。

 彼女がレイナに、いろいろ質問していた。

「レイナさん、ベラ亭ってどんな所?」

「温かいお店よ」

「ベラさん、優しい人?」

「めちゃくちゃ優しい」

「ふふ、楽しみ!」

「ベラさんは、号泣する人」

「号泣?」

「嬉しい時、悲しい時、何でも号泣する」

「面白いっ!」

 レイナがにっこり微笑んだ。

 エマさんも笑っていた。

 ヒロイン同士の火花は——少なくとも、馬車の中では出ていなかった。

 お互いに料理人としての、共通の話題で繋がっていた。

 俺はホッと息を吐いた。

 ……ベラ亭に着いてから、火花が出ないように祈ろう。

 料理人として、複雑な人間関係に巻き込まれる人生。

 でもそれも、俺の人生だった。


 シエラさんも馬車の隅で、優しく微笑んでいた。

 彼女もエマさんとの会話に、加わっていた。

「エマさん、ベラ亭のル・オニオンは、本当に美味しいですよ」

「ル・オニオン?」

「タナカさんの看板素材」

「すごい!」

「私も最初は、驚きました」

「シエラさん、料理上達しましたか?」

「ええ、毎日勉強です」

「私も、頑張りますっ!」

 二人が料理談義で盛り上がっていた。

 ……ヒロイン同士、料理を通じて絆が深まっていく。

 俺はその光景を、深く感動して見ていた。

 料理は種族の壁も、ヒロインの火花も超える力を持っている。

 その本質を目の前で、確認できた瞬間。

 料理人として、最高の誇りだった。


 馬車での旅、四日目。

 遠くにオルバの街が、見え始めた。

 俺たちのベラ亭がある街。

 懐かしい景色。

 俺は深く息を吸った。

 ……ただいま。

 まだ街には入っていないけど——心はもう、ベラ亭にあった。

 ベラさんとリエラさんが待っている。

 田中食堂とベラ亭が待っている。

 俺たちの家。

 明日にはベラ亭の前に立てる。

 俺は馬車の窓から、街を見つめていた。

 料理人として、また一つの章が完了した。

 次はベラ亭での日常。

 そしてその後——獣人編。

 料理人としての世界が、また広がっていく。

 俺は深く息を吸った。

 明日、ベラ亭に戻る。

 最高の瞬間が待っていた。


 その夜、馬車の中で。

 俺はレイナと、二人だけで月を見ていた。

 窓から月明かりが、差し込んでいた。

「一郎」

「はい」

「明日、ベラ亭に着くね」

「ええ」

「ベラさん、絶対号泣するわ」

「ですね」

「リエラさんも、優しく出迎えてくれる」

「楽しみです」

 レイナが優しく微笑んだ。

「シエラさんとエマさんを、ベラさんに紹介する」

「ベラさん、また号泣するでしょうね」

「うふふ」

 二人で笑い合った。

 ベラ亭は俺たちの家。

 どこに行っても、必ず戻ってくる場所。

 その温かさが、また近づいてくる。

 俺はレイナの手を握った。

 彼女が優しく、握り返してきた。

 月明かりが二人を、優しく照らしていた。

 料理人としての新しい章が——明日、ベラ亭で始まる。

 俺は深く頷いた。

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