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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第44話 エマの料理修行、ドワーフの厨房

 翌朝。

 俺は鉄の都の客室で目を覚ました。

 石造りの天井。ドワーフ族特有の、武骨で温かい部屋。

 窓はないが、蛍光石の光が優しく照らしていた。

 時計を見ると、朝六時。

 ベラ亭でも同じ時間に起きていた。

 料理人として染み付いた習慣だった。

 顔を洗って、エプロンを身に着けた。

 今日から、ドワーフ族の料理を学ぶ。

 黒鉄の骨髄の処理は、ドルガン様が教えてくれる予定。

 でもその前に、ドワーフの料理文化を知る必要がある。

 料理人として、相手の文化を理解せずに料理は作れない。

 それが俺の流儀だった。


 厨房に向かうと、すでにエマさんが待っていた。

「タナカさん、おはよーっ!」

「エマさん、おはようございます」

「早起きですねぇ!」

「ええ、料理人ですから」

「私もですーっ!」

 エマさんが満面の笑みで頷いた。

 短い赤橙色の髪が、元気よく揺れていた。

 白いエプロンに、太い腕がしっかり収まっていた。

 【鑑定】を改めて見直すと、ドワーフ族最年少の料理人。

 でもその腕には、しっかり料理人の風格があった。

「タナカさん、何を作りますか?」

「いや、今日はドワーフの料理を教えてください」

「えっ、私から?」

「はい」

「タナカさんが、教える側じゃないの?」

「いえ、最初は学ぶ側です」

 俺はにっこり微笑んだ。

「相手の料理を理解しないと、こちらの料理も活きません」

「お、おお……」

 エマさんが目を見開いた。

「タナカさん、本物の料理人ですね」

「そう願います」

「分かりました! じゃあドワーフ料理、教えますっ!」

 彼女が力強く頷いた。

 その元気さが、ベラ亭のベラさんと似ていた。

 俺は思わず微笑んだ。


 エマさんが最初に出してくれた素材は——巨大な肉の塊だった。

 牛肉のような赤い肉。

 でもサイズが、人間界の何倍も大きい。

「これ、何の肉ですか」

「鉱山牛!」

「鉱山牛」

「鉄の山脈に住む、巨大な牛です」

「美味しそうですね」

「めちゃくちゃ美味しいよぉ!」

 エマさんが目を輝かせた。

「ドワーフ料理の基本は、肉と火」

「肉と火」

「鉱山の高温炉で、じっくり焼くの」

「ふむ」

「あと、塩とハーブと酒」

「酒、ですか」

「ドワーフの酒は、料理にも使うのっ」

 エマさんが樽から、琥珀色の液体を注いだ。

 ……強烈な香り。

 【鑑定】が走った。


【ドワーフ族・蒸留酒『鉄の魂』】

 アルコール度数:80度

 備考:ドワーフ族の伝統酒。料理にも使用。

    強い芳香と、深い味わい。


 ……80度。

 地球のウォッカでも、40〜50度。

 80度は消毒用アルコール並み。

 俺はぎょっとした。

「エマさん、これ、本当に料理に?」

「もちろんっ! 肉がすごく柔らかくなるのっ」

「飲んだら、即気絶しそうですね」

「タナカさん、飲みたい?」

「いえ、料理優先で」

「あはは! 賢明な判断!」

 エマさんが明るく笑った。

 俺もつられて、笑ってしまった。

 彼女の明るさは、本当に太陽のようだった。


 俺たちは鉱山牛の調理を始めた。

 まず、肉を大きく切り分けた。

 エマさんの包丁さばきは、すごかった。

 巨大な肉を軽々と扱っている。

 ……ドワーフの力、本当にすごい。

 俺の五倍以上の力。

 力仕事は、彼女の得意分野だった。

 次に、ハーブを混ぜた。

 ローリエ、タイム、ローズマリーに似たハーブ。

 それに塩と『鉄の魂』を、たっぷり振りかけた。

 肉が強烈な香りに包まれた。

「これで半日、寝かせるっ」

「半日」

「肉にハーブと酒の味が、染み込む」

「分かりました」

「その間に、別の料理教えるねっ」

 エマさんが楽しそうに、次の素材を出してきた。

 今度は巨大なキノコだった。

「これは地下キノコ!」

「すごいサイズですね」

「鉱山の暗い場所で、育つの」

「ええ」

「煮込むと、超美味しいっ!」

「楽しみです」

 俺たちは地下キノコを刻んだ。

 エマさんは、本当に料理が大好きらしい。

 手早く楽しそうに、調理を進めた。

 俺も彼女に合わせて、調理を進めた。

 料理人同士の心地よいリズム。

 ベラ亭でリエラさんと料理する時と、同じ感覚。

 ……エマさん、料理人としての才能ある。

 俺は感心した。


 昼前。

 エマさんが「ちょっと休憩」と言って、お茶を用意してくれた。

 ドワーフの伝統的なハーブティー。

 飲んでみると、爽やかで優しい味。

 二人で厨房の椅子に座って、お茶を飲んだ。

「タナカさん、すごいですね」

「何が、ですか」

「ドワーフの料理、すぐに覚えるの」

「料理人の基礎は、種族関係なく共通ですよ」

「そうかなぁ」

 エマさんが首を傾げた。

「私、エルフの料理苦手なの」

「そうなんですか」

「植物中心で、火を使わない」

「ええ」

「ドワーフの料理と真逆」

「ですね」

「だから料理大会、不安だったの」

 彼女の声が、少し低くなった。

「全種族の料理、合わせるの無理、って思ってた」

「エマさん」

「でもタナカさんの噂を聞いて——」

「はい」

「全部の種族の料理を繋げる料理人がいるって」

「……」

「だからお会いしたかったのっ」

 彼女が目を輝かせた。

 俺は深く頷いた。

 料理人として、嬉しい視線。

 料理を通じて、種族の壁を超える。

 その夢に共感してくれる、若い料理人。

 最高の出会いだった。

「エマさん」

「はい」

「俺、料理大会で全種族の料理を繋げる料理を、作りたいです」

「うん」

「エマさんのドワーフ料理も、その一部です」

「!」

「ぜひ料理大会で披露しましょう」

「ほ、本当ですか!」

「もちろんです」

 エマさんの目が輝いた。

「タナカさんと一緒に、世界の料理大会出るっ!」

「はい」

「やっと私の夢が叶うっ!」

 彼女がぴょん、と椅子から跳び上がった。

 その嬉しそうな姿。

 俺も自然に、笑顔になった。

 料理人として、若い才能を応援できる瞬間。

 最高の瞬間だった。


 その時、シエラさんが厨房に入ってきた。

 彼女がエマさんを見て、わずかに目を丸くした。

「あの、エマさん?」

「あ、エルフのお姉さんっ!」

「シエラ・フェリオン、と申します」

「シエラさんっ! よろしく!」

 エマさんがぱぁっと、シエラさんに駆け寄った。

 シエラさんがわずかに戸惑った。

 ……ドワーフとエルフ、千年の対立。

 大丈夫、かな?

「エルフって、お料理するの?」

「ええ、しますわ」

「植物中心、なんでしょ?」

「そうですね」

「肉、食べないの?」

「食べますわよ。頻度、低いだけ」

「へえ、面白い!」

 エマさんが目を輝かせた。

「お料理、教えてもらえる?」

「もちろんですわ」

 シエラさんがふっと微笑んだ。

「私もドワーフ料理、興味あります」

「やったー!」

 二人がすぐに打ち解けた。

 ……あ、千年の対立、関係ない。

 料理人同士なら、すぐに繋がる。

 俺は感動した。

 料理は本当に、種族の壁を超える。

 その夢が目の前で、現実になっていた。

 俺は深く頷いた。

 料理大会への確信が、また一つ強くなった。


 午後。

 俺、エマさん、シエラさんで、一緒に料理を作った。

 鉱山牛のハーブ漬け焼き。

 地下キノコの煮込み。

 そして——シエラさんがエルフの薬草を使って、鉱山牛のソースを作ってくれた。

 ドワーフの肉料理に、エルフの薬草ソース。

 千年対立してきた二つの種族の料理が、初めて融合した。

 俺はそれを見守りながら、料理を進めた。

 完成した料理は——驚くほど深い味わいだった。

 肉の旨味と、ハーブの香り、薬草の爽やかさ。

 全部が調和していた。

 俺たちはお互いに、味見し合った。

 エマさんが目を輝かせた。

「エルフのソース、めちゃくちゃ美味しい!」

「ありがとう、エマさん」

「シエラさんも、ドワーフ肉合うっ!」

「ええ、新しい発見」

「これ、料理大会で出そうっ!」

「素晴らしい提案ですわ」

 二人が笑顔で頷き合った。

 俺はその光景を、深く心に刻んだ。

 ……これが料理大会の本質。

 料理を通じて、種族が繋がる。

 料理人として、こんな嬉しい瞬間はない。


 夕方。

 ドルガン様が厨房に現れた。

 ドルガンがエマとシエラさんが一緒に料理している姿を見て、驚いた。

「エマ、エルフと一緒に?」

「うん、お料理教えてもらってる!」

「……」

 ドルガンがしばらく沈黙した。

 千年の対立を知るドルガン。

 彼にとって、エルフとドワーフが料理を共にしている姿は——衝撃だっただろう。

 でも、彼の口から出てきたのは——

「……良い光景だ」

「おじいちゃん?」

「料理が繋ぐものは、戦争を超える」

「うん!」

 ドルガンが深く頷いた。

 彼の目には、わずかに涙が滲んでいた。

「田中殿」

「はい」

「これがお前の料理大会、なのか」

「ええ」

「全種族が料理を共にする場」

「はい」

「お前は本物の料理人だ」

「ありがとうございます」

 ドルガンが深く頭を下げた。

 ドワーフ族最年長長老の敬意。

 俺はそれを料理人として、最高の栄誉として受け止めた。

「明日、黒鉄の骨髄の処理、教える」

「お願いします」

「最高の料理を作ろう」

「もちろんです」

 ドルガンがニカッと笑った。

 料理人としての新しい章が、また一つ開いた。

 明日、黒鉄の骨髄に挑戦する。

それは第一歩だった。

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