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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第42話 鉱山の深層、命懸けの採取

 翌朝、夜明け前。

 俺たちは『鉄の都』の城門前に集まっていた。

 俺、ガリオさん、レイナ、カインさん、シエラさん、そしてドルガン長老。

 六人での採取の旅。

 ドルガンは長老とは思えない、戦闘装備を身に纏っていた。

 黒鉄の鎧。背中には巨大な戦斧。

 腰には火打石と、採取用の道具一式。

 ……長老、めちゃくちゃ強そう。

 俺は思わず感心した。

「ドルガン様、ご準備、ばっちりですね」

「ふん」

 ドルガンが鼻を鳴らした。

「ドラゴンの巣穴に行く。生半可な装備では死ぬ」

「あの、本当にドラゴンが」

「いる。鉄の山脈の最深部」

「巨大なドラゴン」

「鉄竜と呼ぶ。我らドワーフ族の宿敵」

「宿敵」

「ああ。千年戦い続けてきた」

 ドルガンの声は低く重かった。

 千年の戦い。それでも滅ぼしていない。

 ドラゴンの強さが、伝わってきた。

 ガリオさんが深く頷いた。

「鉄竜、Aランク冒険者でも十人がかりで挑む相手だ」

「十人がかり」

「俺、何度か遠目で見たことがある」

「強い、ですか」

「化け物だ」

 ガリオさんがはっきり言った。

「だが、心配するな」

「はい」

「ドルガン様が案内してくれるなら」

 ガリオさんがニカッと笑った。

「ドワーフ族最強の戦士、だぞ」

「え?」

 俺は思わず声を上げた。

「長老様、戦士、なんですか?」

「若い頃な」

 ドルガンがふっと笑った。

「ドワーフ族最強と呼ばれた時代があった」

「すごい」

「鉄竜、何度も退治してきた」

「……」

「だから、骨髄の採取、私だけができる」

 俺は深く頷いた。

 最強の戦士で、料理にも詳しい長老。

 ドワーフ族の頂点に立つ存在。

 料理人として、最大の敬意を払うべき相手だった。


 俺たちは鉄の都の地下、さらに深い坑道へと降りていった。

 坑道は徐々に暗くなっていった。

 壁の蛍光石も減っていく。

 代わりに、ドルガンが特殊なランプを点けてくれた。

 火打石の光。

 ドワーフ族の伝統的な灯り。

 炎がゆらゆらと、影を揺らしていた。

「田中、足元に気をつけろ」

「はい」

「鉄の山脈の坑道は、急斜面が多い」

「分かりました」

「滑落したら即死する」

「即死」

「鉄の山脈の底まで千メートル」

 ドルガンの声は淡々としていた。

 でも、その内容は恐ろしかった。

 俺は足元を慎重に確認しながら、進んだ。

 レイナが隣でささやいた。

「一郎」

「はい」

「危なくなったら、私を頼って」

「レイナさん」

「私、毒師ギルド時代、急襲任務でこういう場所、慣れてるから」

「頼もしいですね」

「うん」

 彼女がにっこり微笑んだ。

 その隣でシエラさんが、不安そうな顔をしていた。

「あの、私、こういう地下、初めて」

「シエラさん、大丈夫ですか」

「エルフ族、地上がメインなので」

「分かります」

「でも、頑張ります」

「はい」

 彼女が深く頷いた。

 料理大会のエルフ族代表。

 彼女の料理人としての覚悟が、伝わってきた。

 俺は彼女に優しく声をかけた。

「シエラさん、足元危ないので」

「はい」

「俺の後ろをついてきてください」

「あ……ありがとうございます」

「俺の足跡たどれば、安全です」

 彼女が頬を、わずかに赤らめた。

 ……あ、レイナさんの視線、痛い。

 俺は慌ててレイナを見た。

 レイナが半目で、俺を見ていた。

「一郎」

「はい」

「シエラを後ろに、ね?」

「はい」

「私、横でいいわよね?」

「もちろんです」

「ふふ、ありがとう」

 レイナが悪戯っぽく笑った。

 ……ヒロインの火花、健在。

 でも、危険な場所では配置を考えないと。

 俺は深くため息をついた。


 坑道を二時間、降り続けた。

 空気が徐々に湿って、温かくなった。

 ……地熱?

 地球の火山地帯と似た空気だった。

 ドルガンが足を止めた。

「皆、ここで休憩」

「はい」

「あと半日で鉄竜の巣穴」

「半日」

「巣穴に近づくと、空気が毒になる」

「毒、ですか」

「ドラゴンの息」

 ドルガンの声が低くなった。

「人間だと、即死する」

「!」

「だから、巣穴に入る前に解毒の薬を飲む」

「ドルガン様も、ですか?」

「ドワーフ族は生まれつき、毒に強い」

「すごいですね」

「だが、保険として薬を用意する」

 ドルガンが小さな瓶を、配ってくれた。

 中には緑色の液体。

 【鑑定】が走った。


【ドワーフ族・解毒薬】

 効果:ドラゴンの毒に対する、半日間の耐性

 備考:千年の研究で、開発された薬。

    ドワーフ族外秘の、レシピ。


 ……すごい。千年の研究の結晶。

 俺はドルガンに深く頭を下げた。

「ありがとうございます、ドルガン様」

「ふん」

「これ、外部に漏らさないと約束します」

「もちろんだ」

「料理人として、誓います」

 俺の言葉に、ドルガンがわずかに目を開いた。

「お前、信用できる男だな」

「ありがとうございます」

「料理人として、信頼を築くのが俺の流儀です」

「面白い考えだ」

 ドルガンがふっと笑った。

 料理人としての信頼が、また一つ積み上がった。


 休憩後、さらに半日、坑道を降りた。

 徐々に、奇妙な音が聞こえてくるようになった。

 ゴロゴロ、と低い地響きのような音。

 ……ドラゴンの寝息。

 俺の心臓が跳ねた。

 ドルガンが足を止めた。

「ここからが危険地帯」

「はい」

「全員、解毒薬を飲め」

 俺たちは瓶の薬を、一気に飲んだ。

 苦い。本当に苦い。

 でも効果はすぐに現れた。

 体が温かくなり、毒に対する防御感が湧いてきた。

「いいか」

 ドルガンが低い声で指示した。

「鉄竜は、巣穴の最深部で寝ている」

「はい」

「私が鉄竜を引き付ける」

「!」

「その間、お前たちは骨髄の採取場所まで行く」

「ドルガン様、お一人で、ですか?」

「私、専用の戦法がある」

「……」

「ガリオは、お前たちの護衛」

「了解です」

 ガリオさんが深く頷いた。

「採取場所は、巣穴の入り口付近」

「はい」

「鉄竜が抜け落とした骨髄、いくつかある」

「分かりました」

「採取は手早く」

「もちろんです」

「鉄竜を引き付けるの、長時間できない」

 ドルガンの声には、緊張が滲んでいた。

 俺は深く頭を下げた。

「お任せください」

「うむ」

 ドルガンが戦斧を握り直した。

 彼の目が、若々しく光っていた。

 戦士の目。

 長老ではなく、戦士の姿だった。


 坑道の最終曲がり角を、抜けた。

 その先に、巨大な空間が広がっていた。

 天井は高く、見上げると首が痛くなるほど。

 空間の中央に——巨大な岩のような塊が、横たわっていた。

 いや、岩じゃない。

 黒鉄の鱗に覆われた、巨大な生物。

 ……鉄竜。

 体長五十メートル以上。

 翼を折り畳んで寝ていた。

 でも、その寝息だけで坑道の空気が震えていた。

 【鑑定】が走った。


【鉄竜・最強種】

 体長:52メートル/重さ:80トン

 戦闘力:S+級(人間スケールでは、計測不能)

 備考:千年生きる、鉱山の主。

    毒の息を、吐く。鱗は、最高級の、鉄。

    骨髄に、超高純度の、栄養素を、含む。


 ……S+級。規格外すぎる。

 ドルガンが深く頷いた。

「行くぞ」

「はい」

「私が引き付ける間に、骨髄を採取しろ」

 ドルガンが戦斧を構えて、岩陰から踏み出した。

 ドワーフ族最強の戦士の、戦闘準備。

 俺たちは岩陰で、息を潜めた。

 ドルガンが巨大な声で叫んだ。

「鉄竜よ! 久しぶりだな、貴様の目を覚ます日だ!」

 ……。

 ドラゴンが目を開けた。

 黄金色の瞳が、鋭く光った。

 鉄竜の巨大な頭が、ゆっくりと起き上がった。

 ……始まる。

 料理人として、最も命懸けの採取。

 俺は息を呑みながら、その光景を見ていた。

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