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廃業料理人、異世界の『毒』を喰らう ~『鑑定』スキルで気付いたら、この世界の食材ぜんぶ俺のご馳走でした~  作者: 生クリーム王子


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第40話 エルフ族の継承儀式、伝説の種子

 エルフ族との交流から、三日が過ぎた。

 俺たちは世界樹の客室で滞在を続けていた。

 毎日、エルフ族の料理人たちと、交流の時間を持った。

 俺がエルフ族に、人間料理の技法を教える。

 エルフ族が俺に、植物を扱う知識を教える。

 お互いに学び合う毎日。

 料理人として、これ以上の幸せはなかった。

 シエラさんは俺の隣で、いつも熱心に学んでいた。

 彼女のメモには、料理のコツがびっしり書き込まれていた。

 ……すごい勉強熱心。

 料理大会への本気度が、伝わってきた。


 四日目の朝。

 最年長の長老が、俺たちを呼んだ。

 また、長老会議の広間。

 でも、雰囲気は前回とは違っていた。

 穏やかで、温かい空気。

 長老たちが笑顔で迎えてくれた。

「田中殿、お入りください」

「はい」

 最年長の長老が優しく微笑んだ。

「実はお渡ししたいものがあります」

「お渡し、ですか」

「エルフ族の伝説の宝物」

「……え?」

 長老が奥から、小さな箱を持ってきた。

 黒檀でできた、美しい箱。

 彼がそれを慎重に開けた。

 中には——金色の種子が一粒、入っていた。

 ……金色の種子。

 【鑑定】が勝手に走った。


【世界樹の種子】

 樹齢ポテンシャル:10,000年

 備考:エルフ族の最高の宝物。1万年に1度しか実らない。

    育て方を知る者は、エルフ族の長老のみ。

    歴史上、エルフ族以外に譲渡された記録なし。


 ……世界樹の種子。1万年に1度。

 しかも、エルフ族以外に譲渡された記録なし。

 俺は息を呑んだ。

 最年長の長老が深く頷いた。

「田中殿にお渡しします」

「!」

「ぼ、僕にですか?」

「ええ」

 長老が優しく笑った。

「これは田中殿の、料理大会の最終料理の素材として」

「素材、ですか」

「世界樹の種子は、適切に処理すれば最高級の生命力を持つ食材になります」

「……」

「料理人として、これ以上の素材はないと思います」

 俺は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「ですが、条件がある」

「条件、ですか」

「種子を扱える人は、エルフ族の血を引く者だけ」

「……」

「だから、シエラをベラ亭に預ける」

「シエラさん、ですか」

「ええ」

 長老がシエラさんを見た。

 シエラさんが深く頷いた。

「私、田中殿のもとで、種子の扱い方を伝えます」

「シエラさん」

「料理大会の日までずっと、田中殿と一緒に修行します」

「……」

「エルフ族の誇りを賭けて」

 彼女の目は、強い決意に燃えていた。

 俺はレイナを見た。

 レイナが肩をすくめた。

「分かったわ」

「レイナさん」

「シエラ、私の後輩として迎える」

「!」

「ベラ亭で料理人として育てる」

「ありがとうございます、レイナさん」

 シエラさんが深く頭を下げた。

 レイナがふっと微笑んだ。

「ただし、後輩としての礼儀は守ること」

「もちろんです」

「分かったなら、よろしい」

 二人の女性が握手を交わした。

 ……微妙な火花は、まだ残っているけど。

 でも表面上は、和解している。

 俺はホッと息を吐いた。


 長老が俺に、種子を丁寧に渡してくれた。

「田中殿」

「はい」

「この種子の料理、絶対成功させてください」

「もちろんです」

「世界料理大会で披露する」

「はい」

「全種族が、エルフ族の宝を味わう」

「……」

「種族の壁を超える瞬間に」

 長老の目には、強い希望が宿っていた。

 千年、エルフ族と人間は距離を置いてきた。

 その壁が料理で溶け始めた、その瞬間。

 俺は料理人として、最高の責任を感じた。

「長老様」

「うむ」

「種子、必ず最高の料理にします」

「期待している」

「料理大会、エルフ族の誇りも、人間界の誇りも——」

「……」

「両方、輝かせてみせます」

 長老が深く頷いた。

 他の長老たちも笑顔で頷いた。

 エルフの里での、最高の瞬間だった。


 その日の夕方。

 俺たちはエルフの里を出発することになった。シエラさんを連れて。

 長老たち全員が、世界樹の根元まで見送りに来てくれた。

 最年長の長老が深く頭を下げた。

「田中殿、無事のご帰還を祈っています」

「ありがとうございます」

「世界樹の加護が、あなたにありますように」

「光栄です」

 俺は深く頭を下げた。

 シエラさんも長老たちに、別れを告げた。

「皆様、行ってまいります」

「シエラよ」

「はい」

「お前はエルフ族の誇り」

「……」

「人間界でエルフ族の料理文化を、広めてくれ」

「もちろんです」

 シエラさんの目に、涙がにじんだ。

 でも彼女は、笑顔で頷いた。

 料理人として、新しい人生の第一歩。

 彼女の覚悟が伝わってきた。


 俺たちはシエラさんの自然魔法で、ベラ亭の前に転移した。

 オルバの街の夕焼けに照らされたベラ亭。

 看板が優しく輝いていた。

『ベラ亭 王家公認 〜田中一郎の厨房〜』

 ……ただいま。

 俺は深く息を吸った。

 ベラ亭の扉を開けると——ベラさんがホールから駆け出してきた。

「田中さーんっ!」

「ベラさん、ただいま!」

「うわぁぁぁぁぁ、また無事でぇぇぇぇ!」

 今日も号泣全開だった。

 でも、嬉しい号泣。

 ベラ亭の温かさは変わらない。

 俺はシエラさんを紹介した。

「ベラさん、こちらシエラさんです」

「はじめまして」

「は、はじめまして……」

 ベラさんがシエラさんの姿を見て、固まった。

「あ、あの、エルフ……?」

「はい、エルフ族のシエラ・フェリオンと申します」

「し、シエラさん!」

「お世話になります」

 シエラさんが優雅に頭を下げた。

 ベラさんが興奮した声で叫んだ。

「ま、また、すごいお客様がぁぁぁ!」

「ベラさん、お客様じゃなくて、新しい料理人です」

「えっ!?」

「シエラさん、しばらくベラ亭で修行します」

「料理大会まで、ですけど」

「うわぁぁぁ、エルフが料理人!?」

 ベラさんがまた、号泣しそうになった。

 でもすぐに、笑顔に戻った。

「うふふ、ベラ亭、本当に不思議なお店になりますねぇ」

「ですね」

「私、頑張ってシエラさんに料理、教えますっ!」

「ベラさん、ホールの技術をお願いします」

「もちろんですっ!」

 ベラさんが力強く頷いた。

 シエラさんが優しく微笑んだ。

「よろしくお願いします、ベラ夫人」

「ベラ、でいいですよぉ」

「では、ベラさん」

「うふふ」

 二人がすぐに打ち解けた。

 ……ベラさん、誰とでもすぐ仲良くなる。

 料理人として、ありがたい女将だった。


 その夜。

 俺はレイナとシエラさんと、ベラ亭の奥の食堂で夕食を囲んでいた。

 ガリオさん、カインさんも一緒。

 久しぶりのベラ亭の夕食。懐かしい味だった。

 ベラさんがシエラさんに、いろいろ話しかけていた。

「シエラさん、エルフ族って、お肉食べるんですか?」

「ええ、食べます。でも頻度は低いです」

「植物中心、ですか」

「ええ、自然との調和が、私たちの文化なので」

「素敵ですねぇ」

 ベラさんが感心しながら頷いた。

「あ、シエラさん、ベラ亭の玉ねぎスープ、食べたことないですよね」

「はい、初めてです」

「私が作りますね!」

 ベラさんが急いで、厨房に向かった。

 シエラさんが目を丸くした。

「あの、ベラさんが自分で作るんですか」

「ええ」

「ベラさんはベラ亭の、最初の料理人ですよ」

「そうなんですね」

「素敵なおかみさん」

「ですね」

 俺は笑顔で頷いた。

 しばらくして——ベラさんが玉ねぎスープを持って戻ってきた。

 シエラさんが緊張した面持ちで、味見した。

 一口。彼女の目が見開かれた。

「……これ」

「ベラさん?」

「優しい味」

「ありがとうございますぅぅぅ」

「エルフ族の料理にも似た、優しさがあります」

「ええ」

「人と自然の温もり、両方感じます」

「うわぁぁぁぁ、嬉しい!」

 ベラさんがまた、号泣し始めた。

 いつもの嬉しい号泣。

 シエラさんが優しく微笑んでいた。

 ……ベラさんとシエラさん、料理を通じてすぐ絆ができた。

 料理人として、最高の瞬間。

 俺は深く息を吐いた。


 夜が更けた頃。

 俺はガリオさんと、ベラ亭の屋根の上にいた。

 ガリオさんがワインを飲みながら、ぼそっと呟いた。

「田中」

「はい」

「次はドワーフ族か」

「はい」

「俺、ドワーフ族の文化、結構詳しいぞ」

「ガリオさん、頼もしい」

「酒と肉と鍛冶の種族」

「……」

「料理人としては、燃える相手だ」

 ガリオさんがニカッと笑った。

「鉱山の深い洞窟に住んでる」

「はい」

「行くなら、リリスさんの転移魔法は使えないかもな」

「え?」

「ドワーフ族の領地は、強い結界がある」

「結界、ですか」

「外部からの転移を拒む結界」

「……」

「だから、馬車で行くしかない」

「分かりました」

 俺は深く頷いた。

 ドワーフ族との出会い。

 また新しい種族との料理交流。

 料理人としてワクワクしていた。

「ガリオさん、いつ出発しますか」

「準備、整い次第」

「シエラさんも、慣れてからがいいですね」

「そうだな」

「一週間後くらい?」

「ちょうどいい」

 俺たちは計画を固めていた。

 月明かりが優しく、ベラ亭を照らしていた。

 本格的な旅が——明日も続く。

 料理人としての世界が、また広がる。

 俺は深く息を吸った。

 明日も最高の料理を作ろう。

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