アフターストーリー そして執筆はつづく
クララとオスカーの結婚式から数ヶ月が経ち、王都の貴族街では書店が賑わいを見せていた。
「さあさあ皆様お待ちかね! クラヴィス・クラインの新作がいよいよ発売だよ!」
書店の一番目立つ場所で山積みとなっているのは、カラフルな表紙の絵本。
そばに貼られたポスターには、『アンソニー王子への献上作品!』と大々的に書かれている。
「新作が出たのね! ……『おやすみの前の万華鏡』ですって。なんだか気になる題名ね」
「お母さまぁ! わたしこのご本がほしい!」
「どれ、息子に一冊買っていこうじゃないか」
貴族たちは次々に、その絵本を手に取っていく。
今やクラヴィス・クラインは、貴族の間でも自然と話題になる作家となっていた。
*
「ついにこの日が来たな……」
「ええ」
絵本の発売日。
私とオスカー様は、温室のベンチに並んで座っていた。
私たちの目の前には、真新しい絵本。
「律儀に発売日を待たなくとも、著者用見本がありますのに」
「いち読者としては、やはり発売日に自分で入手したものを味わいたいものなのだよ」
「ありがとうございます」
温かな湯気がたつカップを手に取りながら、表紙をめくるオスカー様を見守る。
叙勲されたあと、王妃殿下から正式に絵本の執筆を依頼されたのだ。
子ども向けの作品を書くのは久しぶりだったが、話を考えるうちにどんどんアイデアが膨らんでいって、心から執筆することを楽しめた。
「絵が色とりどりで目に楽しいな」
「はい。お義父様からご紹介いただいた画家の方が、とても良い挿絵を仕上げてくださいましたの」
今回、挿絵には駆け出しの若手画家を起用した。
我が国の芸術をさらに盛り上げるため、若い芽を育てる試みだ。
これをお義父様に提案したところ、お義父様も張り切って協力してくださった。
「良いセンスだ。万華鏡のタイトルに相応しい絵だな」
「そうでしょう? 私もとても気に入っているんです」
ページを進めながら、オスカー様がゆっくりと息をつく。
「しかし、こうして読んでいると実感するが……環境が変わると、感想も変わるものだな」
「……と、言いますと」
「……以前は、貴方の絵本を読んでも、ただ内容を楽しむだけだったんだ」
オスカー様は視線をあげると、まっすぐに私を見つめる。
「今は……いつか子どもができたら、これを読み聞かせてあげたいと……そういう願望が湧くようになってしまったな」
照れくさそうなその表情に、思わず彼を抱きしめてしまいそうになる。
オスカー様の手が私の頬に触れて、その距離が縮まる。
「クララ……」
「オスカー様……」
触れるだけの温もりが、唇に訪れた。
幸せで、胸がいっぱいになる。
私はカップをそっと握ると、オスカー様にある秘密を、打ち明けた。
「その願い、遠くないうちに、叶うと思いますよ」
「え……?」
不思議そうに首を傾げる彼に、思わず笑みが溢れてしまう。
カップの中のルイボスティーは、静かに湯気を立てていた。
「この間、お医者様に診ていただいたのです。そしたら……」
そっと手を腹部にあてる。
それだけで——オスカー様には伝わったようだ。
「……本当、なのか……?」
「はい。……次の春には、会えるそうです」
「ああ、クララ……!」
その瞬間、オスカー様の強い腕に抱かれていた。
慌てて手探りで、カップをテーブルにあげる。
「夢みたいだ……! 貴方と私の子どもが生まれるだなんて……!」
オスカー様の表情は見えないが、声色だけでどれだけ喜んでくれているかが伝わってくる。
本当は、今日話すつもりではなかったけれど……先ほどの感想を聞いたら、話さずにはいられなかった。
「クララ……貴方と出会ってから、ずっと貴方に幸せをもらっている。……私と出会ってくれてありがとう。私もクララのことを……幸せにしていきたい」
目頭が熱くなる。
こんな言葉をいただけるなんて……私はきっと、世界一の幸せ者だろう。
「私こそ、ありがとうございます……! 貴方が私を見つけてくれて、本当に良かった……」
あの日、契約結婚をしなかったら——この未来は訪れなかった。
数多いる令嬢の中から私に手を伸ばしてくれたことが、たまらなく嬉しい。
「これからも、みんなで——幸せになりましょう」
私たちの物語は、これからも続いていく。
最後の一行まで、目が離せない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これにて、『契約結婚した旦那様は、私の作品の熱烈なファンでした~貴方が毎日褒めるその覆面作家、正体は私です~』は、全編完結となります。
ここまでお付き合いくださった皆様に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました!
また、現在は次回作も鋭意執筆中です!
次回は、短めの異世界恋愛作品を予定しております。
「小賢しい女はいらない」と婚約破棄された令嬢。そんな彼女を救ったのは――。
「あら。ならアタシが、彼女を奪ってもいいのね?」
謎のオネエな貴公子でした!?
トキメキあり、ざまぁありのラブコメディをお届けする予定です!
投稿日が決まりましたら、改めて活動報告にてお知らせいたします。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
また次回作でもお会いできたら嬉しいです!




