25.契約結婚の向こうから愛は来る
叙勲式から半年、リューベルト領——。
街はいつになく、活気で満ち溢れている。
「この街もすっかり、本の街になったなぁ」
「これも若奥様のおかげだ」
建設中の図書館の前で市民たちがにこやかに会話をしている。
その近くの広場では、古本市が賑わいを見せていた。
「聞いたか? 王都で『水平線の向こうから朝は来る』の舞台が上演されるらしいぞ!」
「本当か!? ここにも興行に来てくれねえかなあ」
「大丈夫だろ。なんていったってクラヴィスはリューベルト家の若奥様だ! この街には必ず来るさ!」
「たしかに! あー、楽しみだなぁ!」
*
人々が楽しげに過ごす様子を、私はリューベルト本邸から眺めていた。
お義父さまの政策で、リューベルト領は少しずつ文化流行の発信地となってきている。
眼下に広がる大規模な古本市は、既に国内外から注目が集まっている。
今日は、私がリューベルト領でお披露目される日——結婚式当日だ。
窓に反射している私の姿はというと、レースがふんだんに施された上品なウェディングドレスを身に纏っている。
嫁いでからというものの、慌ただしいことばかりで——この日が来るまで、あっという間だったような気がする。
「クララ」
背後からの声。
振り返ると、新郎の衣装を身に纏ったオスカー様がいた。
「なにを見ているんだ?」
「街の様子を眺めておりました」
「そうか。リューベルト領も、王都とはまた違った良さがあるだろう?」
「ええ! こうして眺めているだけでも、創作意欲が湧いてきます!」
「そうか……こうしてクラヴィス先生が作品の構想を練っているところが見られるとは、私は世界一幸せなファンだ……!」
「まあ!」
大袈裟に言うオスカー様に、思わず声を上げる。
私は抗議するように、オスカー様に近づいてしなだれかかった。
「喜んでくださるのは嬉しいですけれど……今の私は、貴方の妻ですのよ?」
「……もちろん、心得ているよ。私の愛しいクララ」
先ほどの大袈裟な反応とは打って変わって、蜂蜜のような甘い視線が降り注ぐ。
結婚してから約1年。私はすっかり、オスカー様の甘い愛情に浸ってしまっている。
このまま二人だけの時間になるかと思ったが——。
壁際の大きな時計が、正午を告げた。
「……時間だな。行こうか、クララ」
「ええ。オスカー様」
オスカー様の優しい体温が、そっと離れていく。
名残惜しいが、この続きはまた夜になるだろう。
——契約結婚をした当初は、こんな未来が待っているだなんて夢にも思わなかった。
私とオスカー様の結婚は、物語よりも物語らしい。
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
結婚前の私がこの未来を知ったら、目を丸くして冗談だと思うだろう。
隣にいるオスカー様を見上げる。
私の大切な夫で、私の大切な読者。
私とオスカー様を繋ぐ糸は、複雑に絡みあって切れることはないだろう。
ゆくゆくは、私とオスカー様の二人で——。
誰もが好きなものを好きと言えるように。
この国が、楽しい物語で溢れる国になるように。
「オスカー様」
「なんだ?」
「……大好きです」
「……私も。貴方のことが大好きだ」
私はクラヴィス・クライン。
人々に楽しいひとときを届けるため、書くことをやめない娯楽小説家だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これにて、『契約結婚した旦那様は、私の作品の熱烈なファンでした~貴方が毎日褒めるその覆面作家、正体は私です~』は本編完結となります。
皆様のブックマークやリアクションに励まされて、完結まで執筆することができました。
今までお読みくださった皆様、本当にありがとうございました!
二人のその後を描いたアフターストーリーを更新予定です!
こちらは9/30、20時更新予定です!
もう少しだけ、クララとオスカーの二人にお付き合いいただけましたら幸いです!




