10話
「~♪~♪~♪」
誰かの鼻歌が聞こえる。
ルイスが目を開けると見覚えのない部屋の中だった。
さっきまでは、屋外、と言っていいかは微妙だが、世界樹の下にいた。少なくとも、十歩も歩けば壁に阻まれるような狭い部屋ではなかった。
気を失っている間に、どういう訳か移動していたらしい。
その部屋は、淡いピンクや花柄のものが多く、女の子らしい部屋だ。
初めて見る部屋のはずだが、何処か懐かしい。とても居心地が良かった。
ルイスは、どうやら寝台の上に腰掛けているようだ。
硬くなく、程よい反発のある寝台は安いものではないだろう。
部屋の大きさから、貧しいのだろうかとも思ったが、そうではないらしい。むしろ、目に映るもののどれもチープな感じはしないし、見慣れないものがいくつもある。
そして、ルイスの目の前には、先程から聞こえてくる鼻歌の主らしき少女の後ろ姿があった。
華奢な背中に、茶色の柔らかそうな髪が肩に掛かっていて、彼女が動く度にふわりと動く。
その少女は、絨毯の上に直に座って何やら作業をしているようだ。その割りには、手元を見ようともせずに前を真っ直ぐ見つめていた。
声を掛けようと口を開こうと思ったのだが、出来なかった。
どうやらこの体、瞬き一つでさえもルイスの意志では出来ないようなのだ。
まるで、他人の体に意識だけ入っているような、そんな感覚だった。
(何なんだよ一体!つか、精霊神何処行った!?)
「よっしゃあぁああああ!ソルのトゥルーエンドスチルゲットだぜっ!!」
動揺するルイスに追い討ちをかけるかのように、目の前の少女が、突然叫びながら拳を突き上げた。
内心ドキッとするが、この体はビクッともしない。
それどころか、ルイスの意志とは関係なく、口を開いた。
「ハナ、五月蝿いよ」
ルイスの声とは似ても似つかない。
少女の声だった。
(えっ?えっ?えっ?どういう事!?)
益々焦りが募ってくる。
そんなルイスにはお構い無しで、「ハナ」と呼ばれた少女は振り返った。
ぱっちりとした栗色の目は、キラキラと輝いていて、ルイスは得も言われぬ既視感に襲われた。
(知ってる…)
「いいじゃん、いいじゃん。それより、ルイもやってみる?楽しいよ?」
(俺は、この子を知ってる…)
「私はいいよ。遠慮しとく」
再びルイスの意志を無視して口が勝手に開く。
けれども、今度は何故なのかをルイスは理解していた。
(俺は…私は、この子を知っていた)
これは、今のルイスでは干渉できるはずもないものだ。
これは、過去…どころか、前世で実際にあったことなのだから……