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辺境の村

 橋の板が、鳴った。


 足をのせるたびに、くぐもった音が川面に落ちた。石橋なら三十歩で渡れる川幅だった——でもここは木板を組んだ橋で、一歩踏むごとに足の裏に弾力があった。


 王都では聞いたことのない音だった。


 橋の中ほどで、ルイーゼは一度止まった。


 川が流れていた。浅かった。底の石が見えた。流れの音はずっと聞こえていたのかもしれないが、今初めてそれが耳に届いた。


 橋の向こうが、リムノだった。


 遠目には小さかった。石積みの家が十数棟、耕された畑、共同の井戸らしき屋根が一つ。それだけだった。


 足を踏み出した。板が鳴った。




 橋を渡ると、道が変わった。


 石畳ではなかった。土だった。踏み固められているが、石ではない。靴底から、柔らかいと言えるほどではないが、固くもない感触が伝わってきた。七年間、石畳の上しか歩かなかった足には、少し戸惑う感触だった。


 土の匂いがした。


 草と腐葉土ふようどと、どこかで薪を燃やしている煙が混ざった匂い。王都の街路にはない匂いだった。市場にも、宮廷の廊下にも、この種の匂いは届かなかった。


 村の入り口には柵があった。柵というより目印に近いもので、ただの丸太を二本渡しただけだった。それをまたいで中に入ると、鶏が二羽、のんびりと道を横切った。


 驚いた。七年間、王都の広間で金細工の燭台の前に立ち続けた自分が、鶏に驚いていた。


 ルイーゼは少し立ち止まって、鶏の後ろ姿を見た。


 近くで子供が走っていた。五歳か六歳、転びそうな勢いで駆けてきて、ルイーゼの前で急に止まった。


「だれ?」と子供は言った。


「旅の者です」とルイーゼは答えた。


「ふうん」と子供は言って、また走っていった。


 それだけだった。この村では、旅人が来ることは別に珍しくないのかもしれなかった。




「村長のヘンリクさんを探しているのですが」


 畑仕事をしていた中年の女性が、くわを置いた。


「ヘンリクか。あの家だよ」と彼女は言った。村の一番奥を指差した。「いつもそこにいる」


「ありがとうございます」


「旅の人かい?」


「はい」


「どこから」


「王都から」


 女性は少し目を丸くした。それから「ほう」とだけ言って、また鍬を手に取った。それ以上は聞かなかった。




 教えられた家は、村の端にあった。


 石積みの壁に、木の扉。扉の脇に薪が積んであった。丁寧に、きれいに。雨よけの板が斜めに立てかけてある。人の手が届いている場所だと、一目でわかった。


 ルイーゼはノックした。


 しばらくして、扉が開いた。


 七十がらみの老人が立っていた。背は少し曲がっていた。手が大きかった。しかし目が、しっかりしていた。値踏みするような目ではなかった。ただ、ちゃんと見ている、という目だった。


「村長のヘンリクさんですか」とルイーゼは言った。


「そうだが」と老人は答えた。「何かね」


「門番の兵士から、あなたに声をかければと教えていただきました。王都を発った際に」


「……王都の門番が」とヘンリクは言った。眉をかすかに動かした。「そうかい。遠いところからだな。一人かい」


「はい」


「荷物はそれだけか」


 ルイーゼは肩の鞄を見た。革が白く浮いた、七年前から使っている鞄だった。


「そうです」


 ヘンリクは少し考えるような間を置いた。


「中に入りなさい」




 家の中は、ものが少なかった。


 食卓に椅子が二脚。壁際に棚。棚に陶器が数点、並んでいた。窓が一つ、西向きで、午後の光が斜めに入っていた。


「座って」とヘンリクは言った。「茶を入れる」


「恐れ入ります」


「遠慮しなくていい。あなたが疲れているのは見ればわかる」


 ルイーゼは椅子に座った。


 背もたれに体を預けた。それだけのことが、少し奇妙だった。七年間、椅子に深く座ったことがなかった。いつも背筋を伸ばして端に腰かけていた。次の用事が来たとき、すぐ立てるように。


 ヘンリクが鉄の鍋を炉に掛けた。薪がはぜる音がした。


「長い道だったか」と彼は背を向けたまま言った。


「三日ほどかかりました」


「足はどうだ」


「問題ありません」


「靴底を見せてみろ」


 ルイーゼは少し戸惑ったが、靴を脱いで裏を向けた。ヘンリクは振り向かずに「見なくていい、自分で確認しろ」と言った。


 靴底を見た。縫い目が一部ほつれていた。


「……少し、傷んでいます」


「そうだろうな。三日歩いてその靴なら」とヘンリクは言った。「直してやれる者がいる」


 問わなかった。なぜ王都から一人で来たのか、事情は何か、何があったのか——聞かなかった。農夫が「訳ありでも、まあ何とかしてくれる人だ」と言っていたが、それはこういうことか、とルイーゼは思った。


 茶が注がれた。陶器のカップに、せんじ薬草の薄い褐色。


「ありがとうございます」


「礼はいい」とヘンリクは向かいに座った。「それで、何日いるつもりだ」


「……しばらく、この村に身を置けるところを探しているのです」とルイーゼは言った。「仕事ができれば、仕事も」


「何ができる」


「外交文書の代筆と」と言いかけて、止まった。「……薬草は少し。農業の知識も、基礎だけなら。あとは計算と文字の読み書き」


「文字が読めるのか」


「はい」


「書けるか」


「はい」


 ヘンリクはカップを持ったまま、しばらく考えた。


「この村に、文字の読める者は五人しかいない。村の台帳の整理をしてくれる者を探していた。できるか」


「やれます」


「報酬は食事と屋根だ。しばらくはそれしか出せないが」


 鞄の底に、金貨が二枚あった。それで足りなければ、次を考えればいい。


「十分です」


 ヘンリクは静かに頷いた。


 窓から入る光が、少し傾いていた。薪のはぜる音と、遠くで鶏の声。


「では」とヘンリクは言った。


 カップを置いた。ルイーゼを見た。七年間、「補佐役様」として見られてきた目ではなかった。何かを求める目ではなかった。ただ、問う目だった。


「名前は、何というか」


 ルイーゼは止まった。


 七年間。「補佐役様」と呼ばれた。「補佐役」と呼ばれた。「道具」と言われた。自分の名前を、自分の名前として、誰かに向けて口にしたことが——一度もなかった。


 名前は、あった。


 ルイーゼ、という。


 七年間、その音は自分の中にあった。ただ——誰かに向けて差し出したことがなかった。「補佐役様」と呼ばれているうちは、名前はただの情報だった。生まれたときに付けられた記号だった。


 でも今、ヘンリクが聞いた。


 情報としてではなく、問いとして。


 口の中で、その音を転がした。ルイーゼ。ルイーゼ。——声に、なりそうだった。



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