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初めての対話

 石臼が、今日は冷たいままだった。


 ヤヌシュの最後の診を終えて小屋に戻ったのは、日が山の向こうに落ちる少し前だった。籠を棚に置いた。手を洗った。いつも診の後にする仕込みを始めようと石臼に手を触れて——そのまま、止まった。止めたのではなかった。触れた、その冷たさがそのまま指に残って、次の動作が出なかった。


 今日、エドワードが来る。




 診は午前から始まっていた。


 ヤヌシュの熱は落ち着いていた。喉の腫れが引いていた。処方を止める頃合いだった。ルイーゼは回復の経過を確かめながら、ミナに薬草の煎じ方の最後の説明をした。三日分だけ残す。その後は食事を増やして様子を見ればいい。ヤヌシュが「もう飲まなくていいの」と聞いたので「もうすぐ卒業です」と答えた。子供は「卒業」という言葉が気に入ったらしく、二度繰り返した。


 その言葉を聞きながら、ルイーゼは手の中の薬包を折り直した。


 指が仕事を進めていた。ヤヌシュの顔が今日は明るかった。ミナが礼を言った。ルイーゼは「よかった」と一言だけ言った。「よかった」という言葉が、今日は確かに自分のものだった。七年間、王都で何かが終わるたびに使ってきた「よかった」とは違う言葉だった——感情ではなく作業の報告のための「よかった」ではなかった。今日のヤヌシュの顔を見て、出た言葉だった。


 その感触が指の節に残っていた。小屋に戻った後も。




 ヘンリクが来たのは、日が傾き始めた頃だった。


 二度の戸叩きで分かった。入ってもらった。椅子を引いたヘンリクは、少しの間何も言わなかった。ルイーゼも言わなかった。外から風の音がした。薄い風だった。冬の末の風だった。


「ヤヌシュは」とヘンリクが言った。


「回復しています。三日で薬が切れます。その後は経過だけ見れば大丈夫です」


「そうか」


 また少し沈黙があった。


「今日は準備はいいか」とヘンリクは言った。「あの人間を、ここに連れてくる」


「はい」とルイーゼは言った。


「何か言っておきたいことはあるか」とヘンリクは言った。


「いいえ」


「向こうが何を言っても、嫌ならそう言っていい。それだけ言っておく」


「分かりました」


 ヘンリクは一度だけ彼女を見た。何かを確かめるような目だった。何かを問う目ではなかった。確かめたらそれでよかった。


「一緒にいていいか」と彼は言った。「途中で席を外すかもしれんが、最初は同席させてくれ」


「ありがとうございます」


「礼はいらない」とヘンリクは言った。「村の仕事の続きだ」


 立ち上がった。扉に向かいながら、一度振り返った。「今日は石臼を触らなかったな」


「……後でやります」


「そうか」


 それだけで出ていった。




 小屋を片付けなかった。


 片付けようと思った——一度だけ思った。しかし手が動かなかった。動かない、というより、動かす理由が見つからなかった。棚には今日の薬草の仕込み途中のものがあった。道具がいくつか出たままになっていた。籠があった。記録帳が開いたままだった。


 これが、ここの仕事だった。


 この小屋の中にあるものが、今のルイーゼのすべてだった。片付けて見えなくするものは、何もなかった。


 窓の外の光が橙色に変わり始めた頃、足音がした。


 一人ではなかった。二人分の足音だった。一方はヘンリクのものだった——歩幅を知っていた。もう一方は、石畳に硬い靴底が当たる音だった。村の靴ではなかった。王都の靴だった。昨日の朝、薬草採りの場所で遠ざかっていった音と同じ種類の音だった。


 戸が叩かれた。二度だった。ヘンリクの叩き方だった。


「入ってください」




 扉が開いた。


 ヘンリクが先に入った。いつもの椅子のそばに立って、後ろに場所を空けた。エドワードが入ってきた。


 背が高かった。小屋の天井が低いので、入ってきた瞬間に少し頭を下げた。立つと部屋の中の空気が変わった——変わった、というより、部屋の体積が少し小さくなったような感覚があった。七年間、毎日廊下で感じていた気配の重さが、今は二歩の距離にあった。


 ルイーゼは棚の前に立ったまま、振り返った。


 エドワードが立っていた。旅用の上着を着ていた。金茶色の髪に、旅の埃がわずかについていた。琥珀色の目が、ルイーゼをまっすぐに見ていた。


 何も言わなかった。


 「久しぶりだ」とは言わなかった。言う必要がない、とルイーゼは感じた。二人とも感じていた——七年間が間にあることを、どちらも知っていた。それを声に出す必要はなかった。


 ヘンリクが椅子を引く音がした。腰を下ろした。


 エドワードは部屋を一度だけ見た。棚の薬草。出たままの道具。開いたままの記録帳。視線がそれぞれのものの上を通り過ぎていった。


「座っていただいて構いません」とルイーゼは言った。壁際にもう一脚の椅子があった。


「いや」とエドワードは言った。「立っていられる」


「お茶を」とルイーゼは言いかけた。


「要らない」とエドワードは言った。「時間を取らせたくない」


 ルイーゼは何も言わなかった。時間は取られても構わなかった——しかしそれを言う必要はなかった。


 短い声だった。押しつけがましくなかった。拒絶でもなかった。ただ——立って話す、という事実だった。


 部屋の中に、少しの沈黙があった。外の風の音がした。薄い風だった。




「七つの役割のうち」とエドワードは言った。「今残っているのはこれだけか」


 目が棚の薬草を見ていた。道具を見ていた。開いた記録帳を見ていた。


「はい」とルイーゼは言った。「ここでやっていることです」


「七つ、全部を一人でやっていたのか」


「同時には無理です」とルイーゼは言った。「役割によって時期がありました。外交文書は冬場が多かった。魔法陣は夏の間は動かせなかった。農業試験場は春から秋まで」


「それを誰かに言ったか」


「言う相手がいませんでした」


 エドワードは少しの間、棚を見ていた。何かを数えるような目ではなかった。何かを確かめる目だった。七つのうちの最後の一つが、この小屋にある、という事実を確かめていた。


「外交文書の代筆は、あなたがいなくなった翌月に止まった」とエドワードは言った。声が平らだった。感情を抜いた報告だった。「社交界の人脈は、半年で自然に解体した。魔法陣は、三人の術者を入れたが、いずれも修正点が分からなかった」


「知っています」とルイーゼは言った。「行商の人が話していました」


「他に何か聞いたか」


「農業試験場の収量が落ちたこと。薬の処方が変わって合わない人が出たこと」とルイーゼは言った。「それくらいです」


「それだけで十分だ」とエドワードは言った。静かな声だった。


「農業試験場は、今年の報告書が最後のものになった。疫病対策の処方書は——台帳に骨格しかなかった」


「骨格だけでは使えませんか」とルイーゼは言った。


「使えない。肉付けができる人間がいない」


「そのための台帳でした」とルイーゼは言った。「引き継ぎのための」


 エドワードは少し沈黙した。「引き継ぎ相手が見つからなかった」


「探しませんでした」とルイーゼは言った。声は平らだった。「私も探す立場にはありませんでした」


「孤児院は」とエドワードは続けた。「先月、資金が尽きた」


 それだけを言って、止まった。


 ヘンリクが椅子の上で微かに動いた気配があった。


 ルイーゼは棚の前に立ったまま、何も言わなかった。孤児院が閉まった。知らなかった。行商の話には出てこなかった。あそこには子供が六人いた。今年で七歳になるユーリもいた——ルイーゼは一度だけ会いに行ったことがあった。王太子の「補佐役」として、資金調達の名目で。子供たちは名前を呼んでくれた。自分の名前を、子供たちに呼んでもらったことがあった。


 手のひらに、今日の薬包の感触がまだあった。ヤヌシュが「卒業」と繰り返した声がまだ耳の近くにあった。それが今、少し遠くなった。


「……そうですか」とルイーゼは言った。


 手が止まっていた。薬草の束を持ったまま、次の動作がなかった。石臼の柄が視野の端にあった。触れようとした——触れなかった。乾いた薬草の匂いが鼻の奥にあった。今日ずっとそこにあったはずの匂いが、今だけ遠かった。


 言えなかったのではなかった。言う言葉がなかった。


 ユーリ、という名前が、ひとつだけ浮かんで、消えた。


 それだけだった。感情的ではなかった。事実として受け取った。受け取った、ということが手のひらの奥に重さを持った。




 少しの間があった。


「何のために、ここにいるのか」


 エドワードの声だった。問いというより——問いだった。しかし責める声ではなかった。「戻ってくれ」という言葉の手前で、その一歩手前でした問いだった。


「……薬を届けるためです」とルイーゼは言った。


「それだけか」


 ルイーゼは少し考えた。考えた——というより、確かめた。自分が今ここにいる理由を。石臼の冷たさを。今朝まだ引いていない仕込みを。今日のヤヌシュの顔を。ミナの礼の声を。


「今は、それだけです」


 エドワードは少しの間、窓の外を見ていた。それから言った。「毎日、診があるのか」


「毎日ではありません」とルイーゼは言った。「必要な時だけです。呼ばれることもあります」


「一人でやっているのか」


「村の人が手伝ってくれます。ヘンリクさんも」


 その一言が、部屋の中に残った。


 エドワードは何も言わなかった。ヘンリクも言わなかった。「今は」という二文字が空気の中にあった。今は——ということは、今だけかもしれない、ということでもあった。しかしルイーゼにとってそれは引きでも誘いでもなかった。事実だった。今は、それだけだった。


 それ以外のことは、今はなかった。




 戸が開く音がした。


「少し外の風に当たる」とヘンリクは言った。椅子の音があった。足音があった。扉が閉まった。


 二人だけになった。


 ルイーゼは棚の前に立ったまま、動かなかった。エドワードは壁の近くに立っていた。部屋の狭さが、今は少し違う圧力を持っていた。人が一人減った分、距離が変わった。


 外の風の音がした。ヘンリクの足音が遠ざかった。


 沈黙があった。


 重くはなかった。ただ——そこにあった。七年間の沈黙とは違う種類の沈黙だった。七年間の沈黙には形がなかった。今日の沈黙には、二人の輪郭があった。




「七つ目の役割を見つけたのは、最近だ」


 エドワードが言った。


 ルイーゼは棚を向いたまま言った。「知っています。白い台帳を開いたんでしょう」


「どうして分かる」


「そうでなければ、ここには来ない」とルイーゼは言った。「七つの役割を全部確かめた人間でなければ、この場所を探す理由がありません」


 エドワードは少し黙った。「台帳を読んだ」


「何が書いてありましたか」


「七つの役割と、七年間の記録が」とエドワードは言った。「毎月の報告の形で」


 ルイーゼは何も言わなかった。


 沈黙があった。


 エドワードが言わなかった。言えなかったのかもしれなかった。認めることが、今の彼には難しかったのかもしれなかった——白い台帳を七年間開かなかった事実と、開いてから辺境まで来た事実が、どちらも本当のことだった。


「七年間、一度も開かなかった」とルイーゼは言った。


 静かな声だった。怒りではなかった。責める声でもなかった。事実だった。七年間の重さを感情で持たず、事実として持っていた人間の声だった。


「——それでよかったと思っています」


「なぜ」とエドワードは言った。一語だった。


「開かれていたら、私はここにいなかった」とルイーゼは言った。「別の場所にいたか、別のことをしていたか。今ここでやっていることは、七年間があって初めてここにある。そういうことです」


 エドワードは何も言わなかった。


 靴底が、石床をわずかに鳴らした。動いた、というより——重心が少し動いたような音だった。ルイーゼは棚を向いたままだったが、その音は聞こえた。膝の上で何かが動いた気配があった。手だったかもしれなかった。


 ルイーゼはそこを見なかった。見ない、と決めたわけではなかった——今はそこを見る必要がない、とただ感じた。そこに何があるかは、今は見ないままでいい。


 ルイーゼは言葉を続けなかった。続ける必要がなかった。あの台帳に何が書いてあるかは、書いたルイーゼが知っていた。七年間書き足し続けたものが何かも、知っていた。それを七年間誰も開かなかった——それが今の王国の形を作った。


 しかしルイーゼは今、それを重く言いたかったわけではなかった。


 ただ、事実だった。事実として言った。


 窓の外の光が橙色を深めていた。小屋の中が少し暗くなっていた。棚の薬草の形が、光の中に沈みかけていた。指が薬草の端を確かめようとして——止まった。今日は、まだ一度も石臼を触っていなかった。




 話が一区切りついた頃、エドワードは少し間を置いた。


 それから、言った。


「明日も来ていいか」


 ルイーゼは少し止まった。


 来ていいか——「戻ってくれ」ではなかった。「連れ戻す」でもなかった。ただ、明日もここに来ていいか、という問いだった。その問いの形に、何かがあった。昨日の朝、薬草採りの場所で足音が遠ざかっていったことを、ルイーゼは思い出した。声をかけなかった男が、今日は声をかけた。かけた言葉が「明日も来ていいか」だった。


「……明日の午前は、村の薬草管理があります」とルイーゼは言った。「午後であれば」


「分かった」とエドワードは言った。「午後に来る」


 それだけだった。


 息が、少し変わった。呼吸の深さが、ほんの少し変わった——気づいたのは気づいた後だった。指先が薬草の茎の乾いた表面に触れていた。硬かった。その硬さが、今ははっきりとあった。視線は棚の上に置いたまま、どこかに向けるでもなく、ただそこにあった。




 扉が開いた。ヘンリクが戻ってきた。


「そろそろか」と彼は言った。


「はい」とエドワードは言った。「今日はここまでにする」


「明日、村の者に迷惑はかけないでくれ」とヘンリクは言った。


「分かった」とエドワードは言った。「昨日の朝、薬草採りの邪魔をした」


「知っている」とヘンリクは言った。「本人に言え」


 エドワードはルイーゼを見た。「邪魔した」


「いいえ」とルイーゼは言った。「採り終えてから気づきました」


 ヘンリクがエドワードを連れて小屋を出た。扉が閉まる前に、エドワードが一度だけ振り返った。何かを言おうとして——言わなかった。扉が閉まった。


 足音が遠ざかっていった。二人分の足音だった。一方は村の靴の音で、もう一方は硬い靴底の音だった。やがてどちらも聞こえなくなった。


 小屋の中が、静かになった。


 ルイーゼはしばらく棚の前に立っていた。


 それから、石臼に手を触れた。


 冷たかった。


 朝から一度も触れていなかった石の柄が、一日分の冷えを蓄えていた。指の節に、その冷えが来た。今朝の冷えとも、昨日の冷えとも違う——今日一日、触れられなかった冷えだった。小屋の中でずっとそこにあり続けた冷えだった。


 今日は、ここに触れなかった。


 明日の午後、エドワードが来る。その前に、午前の薬草管理がある。今日の仕込みの続きがある。夜のうちに明日の準備をしておかなければならなかった。


 手のひらに、石の冷えが染みていた。


 ルイーゼはそのまま、少しの間だけ、石臼の柄を握っていた。動かさなかった。ただ握っていた。今日一日の重さが、石の冷たさの中にあった。ヤヌシュの「卒業」という声も、孤児院が閉まったという事実も、「それでよかったと思っています」という自分の声も——みんな今日の冷えの中に収まっていた。


 手が、少し温まり始めた。


 石臼が、少しだけ温かくなった。



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