お呼びです
男が後ろに立っていた。
足音がなかった。水場の石畳の上で、ルイーゼが桶を降ろした瞬間、気配が背後にあった。振り返る前から分かった——三日前に水場で目が合った、あの男だった。
「ルイーゼ様」
名前を呼ばれたのは、王都を出て以来、初めてだった。その呼び方で。
ルイーゼは振り返った。
男は以前と同じ格好をしていた。旅装束。腰に短刀一本。荷袋は細かった。目は変わっていなかった——感情の薄い、何かを確認するための目。ただ今は、確認が終わった後の目をしていた。
「……村の者ですが」とルイーゼは言った。
「存じております」と男は言った。「ただ——王太子殿下がお呼びです」
事務的な口調だった。感情が入っていなかった。男はその台詞を何度も練習してきたか、あるいはそれが仕事の言葉に過ぎないかのように、淡々と言った。
ルイーゼは男の目を見た。逃げなかった。三日前と同じように、視線を外さなかった。
頭の中で、何かが静かに動いた。七年間、宮廷で積んだ知識が、また自然に動き始めていた。
来た。
来ることは分かっていた。この日が来ることも、こういう言葉で来ることも、おそらく想像できていた。だから怒りはなかった。驚きもなかった。ただ——今、手のひらの中に桶の取っ手があった。薬草を煮出した液が、蓋をした陶器の中にあった。これからバルタ婆さんの家に届けなければならなかった。昨日も届けるつもりで、バルタ婆さんの膝の腫れが昨日より悪化していると朝にコラから聞いていた。
「……私は今、村人に薬を届けなければなりません」とルイーゼは言った。
男は一拍止まった。
返しを想定していなかった顔だった。拒絶でも、恐怖でも、逃走でもなかった——ただ今の仕事を述べる声で、女は言った。
「……薬を」と男は繰り返した。
「はい」
男はしばらく黙った。その間に、ルイーゼは桶を持ち直した。薬の入った陶器が揺れないよう、布で口を押さえた。いつもの動作だった。男の視線が、その手元に一度だけ落ちた。
「では、薬を届けた後で」と男は言った。「そちらが終わってからでも——」
「どのくらいかかるか、分かりません」
「今日中に、ということであれば——」
「一緒に来ていただけますか」
男が止まった。
ルイーゼはすでに歩き出していた。桶を左手に、陶器の袋を右手に持ち、水場を出て村の南へ向かう道に入っていた。
男は少しの間だけ立っていた。
それから歩いた。
ルイーゼは振り返らなかった。足音が後ろについてくることを、背中で確かめながら進んだ。石畳が終わり、土の道になった。両側に畑の刈り後があった。麦の切り株がまだ残っていた。冬が来たばかりだった。冷えた空気が鼻の奥に入ってきた。
「……失礼ですが」と男が言った。「私が同行するということは、あなたは私を——」
「旅の方なのでしょう」とルイーゼは言った。「村の道は不慣れかもしれません。道案内になります」
男は何も言わなかった。
ルイーゼも何も言わなかった。
道が左に曲がった。バルタ婆さんの家は村の南端、一番外れの小屋だった。遠くはなかった。歩いて半刻もかからない。
男の気配が一定の距離に保たれていた。近すぎず遠すぎず——警戒しているのか、この状況を処理しようとしているのかは分からなかった。ただ、ついてくる意志はあった。
バルタ婆さんの家が見えてきた。
扉を叩いた。返事があった。ルイーゼは戸を引いて中に入った。
「ルイーゼさん、今日も来てくれたの」
バルタ婆さんは囲炉裏の脇に座っていた。膝に布をかけて、小さな椅子に体を預けていた。顔色は悪くはなかったが、動くたびに眉が少しひそまった。
「昨日より腫れていますか」
「うーん、どうかね。朝よりはましかもしれない」
ルイーゼは袋から陶器を取り出した。布の栓を確かめて、婆さんの膝元に置いた。
「飲み薬と、外に塗るものを分けてあります。飲む方は、今夜の食後に」
「分かった分かった。……あら、そちらの方は」
バルタ婆さんの視線が、戸口に立ったままの男に止まった。
「旅の方です」とルイーゼは言った。「道案内をしています」
「そう」と婆さんは言った。「遠くから来たのかい」
「……王都の方から」と男は言った。
「ほう、王都か。遠いね。寒くなかったかい、道中」
「……はい、少し」
「山越えは辛かろう」とバルタ婆さんは言った。「何日かかった」
「……五日です」と男は言った。
「そうだろうそうだろう。山越えは今の時期が一番厄介だ。この子にいい薬草でも分けてもらいな」
男は答えなかった。ルイーゼは婆さんに塗り薬の使い方を短く説明して、残りの薬草を棚の脇に置いた。
「三日後にまた来ます。それまでに、腫れが増すようなら早めに呼んでください」
「あなたも気をつけてね」と婆さんは男に言った。「王都に帰るなら、山は早めに越えな」
「……ありがとうございます」と男は言った。
「ありがとうね、ルイーゼさん」
扉を閉めた。
外に出ると、男が口を開いた。
「次はどこへ」と彼は言った。
「次があるとは言っていませんが」
「……まだあるのですか」
「今日はあと一件あります」とルイーゼは言った。「子供の家です。発熱が続いていて、昨日から薬を変えたので、経過を見なければなりません」
男はしばらく何も言わなかった。
「……子供は、重いのですか」と男は言った。
「今は峠を越えつつあります」とルイーゼは言った。「四日前は危うかった」
男は何も続けなかった。
ルイーゼは桶を持ち直して歩き出した。今度は村の中心を通る道だった。顔見知りの農家の前を通ると、軒先にいたドネルが手を上げた。ルイーゼも手を上げて返した。ドネルの目が男に一度だけ落ちた。何も言わなかった。
村の中心の広場を横切った。石を積んだ井戸の前を過ぎた。
「……あの、一つ聞いてもよいですか」と男は言った。
「どうぞ」
「殿下のお呼びを、断っているということですか」
ルイーゼは少し間を置いた。
「断っていません」と彼女は言った。「今、薬を届けています」
「……それは」
「終わってから、お話しします」
男は押し黙った。
広場の端を曲がったとき——ヘンリクが立っていた。
村長の老人は、まるで最初からそこで待っていたかのように、石の塀に背をあてて立っていた。両手を前で組んでいた。目はすでに、ルイーゼではなく男に向いていた。
「おや」とヘンリクは言った。穏やかな声だった。「一緒に歩いているのか」
「道案内を」とルイーゼは言った。
「そうか」
ヘンリクが一歩前に出た。
男の歩みが少し止まった。
老人の立ち方が変わっていた。背筋が一本通ったような——村長というのはそういう立ち方をするのだとルイーゼは七年間知らなかったが、今のヘンリクはその立ち方をしていた。短い体が、前より大きく見えた。
「旅の方」とヘンリクは言った。「これはどういう用向きか」
男は一拍置いた。それから、ためらいを少しだけ見せてから言った。
「……これは、王命でございます」
「王命か」
「はい」とヘンリクは言った。「殿下の御意向により、この方を——」
「この村では、村の仕事が先だ」
老人の声は大きくなかった。静かだった。ただ、一文字も動かない硬さがあった。
男は何かを言おうとして、止まった。
「王都のことは王都でお決めください」とヘンリクは続けた。「ここはこの村だ。ルイーゼさんは今、この村の仕事をしている。それが終わるまでは、私が間に立ちます」
男は老人の顔を見た。ヘンリクは動かなかった。視線も動かなかった。
一歩も引かない目をしていた。
男の口が一度開いた。閉じた。
何かを言おうとした形跡が、喉のあたりに残っていた。王命という言葉を、もう一度押し出そうとした。だがヘンリクの目が動かなかった。老人は何の感情も乗せず、ただそこに立っていた。男の肩が、ほんのわずかに落ちた。
ルイーゼはその横で桶を持ったまま立っていた。何も言わなかった。言う必要がなかった。
「……承知いたしました」と男はようやく言った。「では、仕事が終わるまで、待ちます」
「村の外れで待つのが良い」とヘンリクは言った。「ここでは仕事の邪魔になる」
男はルイーゼを一度だけ見た。「……終わったら、声をかけていただけますか」
「分かりました」とルイーゼは言った。
子供の家は広場から三軒先だった。
ミナの末の子——名前はヤヌシュといった——が四日前から発熱していた。今日は三度目の訪問だった。扉を開けると、ミナが振り返って「ルイーゼさん」と言った。その声の質で、ルイーゼには少し良くなっていることが分かった。
「昨夜は下がりましたか」
「夜中に一度上がったけど、明け方には下がった。今はこれくらい」とミナは手を額に当ててみせた。
ルイーゼは桶から布を取り出して手を拭き、子供の額に触れた。熱はあった。だが昨日よりも、皮膚の感触が違った。昨日は皮膚が紙のように乾いていた。今日は少しだけ柔らかかった。
「峠は越えたと思います」
「本当に?」とミナは言った。
「明日、もう一度来ます。それまでは今の薬を続けてください。水はできるだけ多く」
「ありがとう。本当にありがとう、ルイーゼさん」
ルイーゼはヤヌシュの額から手を離した。子供は眠っていた。薄い毛布の中で、細い呼吸をしていた。手のひらの熱が、指先に少し残った。
戻り道、ヘンリクはもう広場にいなかった。
男も、見えなかった。村の外れに戻ったのだろうと思った。
小屋に帰り着いたのは、日が山の稜線にかかる頃だった。桶を棚に置いた。陶器の袋を洗った。手を洗った。水が冷たかった。指の節が少し赤くなっていた。
夕飯の準備をした。麦を炊いた。干した野菜を汁に入れた。一人分だった。
食べながら、今日のことを頭の中で整理した。
男は王命を持ってきた。ルイーゼが「薬を届けなければならない」と言ったら、ついてきた。ヘンリクが間に立って、男は村の外れに引き下がった。断った、という言葉は一度も使わなかった。ただ仕事をした。それだけだった。
王命がなくなったわけではなかった。男は待っている。明日も来る。あるいは今夜、また来るかもしれない。
ただ——今夜、ルイーゼには仕事があった。
夜、薬草を仕込んだ。
臼で粉を挽いた。指の腹が臼の縁に押し当てられるたびに、木の冷たさが来た。乾燥した葉が砕けて、粉になった。匂いがした。苦い、土に近い匂いだった。薬草の粉は手のひらに積もった。指が白くなった。
仕込みながら、何かを考えていた、というよりは、何も考えずに手だけ動かしていた。
男が来た。それは来るべきときに来た。それだけのことだった。
エドワード殿下がお呼びです——その言葉が、夜になっても頭の中に静かに残っていた。感情の形をしていなかった。怒りでも恐怖でもなかった。ただ——「来た」という事実として、そこにあった。
来た、ということは、向こうで何かが動き始めた、ということだった。
密偵一人が先に来て、様子を見て、そして今日接触してきた。王命を持って来た。それだけの体制を敷くということは、単に補佐役を取り戻したいというより——何かが切迫しているか、あるいはエドワード自身が何かを理解したか。どちらかだった。
疫病の処方書がどこにも見つからない——そういうことかもしれなかった。
処方書がない。写しも残っていない。王都の薬師たちが持っているはずの知識が、どこにも形として存在しない。ならばその知識は、誰かの頭の中にしかないことになる。文字ではなく、経験として積まれた何か。ルイーゼはそれを、師から教わっていた。教わった、というより——七年かけて体に入っていた。
臼の動きが止まった。
考えるべきことではなかった。今夜の仕事があった。今夜の仕事をした。それだけでよかった。
もう一度、臼を動かした。
小屋の外が静かだった。
夜が深くなっていた。どこかで木が軋む音がした。壁の隙間から細い空気が入ってきて、薬草の匂いがかすかに揺れた。冬の入り口の夜だった。
それから、外の空気が変わった。
音ではなかった。気配だった。遠い、何かの気配。村の外れより、もっと遠い——道の向こう、山の麓、あるいは山越えの道の入り口あたりから、何かが近づいてくる気配がした。
ルイーゼは臼を持ったまま止まった。
耳を澄ました。虫の声はもうなかった。木の葉が風に鳴る音もなかった。静かだった。
それなのに——来る、という確信があった。
密偵が来るのとは違う気配だった。馬の蹄の響きに似た何かが、まだ遠かったが、確かにこちらへ向かっていた。
村の外れにいる男は、今夜王命の続きを告げに来るかもしれなかった。あるいは来ないかもしれなかった。
ただ、その向こうに——何かがあった。
臼の粉が、手のひらに白く積もっていた。




