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エドワードの決意

 白い表紙の台帳が、机の端にあった。


 七ヶ月間、そこにあった。エドワードは一度も触れていなかった。触れない理由があったわけではなかった。ただ——七つ目が何かを知ることが、どういう意味を持つか、どこかで分かっていたような気もする。


 昨夜書いた使者への指示書が、乾いたまま折り畳まれて隣にあった。




 朝、クレマンが来た。


「昨夜の指示書の件ですが」と彼は言った。「発送前に一点、確認させていただきたいことがございます」


「言え」


「密偵に何を確認させるか——それは、現地での接触も含みますでしょうか。あるいは引き続き観察に留めるか」


 エドワードは窓の外を見た。


 朝の王都だった。空は灰色で、光が斜めに差していた。外交府の煙突から煙が上がっていた。遠くの廊下の窓がまだ暗かった。先月より暗い窓が増えていた。


「引き続き待機させる」とエドワードは言った。「接触はまだ早い」


「承知いたしました」とクレマンは言った。「もう一点——疫病の件で、宮廷医師バルター殿から夜明け前に追加の報告が入っております。患者数が昨日より二十名増えています」


 エドワードは何も言わなかった。


「対処法について、殿下のご判断を——」


「代替の処方ができる薬師はいないのか」


「各地の薬師に問い合わせを出しております。ただ今年の流行型に対応できる配合となると——今のところ、王都内にそれができる者が見当たりません。台帳の骨格に近い処方を試みた者が一名おりましたが、効果が出なかったとのことです」


 効果が出なかった。


 骨格はある。やり方は書いてある。しかし骨格を薬に仕上げる最後の判断が、誰にもできない。


「……わかった。引き続き探せ」


「はい」


 クレマンは出ていった。扉が閉まった。


 部屋に朝の光だけが残った。




 エドワードは机に戻り、紙を広げた。


 六つの項目が書いてある紙だった。昨夜見ていた紙と同じだった。七つ目の欄が空のままだった。


 一つ目。外交文書の代筆。

 二つ目。社交界の人脈管理。

 三つ目。魔法陣の維持。

 四つ目。農業試験場の運営支援。

 五つ目。疫病対策の調薬処方。

 六つ目。孤児院の資金調達。


 六つが失われた。六つが動かなくなった。一つが動かなくなるたびに、それが何だったかを初めて知った。


 六つ目についても、昨夜クレマンから概況を聞いていた。資金の流れが止まっている。後継の担い手が見つかっていない。孤児院の運営は今も続いているが、それを支えていた仕組みは、すでに機能していない。エドワードは昨夜その事実を聞いて、うなずいた。感情的になることはなかった。六つ目もそういうことだった、と思っただけだった。


 七つ目。


 エドワードはペンを持たなかった。


 六つを並べて、六つとも動いていないことを確かめた。昨夜指示書を書いたとき、六つでは全体が見えないという感覚があった。七つ目の欄が空であることが、地図の端が切れているような感触を呼んでいた。


 代わりに、机の端に手を伸ばした。


 白い表紙の台帳を引き寄せた。




 表紙には何も書いていなかった。


 他の台帳には表紙に記録の種類が書いてある。青い表紙には「疫病対策・処方記録」とあった。別の台帳には「社交界人脈・第二巻」とあった。しかし白い表紙の台帳には、文字が一文字もなかった。


 それが七ヶ月間、エドワードの目の端にあり続けた。


 表紙を開いた。


 最初のページは白紙だった。


 二ページ目も白紙だった。


 三ページ目に、文字があった。


 細い字だった。他の台帳と同じ筆跡だった。ただ——書き方が違った。他の台帳は目次から始まる。書式が整っている。この台帳は違った。目次がない。ページ番号がない。最初の文字が、いきなり本文から始まっていた。


 エドワードは読み始めた。




 読み終えるのに、どれくらいかかったか分からなかった。


 朝だった光が、気づくと昼に変わっていた。台帳は三十ページほどの分量だった。細い字で、密度高く書かれていた。速く読もうとしても速く読めなかった。一度読んで、また戻った。


 最初に止まったのは、中ほどのある段落だった。処方の話ではなかった。魔法陣の話でもなかった。ある人物の名前と、その人物がどう動いたかを、淡々と記した一節だった。内容を声に出すことはできない種類のことだった。しかしその記述が、何かの角度を変えた。七年間エドワードが持っていた構図に、別の層が重なった。


 もう一度、そのページに戻った。二度読んだ。それでも意味が変わらなかった。


 さらに読み進めて、終わりに近いところで、また手が止まった。七つ目の役割が書かれている箇所ではなかった。それより前の、ある記述だった。書かれていたのは事実だけだった。判断も評価もなかった。ただ事実だけが、細い字で並んでいた。エドワードはそのページをしばらく見ていた。読めていた。しかし読んだ後に何が来るかを、内側が少し遅れて受け取っていた。


 机の上に、台帳が開いたままあった。


 エドワードはしばらく何も言わなかった。部屋に誰もいなかった。窓の外に秋の光があった。光は静かだった。


 王家の秘密——という言葉は、台帳には使われていなかった。台帳に書かれていたのは、もっと具体的なことだった。もっと静かな書き方で、しかしページを読み進めるほどに重くなることが書いてあった。


 書いた者は、この台帳を誰かに読ませるつもりで書いていた。その誰かが誰であるかを明示していなかったが——読み進めるうちに、エドワードには分かった。この台帳が机の端に置かれていた理由が分かった。


 七年間、この台帳を持っていた人間がいた。


 この台帳を誰にも渡さず、最後に机の端に残していった。




 エドワードは紙を取り、ペンを持った。


 七つ目。


 書こうとした。手が少し止まった。


 何と書けばいいか、分かった。ただ、書くことで何かが確定する気がした。名前をつけることで、七年間その重みを自分が一切知らなかったという事実が確定する。


 それでも書いた。


 ペンを置いた。


 書いた文字を見た。息が一度、ゆっくり出た。意識して吐いたわけではなかった。ただ出た。胸の中に何かが収まった、という感触ではなかった。むしろ逆だった——書いたことで、ここから先に何かが続くことが確定した。その重さが、静かに肩のあたりに来た。エドワードはしばらく動かなかった。紙の上の文字を見たまま、部屋の光の中にいた。


 書いてから、その文字を見た。


 七年間、エドワードはこの台帳の存在を知っていた。白い表紙の台帳がある、ということは知っていた。しかし内容を知る必要はないと思っていた——道具が管理している記録を、なぜ確認しなければならないのか。道具は機能していた。機能しているうちは、中身を問わない。


 そういう判断が、七年間続いていた。


 恐れる、という感情が今どこかにあった。


 道具として連れ戻すつもりだった。昨夜、使者への指示書を書くとき、そのつもりだった。処方書の知識が必要だった。魔法陣の管理者が必要だった。外交文書の代筆が必要だった——必要なものを取り戻すための動きをしていた。


 しかし今、台帳に書いてあったことが頭の中にある。


 あの人間が、何を知っているか。


 七年間、何を見ていたか。


 七年間、何を抱えていたか。


 それが初めて——問いではなく、実感として、立ち上がってきた。




 クレマンが昼前に再び来た。


 扉を開けると、エドワードは机に向かったまま動かなかった。机の上に白い台帳が開いていた。


 クレマンは一度だけ止まった。


 白い表紙の台帳が開かれているのを、七ヶ月間で初めて見た。


「失礼いたしました」とクレマンは言った。「時間が悪ければ——」


「いや、入れ」


 クレマンは部屋に入った。扉を静かに閉めた。


 エドワードは台帳を閉じなかった。机に開いたまま置いて、顔を上げた。


「六つ目の孤児院の件だ」とエドワードは言った。「確認が必要だと昨夜思った。今どうなっているか、今日中に報告を入れろ」


「承知いたしました。それと、新たな薬師候補が一名——」


「それも続けろ」


 クレマンは報告を述べた。エドワードは聞きながら、手元の紙に走り書きをした。指示を出した。確認を求めた。


 一通りが終わった後、エドワードはクレマンを見た。


「クレマン」


「はい」


「七つ目を書いた」


 クレマンは何も言わなかった。


 紙の上に、七つの項目が並んでいた。クレマンはその最後の項目を見た。読んだ。その文字を一度見て、視線を上げた。


「……そうでございましたか」


「知っていたか」


「内容の詳細は存じませんでした」とクレマンは言った。「ただ——白い台帳があることは、七年間ずっと知っておりました。補佐役様がお持ちだった。管理されていた。それだけは、知っておりました」


「読んだか」


「いいえ。一度も」


 エドワードは窓の外を見た。


 昼の光だった。空の色が少し変わっていた。


「七ヶ月間、机の端にあった」とエドワードは言った。「七ヶ月間、私も開けなかった」


 クレマンは答えなかった。


「七年間、私がこれを知らなかったことを、あの人間は知っていた」


 部屋が静かだった。蝋燭は昼なのでまだ点けていなかった。窓の光だけが机の上の白い表紙を照らしていた。


「……そのようだったかと」とクレマンはゆっくりと言った。「事実として申し上げますと——それを承知の上で、最後にここへ置いていかれた、ということでもあります」


 エドワードはしばらく何も言わなかった。


 台帳の白い表紙を見ていた。




 辺境の空は、王都より広く見えた。


 朝の光が東の稜線に当たっていた。ルイーゼは石臼の脇に座り、乾燥した薬草をほぐしていた。指が葉の表面を確かめながら動いた。厚い葉は朝の冷気を含んでいた。薄い葉はすでに乾いて、指先がわずかに沁みた。


 冬が来ていた。


 ヘンリクが小屋の扉を開けたのは、日が少し高くなった頃だった。


「昨夜も動かなかったようだ」と彼は言った。いつものように、挨拶より先に用件を言った。


 ルイーゼは薬草の束を置いた。


「まだいるのですね」


「村の外れから離れていない。見張りのドネルが今朝も確認した。火を入れた形跡がある——昨夜も泊まったようだ」


 ヘンリクは入り口の框に腰を下ろした。小屋の中を見回した。棚の薬草、臼、乾燥させるために吊るした束。


「王都から動きがあるかもしれない」と彼はゆっくりと言った。「あの若い男が動かずここにいるのには、理由がある。待っているのだろう。何かを」


「……そうですね」


「帰れない事情があるのか、帰るより待つ方が良い理由があるのか——どちらかだ」


 ルイーゼは臼の縁を一度だけ指でなぞった。木の冷たさが指先に来た。


「帰るより待つ方が良い理由がある、と思います」


「そう思うか」


「あの目でした。見当がついた目でした。確認ができた目でした。ただ、あの夜の動き方から見て——それで引き上げるなら、あの夜に動いていたはずです。動かなかった。まだここにいる」


 ヘンリクは少しの間黙った。それから短く言った。


「指示を待っているのか」


「おそらく」


 外で風が一度鳴った。木の葉がもう少なかった。山の斜面の色が変わっていた。


 ヘンリクは立ち上がった。扉の外に目をやって、また戻した。


「何かあれば呼びに来い。いつでも」


「わかりました」


 扉が閉まった。


 小屋に静けさが戻った。


 ルイーゼは薬草の束を取り直した。指が葉をほぐす動作を再開した。朝の冷気は変わらなかった。石臼の重さは変わらなかった。仕事の手順は変わらなかった。


 ただ、何かが動き始めていた。その音がここまでは届かない。




 夕方、エドワードはクレマンを呼んだ。


 昼の報告を終えて、部屋に一人で長い時間があった。台帳は机の端に戻されていた。白い表紙が、光が変わる中でずっとそこにあった。


 クレマンが入ってきた。


「密偵からの報告はいつ来る」


「早くて明後日の朝かと。指示書を受け取り、確認を返してくる形であれば——」


「報告を待つな」


 クレマンは少し止まった。


「……殿下」


「馬車の手配をしろ。二日以内で用意できるか」


 部屋が静かだった。クレマンは一度だけ、机の上の七つの項目が書かれた紙を見た。それから白い台帳を見た。


「できます」とクレマンは言った。「ただ——どちらへ?」


 エドワードは台帳を一度だけ見た。


 窓の外に夕暮れが来ていた。王都の屋根が橙色に染まっていた。遠くの廊下の窓がいくつか暗かった。患者の数は今日も増えているはずだった。


「辺境だ」とエドワードは言った。「私が行く」


 言葉が部屋の中に置かれた。


 クレマンは答えなかった。一拍の間があった。それから静かに言った。


「……承知いたしました」




 夜、エドワードは七つの項目が書かれた紙を見た。


 七つ目の文字を見た。書いた字だった。知った上で書いた字だった。


 七年間、エドワードは七つ目を知らなかった。知ろうとしなかった。道具の管理している記録を確かめる必要がなかった——そういう判断だった。悪意ではなかった。ただ、それが七年間続いた。


 今日、初めて知った。


 七年間何も知らなかった自分を、今どう思うかを言葉にすることが、エドワードにはできなかった。後悔という言葉が近いような気もしたが、正確でない気もした。嫌悪に近かった——しかし嫌悪を持てるほど、まだ整理がついていない。


 知った。


 それだけが今日確かになった。


 動かなければならなかった。七つ目を知った以上、動かないことは選べなかった。動く理由が一つから二つになった——あるいは、動く理由の質が変わった。


 紙を折り畳んだ。


 白い台帳を手に取って、引き出しの中に入れた。鍵をかけた。


 明後日、馬車が出る。


 それだけが今夜の事実だった。



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