夜の記憶
コラが粥を食べた翌日、ミナが来た。
小屋の前に立っていた。両手に布包みを持っていた。
「これを」とミナは言った。「パンと干し果物です。たいしたものではないですが——」
「ありがとうございます」
「こちらこそ」とミナは言った。「先日は、本当に……」
言葉が続かなかった。ルイーゼは包みを受け取った。
「コラは回復しています。食欲はありますか」
「昨日よりよく食べています。走り回りそうで、逆に困っているくらいです」とミナは少し笑った。
「それは回復の証拠です」
しばらく間があった。ミナが何か言おうとして、止まった。
「どこで——」とミナは言った。「どこで、そんなに薬草のことを覚えたのですか」
「王都にいたとき、記録を管理していました。七年間分の疫病の処置記録です。現場にいたわけではありませんが——記録は読み込んでいました」
「書類で、覚えた」
「はい。ただ、書類と実際は違います」
「コラを見てくれたとき、違うと思いましたか」
ルイーゼは少し間を置いた。
「思ったより、熱かったです」と言った。「書類の数字より、ずっと」
ミナは何も言わなかった。目に水気があった。
「ラウルも礼が言いたそうでしたが、不器用なので」とミナは言った。「川でのこと、感謝しています」
「わかっています」とルイーゼは言った。「川でのことで、足りています」
夕方、ヘンリクに薬草棚の増設を頼んだ。
「足りなくなってきました。乾燥のスペースがあと二段あると助かります」
「作れる者に頼んでおく。いつまでにいるか」
「来月の初めまでに。季節が変わると使う種類が変わります」
「わかった」とヘンリクは言った。一度、棚の方を見た。それだけだった。ヘンリクは特別扱いをしなかった。礼の言葉も、評価の言葉も出なかった。何かを頼むと「わかった」か「できない」かが返ってきた。
七年間、何かを頼んで「わかった」と言われた記憶が、一度もなかった。
夜になった。
指の第二関節に、羽ペンの軸が当たっていた。
七年間、そこで止まっていた。
ルイーゼは記録帳を広げていた。薬草の残量。今週の気温。コラの回復の経過——三行書いた。今夜の記録はそれで終わった。
扉をノックする音がしたのは、蝋燭が一段細くなった頃だった。
「眠れているか」とヘンリクの声がした。
「大丈夫です」
「無理に眠らなくていい」
「……ありがとうございます」
靴の音が廊下を遠ざかった。扉の向こうに静けさが戻った。
ルイーゼは記録帳に目を戻した。三行。王都の夜なら、これが十ページになった。外交書簡の草稿、席次の確認、農業試験場への報告——手が動いている間は、翌朝が来なかった。
七年間で一番多く交わした会話は、短かった。
「ミルフェラへの返書が必要だ。今週中に」
「わかりました」
「それだけでいい」
それだけだった。ありがとう、も、よくやった、も、なかった。翌日また書類が来るだけだった。
「宴の席次を今夜出せるか」
「今夜は他の書類が——」
「今夜出せるか」
「……わかりました」
七年間、そういう会話だった。名前は一度も呼ばれなかった。呼ぶ必要がなかった。廊下で「補佐役様」と言えば、返事が来た。それで足りていた。
廊下だった。石畳だった。七年間だった。
「補佐役様、外交書簡の件を」
「補佐役様、明日の席次の確認を」
「補佐役様、こちらに署名を」
名前ではなかった。役職だった。呼ばれるたびに「わかりました」と言った。こなした。こなすたびに次が来た。
怒っているか、と七年間で一度だけ自分に問いかけたことがあった。
答えが出る前に、翌朝の書類が来た。
怒りより先に疲れていた。怒りに気づく前に、翌日の仕事が来た——七年間、それが繰り返された。怒るためには立ち止まる必要があった。立ち止まる暇が、一度もなかった。
書く手が止まると、手が覚えているものがある。
外交書簡を三稿まで書き直すときの手。条約の文言を修正しながら参考書類を三冊同時に開く手。日付が変わっても提出に間に合わせるために夜通し書き続けた手。インクが乾く前に次の行へ移ったから、左の小指の側面に黒い染みがいつもあった。
今はない。
左の小指を見た。ドネルの畑で使った木灰の白さが少し残っていた。コラに煎じ薬を飲ませた夜のかすかな草の色が爪の際にあった。王都の染みとは、色が違った。
疫病の流行時期には、人数を記録した。
何人が発熱して、何人が回復したか。王都の各区画の件数。薬草の消費量と治癒率の相関。数字は正確だった。誰が読んでも理解できるように整理されていた。
一人ひとりに額があることを、書いている間は考えなかった。人数として記録した。
コラの額は、思ったより熱かった。
手に当たった熱は、数字ではなかった。書類の中の「回復率」ではなかった。ミナに言いかけて続かなかった言葉がある。続かなかったのは言葉がなかったからではなかった。手のひらにコラの熱の感触が残っていたからだった。
王都を出た朝は、静かだった。
追いかける足音はなかった。呼び止める声もなかった。奇妙なほど静かだった。怒りを期待していたのかもしれない。誰かが「待て」と言うのを、どこかで待っていたのかもしれない。
誰も来なかった。
七年間の廊下は今もあそこにあって、書類も台帳も全部残っていて、ただルイーゼだけがいない。怒りをぶつける相手も、許すべき何かも——今はそういうものではなかった。ただ疲れた、という事実だけが、静かに残っていた。
七年間、疲れていた。疲れていたということに、今夜初めて気づいた。
蝋燭がもう一段細くなった。
ルイーゼは記録帳を見た。三行だった。薬草の量。気温。コラの様子。
王都の七年間で、三行で終わった夜は一度もなかった。
ペンを置いた。インクの蓋を閉めた。机の上に三行だけ書かれた記録帳が残った。
消えるまで待とうと思った。しかしそれより先に目が重くなった。
机の上に頭を置いた。冷たかった。木の机の冷たさは、石畳とは違う種類の冷たさだった。
窓の外で、秋の虫が鳴いていた。夏の終わりより少し低い音だった。
それを聞きながら、ルイーゼは眠った。
翌朝、机の上で目を覚ました。何かを夢で見た気がしたが、思い出せなかった。虫の声は、もうなかった。




