第8話:改竄された未来
あれからの後日談。
冴子さんは、無事に従兄弟である「鈴木慶太」に引き取られた。
彼は、俺とは真逆の好青年で、大手上場企業に勤めるナイスガイだった。
親族であること、生活能力――そのどちらも満たしていることで、彼が身元引受人となった。
冴子さんの父親は、借金を重ねた末に自滅した。
コンビニでの万引きで取り押さえられ、そこで全てが露見したらしい。
彼らには、何度も頭を下げられた。何度もお礼を言われた。
そのたびに、胸の奥に太い釘を打ち込まれるような感覚が残る。
そして、あの二人。
親族という関係を、とうに越えているような距離感だった。
……俺の入る余地なんて、最初からなかった。
だが、それでいい。
直接じゃない。それでも、守ることはできた。
せめて今世くらいは、幸せに生きてほしいと切に願う。
それだけでいいはずなのに――
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「おまえ、冴子のこと好きやったんやろ?えらい美人やったしな」
「…」
「なんとか言えや、この一件で助けたら惚れられるかも!とか思てたんやろ」
「…」
「けど、ナイスガイの慶太がおるから無理やな!金もあるし、イケメンやし、従兄弟通しやから結婚もできるし!」
「…」
「あーこれあれやな!俗にいう、『セルフNTR』やな!ギャハハハハ!!!」
「『セルフNTR』なんて言葉あるか!」
「効いてる効いてる!!笑」
「…」
(このクソ女…)
確かに、流れだけ見ればそうかもしれない。
だが、それでいい。
もし万が一、いや億が一、冴子さんと共に過ごす未来があったとしても。
俺のデポル狩りは止まらないだろう。
だから――最初から、近づかない方がいい。
大切な人ほど、遠ざける。
それが、今世で決めたルールだ。
「……って、お前」
ひとみの声で、意識が戻る。
「泣いてるやん!?」
「……?」
頬を触る。
濡れている。自分でも驚いた。まだ、こんなものが残っていたのかと。
張り詰めていた何かが、ようやく切れたのかもしれない。
「ごめんごめん!言い過ぎたって!女なんか星の数ほどおるんやから、メソメソすんなや、女々しい奴!」
(あーーー、結構殴りたいな)
俺は、この件で理解した。
冴子さんが助かった。未来は変わった…のかもしれない。
――それでも。
(俺の中の怒りは、何一つ消えていない)
冴子さんが助かったとしても、幸せになったとしても。
前世で起きたことは、消えない。
正義のヒーロー面するつもりはない。なりたいとも思わない。
だが、今もどこかで、辛い思いをしている人達がいる。アイツらのせいで。
…だから俺は、狩る。
デポルを。
今はまだ、小さな積み重ねだ。だが、いつか必ず。
力を持ち、仕組みを変え、この国から排除する。
それが。
二度目の人生を与えられた、俺の使い道だ。
大阪での一件はひとまずこれで片付いた。
これから徳島に戻り、もう一つの案件に着手する。
(彼女は、デポル絡みでなければいいけど。)
デポル絡みの事件は、圧倒的に都会が多い。
特に、大阪、東京。
身体一つでは範囲は知れているが、やれることを地道にやるしかない。
「さて、明日から徳島か」
やかましいひとみを振り切り、バスに乗り込む。
徳島でもやることがある。
ビジネスを広げるための人材確保。そしてそれは――
(デポルを狩るための、基盤に繋がっていく)
両方、手に入れる。
大阪の夜景が、ゆっくりと遠ざかっていく。
それを眺めながら、目を閉じた。
――次は、守るだけでは終わらせない。
今度は奪いにいく。
次話から新章が開幕します。
私がずっと登場させたかったキャラがようやく出てこれます。
楽しみだなぁ。




