第9話:完璧な彼女は、三度死ぬ
新章が始まりました。
ようやく好きなキャラをかける。
時計の針が巻き戻る。だがそれは、過去へ戻る感覚ではない。
理そのものが書き換えられていく。
二〇〇六年十一月一日、十八時。
彼女が命を投げ出した「未来」から――すべての始まりである二〇〇五年五月三日へ。
・
・
・
ドイツ人の父と、日本人の母を持つ私は、整いすぎている。
自分で言うのも何だが、顔も、体も、配置も。まるで、誰かが意図して「美しく組み上げた」みたいに。
金髪のストレート。ポニーテールにすれば、輪郭が際立つ。ダークブラウンの瞳に、やや吊り気味の二重。身長は百六十九センチ。今も伸びている。
芸能人やアイドルなんて、比較対象にもならない。そう思える程度には、完成されている。
――胸以外は。
鏡を見るたびに、思う。
(よくできた人形だな)
そんな私、加藤・ベアトリクス・めぐみは――
たった今、三度目の自殺で、死んだ。
父は、一年前に死んだ。
信号待ちをしていた私たちに、暴走車が突っ込んできた。父は私を庇い、そのまま即死した。
犯人は、謝罪すらせず、それどころか逆ギレしていた。
母は――何もしなかった。
それから、壊れた。
いや、元々壊れていたのかもしれない。
時々、母の首元が、掻きむしったような赤い肌の色になっていることがあった。
酒に溺れ、遺産を溶かし、そして私に手を上げるようになった。
「今日は、どれにする?」
そう言って、包丁とリモコンを並べる女になった。
最初は殴るだけだった。
次は、物を投げるようになった。
最後には、刃物を向けるようになった。
逃げ場はない。助けも来ない。
だから私は、死んだ。
一回目も。二回目も。三回目も。
そして、またここにいる。
目を開ける。
線香の匂い。黒い服。泣き声。父の葬儀。
「……また、ここか」
これが、始まりの日。
何度も繰り返してきた。そして、これが最後になる。
あの時、現れた女神。
名は、「アステリア」。
『蘇りは三回まで』
『どんな死に方でも、この日に戻る』
勝手にルールを決めて、勝手にいなくなった。
そして。
『能力をやる』
そう言った。
「……一回も使ってないんだけど」
何の能力なのかも、分からない。発動条件も、分からない。
――どうでもいい。
もう、これが最後だ。
全部終わる。
そう思っていた。
棺の前に立つ。
白い布に包まれた、父はもう動かない。
「……」
そっと、手を伸ばす。
「……?」
錯覚だと思った。
そう思いたかった。
だが指先から、何かが抜けていくような感覚があった。
自分の中の「何か」が、静かに流れ出ていくような。
「……うーん、気のせい、か」
それ以上は考えなかった。
考える意味もない。
どうせ、また全部終わる。
そういえば、あの女神は、最後に余計なことを言った。
『ヒントをやる』
面倒くさそうな声で。
『徳島県立防緑高校に行け』
「はあ?」
防緑高校。偏差値は低い。ヤンキーも多いと聞く。
私なら、もっと上に行ける。これまでの三回は、そうしてきた。
そして、同じように絶望して、死んだ。
『私の都合もあるから』
そう言って、アステリアは消えた。
(都合って何よ……)
意味が分からない。
けれど。
「……まあ、いいか」
どうせ最後だ。
同じことを繰り返しても、意味はない。
だったら。
「違う道、選んでみるか」
ほんの少しだけ。
期待している自分がいることに気づいて、少しだけ笑った。
(バカみたい)
死ぬための人生なのに。
それでも、私は歩き出す。
制服のまま。線香の匂いの中で。
「……防緑高校」
その名前を、呟いた。
その選択が、自分の人生だけではなく――誰かの運命を、大きく書き換えることになるとも知らずに。




