第10話:異物_めぐみ案件編(前編)
教室に入った瞬間、違和感があった。
いるはずのない人間が、そこにいた。
前世で見た顔は、ほとんど覚えている。
少なくとも、このクラスに「あんな存在」はいなかった。
金髪。高身長。整いすぎた顔立ち。だが問題はそこじゃない。
空気が、浮いている。
周囲と馴染んでいるようで、どこにも属していない。
笑っているのに、何も乗っていない。
作り物のような人間。
(なんだ、あれ)
ただの転校生?で片付けていい違和感ではない。
俺の行動が未来をズラした影響か。それとも全く別の要因か。
少し考えて、やめた。
(今はいい)
俺の目的は変わらない。デポルを狩る。そのための基盤を作る。
高校を選んだ理由も同じだ。
勝手を知っている。時間を読める。余計な手間がかからない。
だからビジネスに割ける時間を最大化できる。
それで十分だ。
「おい、あの子見てただろ」
横から声をかけてきたのは山上。前世でもそこそこ絡みのあった男だ。
「さっきからずっとじゃん。お前だけじゃないけどな」
「目立ってるしね、中々こんな田舎ではお目にかかれない美人だ」
「そりゃそうだろ。入学初日であの存在感だぞ?しかもドイツ人のハーフらしい」
「……へぇ、よく知ってるね」
「今盗み聞きした、あと俺は山上」
(あっそう、、、名前は知ってるよ)
くだらないやり取りを流しながら、もう一度だけ視線を向ける。
彼女は、誰かと笑っていた。
完璧な笑顔。
だが、
(中身がない、前世の言葉を引用するなら、精巧に作られたアンドロイドだな)
そう感じた。
経験上、関わっても良さそうだが、ひとまず放置だな。別にやることもある。
(注視はする)
それだけ決めて、視線を切った。
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私は、女神『アステリア』の言う通り、防縁高校に入学した。
正直、期待はしていない。
どうせ私は――また死ぬ。
十一月一日、十八時。そこに向かって進んでいるだけの人生。
ただ今回は、少しだけ違う。
(防縁高校、ね)
これまで選ばなかった道。だから、ほんの僅かだけ変化を期待している自分がいる。
校舎は古く、空気もどこか淀んでいる。けれど嫌いじゃない。どうせ長くはいない場所だ。
そして私の周囲には、いつも通り人が集まる。
視線。興味。好意。嫉妬。
全部、見慣れている。
だから私は、いつも通り振る舞う。
笑う。合わせる。受け流す。八方美人。
それでいい。
(家に帰るより、ましだから)
人と話していれば、少しだけ紛れる。あの家のことも、母のことも。
……ほんの少しだけ。
そんな中で、一人だけ。
明らかに違う男がいた。
他の男子は分かりやすい。視線に熱がある。欲がある。
でもあいつは違う。
見ているのに、興味がない。値踏みするような、冷たい目。
(何あれ)
不快。
だが、それ以上に引っかかる。
まるで――
「ここにいるのが間違い」だと言われているみたいだった。
なのに、もう一度見てしまう。
あいつは、もうこちらを見ていない。何事もなかったように前を向いている。
(……気に入らない)
どうせここでも同じだ。
告白されて、断って、消耗していく。そして最後は――死ぬ。
それだけのはずなのに。
ほんの少しだけ、心が揺らぐ。
(何かが変わるかもしれない)
そう思ってしまった自分がいる。
窓の外を見る。
等間隔に並ぶ木々。その向こうにある、色褪せたテニスコート。
何気ない、しかし見たことのない風景。
それでも――
ほんの少しだけ、退屈ではないと思えた。




