↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/159

第10話:異物_めぐみ案件編①

二〇〇六年四月。


徳島県立防緑高校。


ーー久世フェーズ


教室に入った瞬間、違和感があった。


いるはずのない人間が、そこにいた。


前世で見た顔は、ほとんど覚えている。


少なくとも、このクラスにあんな存在はいなかった。


金髪。


高身長。


整いすぎた顔立ち。


だが、問題はそこではない。


空気から、浮いている。


周囲と馴染んでいるように見えて、どこにも属していない。


笑っている。


けれど、その笑顔には何も乗っていなかった。


作り物のような人間。


(なんだ、あれ)


ただの転校生では片付けられない。


俺の行動が、未来をずらした影響か。


それとも、まったく別の要因か。


少し考えた。


すぐにやめた。


今はいい。


俺の目的は変わらない。


掠奪種デポルを狩る。


そのための基盤を作る。


この高校を選んだ理由も同じだ。


前世で通っていた。


教師も。


校舎も。


授業の進み方も。


ある程度は分かる。


余計なことに時間を取られない。


その分、金を稼げる。


法律を学べる。


デポルを探せる。


それで十分だった。


「おい。あの子、見てただろ」


横から声をかけてきたのは、山上だった。


前世でも、そこそこ絡みのあった男だ。


「さっきから見てたじゃん。まあ、お前だけじゃないけどな」


「目立ってるしね」


もう一度だけ、彼女を見る。


「こんな田舎では、なかなか見ない美人だ」


「そりゃそうだろ。入学初日であの存在感だぞ」


山上は声を落とした。


「しかも、ドイツ人とのハーフらしい」


「……へえ。よく知ってるね」


「今、盗み聞きした」


悪びれた様子もない。


「そういえば、俺は山上。山上ゆうや」


「久世恒一」


名前は知っている。


だが、初対面としての形は整えておく。


山上の話を流しながら、もう一度だけ視線を向けた。


彼女は、周囲の生徒と笑っていた。


完璧な笑顔。


誰が見ても、綺麗だと思うだろう。


だが。


中身が見えない。


空白を、笑顔の形で覆っているように見えた。


危険には見えない。


少なくとも、デポルではなさそうだ。


ただ。


放置していいとも思えなかった。


俺が知らない人間。


前世には存在しなかった人間。


それだけで、確認する価値はある。


今すぐ動く必要はない。


まずは見る。


何をするのか。


誰と関わるのか。


なぜ、ここにいるのか。


注視だけしておく。


それでいい。


俺は視線を切った。



ーーめぐみフェーズ


私は、女神アステリアの言葉に従い、防緑高校へ入学した。


正直、期待はしていなかった。


どうせ私は、また死ぬ。


十一月一日。


十八時。


そこへ向かって進んでいるだけの人生だ。


ただ、今回は少しだけ違う。


防緑高校。


これまで一度も選ばなかった道。


だから。


ほんの少しだけ、変化を期待している自分がいた。


校舎は古い。


廊下の床は、歩くたびに軋む。


教室の窓枠も、少し色褪せている。


設備も新しくない。


制服も、特別可愛いわけではない。


けれど、嫌いではなかった。


どうせ長くはいない場所だ。


そう思えば、何もかも他人事のように眺められる。


そして。


私の周囲には、いつも通り人が集まった。


視線。


興味。


好意。


嫉妬。


全部、見慣れている。


だから、いつも通り振る舞う。


笑う。


話を合わせる。


相手が求める返事をする。


面倒なことは、受け流す。


八方美人。


それでいい。


家に帰るよりは、ずっとましだ。


人と話していれば、少しだけ忘れられる。


母のことも。


家の空気も。


父が死んだ日から、全部壊れてしまったことも。


ほんの少しだけ。


そんな中で。


一人だけ、違う男がいた。


他の男子は分かりやすい。


視線に熱がある。


欲がある。


興味がある。


けれど、あいつは違った。


見ているのに、興味がない。


値踏みするような、冷たい目。


まるで私という存在が、本当にここにいるのか確認しているだけだった。


(何、あれ)


不快だった。


けれど。


それ以上に、引っかかった。


まるで。


お前は、ここにいるはずがない。


そう言われているような気がした。


なのに、もう一度見てしまう。


あいつは、もうこちらを見ていなかった。


何事もなかったように、前を向いている。


それが、また気に入らない。


私は、昔から視線を集める側だった。


見られることには慣れている。


けれど、あんなふうに見られたことはない。


欲もない。


好意もない。


嫌悪すらない。


ただ、異物を確認するような目。


どうせ、ここでも同じだと思っていた。


告白される。


断る。


勝手に期待される。


勝手に嫉妬される。


勝手に失望される。


そうやって、少しずつ消耗していく。


そして最後は、死ぬ。


それだけのはずだった。


なのに。


ほんの少しだけ、心が揺れた。


何かが変わるかもしれない。


そう思ってしまった自分がいる。


窓の外を見る。


等間隔に並ぶ木々。


その向こうにある、色褪せたテニスコート。


何気ない風景。


けれど、これまでの人生では見なかった景色だった。


私は頬杖をつく。


静かに息を吐く。


退屈ではない。


ほんの少しだけ。


そう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
― 新着の感想 ―
ほぉほぉ。2人が同じ高校に!
面白くなってきたかも
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。