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第74話:腐敗の進捗

ーー久世フェーズ


二〇一八年五月。


めぐみの拉致事件。


山本誠との対峙。


あれから三年が経ち、俺は二十八歳になった。


大阪市長としての任期は、最後の一年に入っている。


若い世代からの支持は厚い。


治安政策。


被害者支援。


行政手続きの簡素化。


防犯予算の拡大。


表向きには、いくつも成果を出してきた。


報道は、必要な時だけ俺を改革派市長と呼ぶ。


都合が悪くなれば、強権的、排他的、危険思想と呼ぶ。


その程度のことには、もう慣れた。


三年前。


山本誠に飲ませた条件で、俺は法曹協会の常任理事になった。


ひとみは、副代表理事になった。


山本とは、あれ以来一度も直接会っていない。


協会にも、ほとんど顔を出さない。


実務は別の人間に流し、自分は奥に引っ込んでいる。


俺たちを入れたのは、飲まされたからだけではない。


監視の目的もあるのだろう。


法曹協会の中へ入れば、こちらも中を見られる。


だが同時に、向こうもこちらを近くで見られる。


法曹協会のトップであり、デポルでもある。


そして、山本誠は別の名前も使っている。


篠倉怜司。


政治家ではない。


だが、総理大臣を裏から支える右腕。


後に黒瀬から仕入れた情報だ。


かなり手強い敵だ。


やはりあの時、消しておくべきだったかと、たまに思い返す。


黒瀬と播磨には、様々な方面から情報を集めさせている。


報道。


法曹協会。


政府。


支援団体。


表に出ない人間関係。


様々な情報を拾ってくるが信用はしていないし、その必要もない。


播磨は、めぐみの拉致に繋がる情報を売り、黒瀬はそれを利用した。


どちらも同罪だ。


だから、ボロ雑巾になるまで使ってやる。


そのあとは言うまでもない。


井口おさむは、三年前に特別行政省の副大臣になった。


そして今日、正式に大臣となる。


行政の管理。


地方自治。


情報通信。


郵便。


その全てに手を伸ばせる場所だ。


井口は大阪で作った檻を、国へ広げようとしている。


特別行政省の大臣。


法曹協会のトップ。


国の行政と法を握る者が、どちらもデポルだ。


(いよいよ、この国も終わりだな)


俺は、内心で吐き捨てた。


だが法曹協会の中身は、この三年で少しずつ見えてきた。


全員が敵ではない。


真面目な弁護士。


本気で被害者のために動く者もいる。


その隙間に、デポルがいる。


デポルに都合のいい裁判官もいる。


加害者の更生という言葉で、被害者を黙らせる者もいる。


俺は、常任理事としてその内側を見ている。


ひとみは、副代表理事としてさらに深く潜っている。


山本がほとんど顔を出さない以上、ひとみの行動範囲は想像以上に大きい。


ただ、最近のひとみは、以前より静かだ。


口は悪い。


態度も偉そうだ。


だが、どこか急いでいる。


何かを残そうとしているように見える。


理由はまだ分からない。


そして。


俺自身も、何かが変わった。


怒りが引きにくい。


殺意が、消えたふりをして奥に残る。


それだけではない。


めぐみの姿を確認する回数が増えた。


連絡が少し遅れるだけで、思考が悪い方へ走る。


守るためだ。


そう思っている。


実際、それは間違っていない。


けれど、時々分からなくなる。


俺はめぐみを守りたいのか。


奪われたくないだけなのか。


自分の中で、その境目が少しずつ薄くなっている。


ーーめぐみフェーズ


予備試験、つまり司法試験に合格した。


司法修習も終えた。


私は弁護士になった。


水谷ひとみ法律事務所にも籍を置いている。


恒一のように、特別に修習を免除されたわけではない。


裁判所。


検察庁。


法律事務所。


必要な場所を一通り回った。


その時間は、遠回りではなかった。


法曹協会を見る目が、一つ増えたからだ。


弁護士という肩書きに興味はない。


必要だから取った。


恒一を、最短で魔王にするために。


法曹協会の中で、恒一とひとみだけでは拾えないものを拾う。


恒一と同じ場所から、違うものを見る。


ただ。


私は一つ、業を背負っている。


水谷ひとみ。


ひとみは、法曹協会の副代表理事として中にいる。


表向きは元気に見せている。


けれど、私は知っている。


残り二年。


ひとみの寿命。


女神メルが奪った四十年は、戻らない。


そのことを知っているのは、私だけ。


恒一は知らない。


ひとみは、何もなかったような顔をしている。


法曹協会の中身を剥がす速度が、少しだけ早い。


資料を見る目。


会議での踏み込み方。


事情を知っている私には、それが分かる。


時間を残している人間の動きではない。


だから、私も急ぐ。


ひとみが残そうとしているものを、無駄にしない。


それはきっと、恒一の野望を一段上へ押し上げる。


法曹協会を剥がすだけでは終わらない。


その先へ行くための足場になる。


そして、恒一も変わった。


三年前から、少しだけ。


優しくなったわけではない。


丸くなったわけでもない。


むしろ、静かになった。


けれど、私の予定を確認する回数が増えた。


連絡が遅れた時の沈黙が、少し長くなった。


時々、守るというより、失う可能性そのものを消そうとしているように見える。


あれが恒一自身の傷なのか。


それとも、あの日から混じった別の何かなのか。


もしかすると、女神メルの呪いの因子の影響か。


明日は、大阪市長として任期四年目の最後の年に入ってから最初の記者会見がある。


恒一は、この三年で多くの政策を実行した。


若い世代からの人気もある。


けれど、支持が増えれば、敵も増える。


記者会見には、いつも妙な質問が混じる。


根拠の薄い断定。


論点のすり替え。


加害者の未来だけを守るような言葉。


恒一は、よく耐えていると思う。


昔なら、顔に出ていたかもしれない。


今は違う。


怒りを隠して、言葉で返す。


それでも、私は知っている。


恒一の中の境界は、薄いままだ。


三年前の地下駐車場。


私を見た時の恒一。


あの顔を、私は忘れていない。


守るために壊れる人。


だから、私がいる。


私は会見予定の資料を閉じた。


明日。


(恒一は大丈夫だろうか)


そう思いながら、窓の外を見る。


大阪の夜は、何も知らない顔で光っている。


世間は被害者の前で、加害者の未来を語る。


当たり前の顔で、日常に潜んでいる。


だから、剥がす。


言葉から。


制度から。


恒一が外から殴るなら、私は中から切る。


三年前、私は追いつくために勉強した。


今は違う。


もう、隣にいる。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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