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第65話:盤外の手_白日開示編⑧

東京都内・ビル

ーー篠倉フェーズ


画面には、ニュースサイトのコメント欄が流れていた。


”デポルが戸籍を乗っ取り? やばすぎて草”


”ということは、隣人がデポルの可能性も微レ存?”


”大阪市長、陰謀論者で草”


”でも千件規模って数字出してるの怖すぎる”


”ソースは? どうせ選挙パフォーマンスだろ”


”デポルとかいう単語が出た時点で信じる気なくした”


”でも市長が生放送で言うって相当じゃね?”


”これ本当なら国終わってる”


くだらない。


画面を見ながら、そう思った。


国民は、何も分かっていない。


だが、反応だけは早い。


恐怖する。


笑う。


疑う。


怒る。


そして、次の話題が来れば忘れる。


それがこの国の市民だ。


だから扱いやすい。


そして、だから腹立たしい。


別のモニターには、久世恒一の映像が流れていた。


大阪市長。


二十五歳。


弁護士。


被害者支援を掲げる若い政治家。


馬鹿な若造だ。


だが、馬鹿という言葉だけで片づけるには、火のつけ方が悪質すぎる。


久世恒一は、証拠を全部出していない。


むしろ、出していないことを武器にしている。


誰が関わっているのか。


どこまで掴んでいるのか。


井口おさむと連携しているのか。


それとも、単独で火をつけたのか。


分からない。


それが、最も不快だ。


「発言の取り消しを求めますか」


背後で、秘書の女が言った。


「遅い」


画面から目を離さずに答える。


テレビ、生放送で言われた、からではない。


問題は情報を小出しにしたことだ。


千件規模と言った。


これは東京から大阪に送ったデポルの数だ。


この若造は、啖呵を切っているのだ。


″中身は見た。黒幕よ、出てこい″と。


「消しますか」


女の声が少し低くなった。


消す。


簡単な言葉だ。


久世恒一を消すこと自体は、不可能ではない。


事故。


病気。


不祥事。


襲撃。


若い市長が表舞台から消える理由など、いくらでも作れる。


だが、今ではない。


今消せば、誰もが考える。


久世恒一は、本当のことを言ったから消されたのではないか。


陰謀論は、死体を餌にして太る。


久世恒一が死ねば、あの発言は完成してしまう。


それだけならいい。


井口おさむは、それを利用するだろう。


それすらも奴らの術中なのかもしれない。


「今は消さない」


秘書は、何も言わなかった。


納得など必要ない。


必要なのは、手段だけだ。


私はモニターを見た。


久世恒一。


金や地位。


欲に飢えているようには見えない。


敢えてデポルを出した。


なるほど。


デポルを恨んでいるクチだな。


そんな人間はごまんといる。


被害者の一人という仮説は当たらなくとも遠からずではないか。


被害者支援。


弁護士。


デポル。


思考が整理されていく。


久世恒一。


君は正義の側に立ったつもりなのだな。


では、脅しだけでは足りない。


そういう男は、自分が壊れることには鈍い。


なら、周囲を使うしかない。


水谷ひとみ。


法務側の女。


久世の近くにいる弁護士。


法曹協会に所属している。


呼び出すだけなら簡単だ。


″山本 誠″。


法曹協会のトップとして通っている私の別名を使えばいい。


協会名義で呼び出す理由など、いくらでも作れる。


だが、それは今ではない。


水谷ひとみを動かせば、法曹協会との線が太くなる。


今の段階で、そこを久世に見せる必要はない。


それに、付き合いの長さで言えば、加藤めぐみの方が餌として大きい。


黒瀬から上がっていた報告を思い出す。


加藤ベアトリクスめぐみ。


金髪の女。


会社の取締役副社長。


学生時代から久世の近くにいる女。


恋人と断定するには材料が足りないか、距離が近すぎるらしい。


久世恒一の反応を見るなら、あれが一番いいだろう。


久世との関係性を世間にちらつかせれば、それだけで報道は食いつく。


若き市長。


金髪の副社長。


被害者支援。


権力。


色のついた物語を作るには、十分すぎる。


そして、必要なら人質にもなる。


答えは決まった。


「加藤ベアトリクスめぐみを取る」


秘書の女が、わずかに顔を上げた。


「拉致、という意味ですか」


「言葉を選べ」


静かに返す。


「保護だ。事情聴取でもいい。行方を一時的に見えなくするだけでもいい」


「黒瀬側に動かさせますか」


「ダメだ。黒瀬には伝えるな」


女が、わずかに目を細めた。


「私のデポルを四名連れて行け」


私の護衛たちは、腕利きのデポルだ。


強盗、傷害。


そういう行為を平然とやってのけてきた残虐者たち。


私の命令しか聞かないが、優秀なコマだ。


黒瀬よりは、十分に信頼を置ける。


やり方はいくらでもある。


久世恒一をこちら側へ引き込む。


無理なら、段取りをして壊す。


「加藤めぐみを押さえれば、久世は動く」


モニターを見る。


久世恒一の映像は、別のニュースに切り替わっていた。


だが、テロップだけはまだ残っている。


大阪市長、戸籍制度に疑惑。


戸籍。


法。


市民。


デポル。


どれも、私の領域だ。


久世恒一。


お前は、手を入れる場所を間違えた。


そう思った。


その時は、本気でそう思っていた。


加藤めぐみを取る。


その判断が、私の人生で最も高くつくことになるとは、まだ知らなかった。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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