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第58話:盤上の政治家_白日開示編①

ーー黒瀬フェーズ


二〇一五年・東京。


東京の雑居ビル。


窓のない会議室の机に、二冊の資料を置いた。


一冊は、井口おさむ。


衆議院議員。


大阪市長を兼任し、治安と秩序の再建を掲げる男。


もう一冊は、久世恒一。


二十五歳。


弁護士。


複数企業の取締役会長。


そして、大阪市長選の候補者。


「井口が、少し目立っているな」


高宮誠司の側近、篠倉怜司が資料を指で叩いた。


井口は危険だ。


だが、使い道もある。


デポルを選び、管理し、社会の中へ置く。


二階堂が失脚した後、井口は大阪へ入り込んだ。


暴れるデポルを減らし、目立つ事件を抑え、危険を制度の中へ押し込んだ。


それが成功なのか、先送りなのか。


まだ答えは出ていない。


「井口一人なら、まだいい」


篠倉が、久世の資料へ視線を移した。


「こっちはどうなんだ」


写真の青年は、華やかな顔ではない。


ただ、目だけが妙に冷えている。


「この五年で、ずいぶん育ちましたね」


二階堂のデポルビジネスを暴いた若者。


司法修習免除。


被害者支援。


防犯事業。


企業経営。


大阪市長選。


経歴は綺麗に並んでいる。


綺麗な人間ほど、汚れた時に絵になる。


「以前は二階堂がお気に入りだっただろう」


「お気に入りではありません」


二階堂は、自分を主役だと勘違いした。


久世は、まだ舞台へ上げられたことに気づいていない。


「久世は、権力を欲しがるだけの若造か」


「それなら利用しやすいですね」


だが、大阪市民は誰かに守ってほしがっている。


被害者の味方。


若き改革者。


大阪から現れた新しい政治の顔。


久世は、今の大阪にちょうどいい。


「潰せるか」


「潰すだけなら簡単です」


すぐに潰す必要はない。


まず、持ち上げる。


どこまで使えるのか確かめる。


落とすのは、その後でいい。


「久世恒一を、全国区にします」


篠倉は資料を閉じた。


久世本人の知らない場所で、値札が付けられた。



ーー久世フェーズ


二〇一五年・大阪。


二階堂を失脚させてから、五年が経った。


井口おさむの政策により、暴れるデポルは減った。


その代わり、社会へ溶け込むデポルが増えた。


怒鳴らない。


殴らない。


仕事をし、人間関係を築き、衝動を制度の中へ薄く溶かしている。


本当に被害が減ったのか。


ただ、見えなくなっただけなのか。


まだ分からない。


井口は五年間、大阪を作り替えた。


俺はその間、井口の後へ座る準備を続けた。


弁護士。


企業の取締役会長。


被害者支援団体顧問。


肩書きは増えた。


目的は変わっていない。


奪う側を根絶する。


「投票前の支持率は悪くない」


めぐみがタブレットを置いた。


「でも、熱量が足りないね。応援している人も半分は他人事」


「最初から本気で怒れる人間は少ないよ」


「だから、風向きが変わったら逃げる」


みずきがノートパソコンの画面を示した。


「昨日から、久世くんの検索数が急に増えてる。自然な動きじゃないと思う」


「黒瀬麗奈か」


報道局プロデューサー兼キャスター。


井口からも警戒するよう言われている女だ。


「この人は、被害者の涙から物語を作るのがうまい」


みずきの言葉に、息を吐いた。


事件に物語など必要ない。


あるのは、奪われた事実。


被害者。


奪った者。


必要なのは感動ではなく、次の被害を止める仕組みだ。


ひとみが事務所へ入ってきた。


「最終演説の政策文言、見たで。あれでええ」


「ありがとうございます」


「ただし、記者は切り取れる言葉を探しとる。余計な本音は言うなよ」


めぐみが笑う。


「デポルを根絶したい、って?」


「さすがに言わないよ」


少し遅れて、山上とあさみも入ってきた。


山上は商店街の要望を整理している。


街灯。


防犯カメラ。


巡回。


夜間営業の不安。


「商店街の人たちは、久世の思想に乗ってるわけじゃない。自分の店と家族を守りたいだけだ」


「それで十分だよ」


あさみは護身研修を、女性、高齢者、店舗向けに分けていた。


恐怖を煽るのではなく、できることを増やす。


表へ出す政策として正しい。


山上とあさみには、選挙と会社を支えてもらう。


俺たちが何を壊してきたのかは、知らなくていい。


巻き込まないことも、守り方の一つだ。


「政策は、治安、防犯、被害者支援、行政改革に絞る」


資料を閉じた。


「デポルという言葉は使わない。加害者の属性にも踏み込まない」


山上とあさみが部屋を出る。


扉が閉じた瞬間、空気が変わった。


めぐみが別の資料を開く。


みずきが画面を切り替える。


ひとみが言った。


「ここからは、ニュースへ出たら終わる話やな」


黒瀬麗奈。


井口おさむ。


そして、東京。


俺が戦う相手は、投票用紙に載っている候補だけではなかった。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
― 新着の感想 ―
久世ちゃんが大阪市長に立候補!? 展開がすごいのはさておき、デポルの謎が知りたくなってきました。
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